忙しすぎて知らなかった
今年はこれが最後の投稿です。
今年はこの小説が書籍化された変化の一年でした。
それも読んでくださる皆さんのおかげです。
来年もよろしくお願いします。
よいお年を!
「クリスとアランを皇太子殿下がお呼びだそうで、兄が迎えに来ているんです。ディアの部屋なので入るわけにいかないので、私が代わりに来ました!」
エルダは今年から、学園にいる間は側近として私の傍にいてくれるようになった。
妖精姫なんて言われちゃっているし、留学生と面会しなくちゃいけない時もあるでしょ? それにニコデムスに狙われてもいるせいで、成人していない子に側近をしてもらうのが気の毒なのよ。
身分的にもある程度の家柄の子じゃないと、露骨に態度を変える人もいるから、ジェマが傍にいられない学園では、エルダとネリーにはすっかりお世話になっているわ。
「こんな時間に?」
そろそろ夕食の時間だし、クリスお兄様は帰って来たばっかりなのに?
何かあったのかな。
「そうなのよね。それに……他にも呼ばれている人がいるのよね?」
エルダが振り返って大きな声で聞いたので、エルトンが開けたままの入り口に顔を出した。
「はい。ノーランドとヨハネスの嫡男が呼ばれています」
「だそうです」
「……エルダ」
その組み合わせってことは、離婚したことに関しての話?
でもそれなら、なんでうちまで呼ばれるの?
「グッドフォロー公爵家の寮でモニカ様とカーラが話し合うそうなので、ディアはそちらに参加してほしいそうです」
「男女で別れるの?」
「婚約者のモニカ様に女性をまとめるのは任せるということではない? 女性同士のほうが話しやすいこともあるでしょう? ディア、ふたりの仲がこじれてしまわないようにしてね」
お母様に言われて頷きはしたけど、全くの部外者の私が顔を出していいのかな。
いちおう円満離婚したのよね。
クラリッサ様はノーランド辺境伯に謝罪して、仲直りしたって聞いたわよ。
「ディアは何が問題かわかってないな」
「離婚したのは知っています」
「途中まで方向が同じだから説明するよ。初等教育課程では問題になっていないし、ディアは学園にあまり顔を出していないから、知らなくても仕方ないよ」
アランお兄様も条件はほぼ同じなのに、知っているのはなぜかしら?
ベリサリオの諜報担当みたいになっちゃっているアランお兄様を、近衛騎士団に配属していいのかね。皇太子は承知のうえみたいだけど。
「まったくくだらない問題を起こしてくれる」
両親に退室の挨拶をして、お兄様達と寮の私の部屋に戻り空間を閉じてすぐ、クリスお兄様が忌々し気に呟いた。
もしかして、私が思っているより深刻な問題?
「いったい何が起きたんですか?」
「この時期の学園の状況をディアは知っている?」
アランお兄様の問いに、クリスお兄様とエルトンはそこから? と言いたげな驚いた顔をした。
「状況?」
「高等教育課程の特に最高学年では、優秀な生徒はもう仕事に就いていて学園にはいないんだ。仕事が決まっていなくても、高位貴族は家庭教師がついているから、ほとんどが試験に合格して授業が免除になっているだろう? つまり後期の学園にいるのは、成績が悪くて授業に出なくてはいけない高位貴族か家庭教師を雇えない下位貴族だけなんだ」
「……知ってますよ?」
え? 私はそんな基本的なことまでわかっていないと思われているの?
アランお兄様の私への評価、最近下がっていない? アホな子だと思われていないわよね?
「エルトンは殿下がいる時しか学園に来なくなったし、ミーアだって結婚の準備で学園に来ないじゃないですか。女性の場合は就職する人は少ないけど、結婚が決まっていればその準備で忙しくなる時期だから、やっぱり最終学年は学園に来ないんですよね」
「決まってなくても、来なくなるんじゃないかな。最終学年なのに学園にいたら、まだ相手がいませんって宣言しているようなもんだよ? エルダやネリーはいそうで心配だね」
「アラン、なにかおっしゃった?」
「いやいや」
ふたりとも私の側近をしてくれているんだから、学園にいるのは半分お仕事みたいなものよ。
「おそらくそれが原因のひとつだと思うんだ。例の真実の愛がどうのっていう噂が学園内でも広まっていて、そこに離婚の話が加わっただろ? それでノーランドとヨハネスの生徒が言い争いになったんだよ」
「はあ? ヨハネスの生徒は、フラなんとか男爵令嬢でしたっけ? 彼女の味方側なんですか?」
「そうだね」
嘘でしょ。カーラとハミルトンが同じ寮にいるのに?
あのふたりの寮での立場ってどうなっているの?
「ああ……学園に残っているのは、深く物事を考えられる人達じゃないんでしたっけ。物語でも読む感覚で噂話を楽しんでいるんでしょうか」
「ノーランドの生徒は関わるなと言われていたようで、すぐに相手にしないで立ち去ったそうだ。それで余計にヨハネスの生徒は頭に来たんだな。廊下でノーランドに対する文句を、大声で言い合っていたんだって」
「そんなヨハネスに注意したのは誰だと思う?」
アランお兄様の説明の途中で、楽しそうにエルダが言い出した。
「誰?」
「なんと、中央の貴族の生徒達だったの」
「へえ」
「もっと驚いてよ」
驚いているわよ。
皇太子の婚約者の実家を、学園の廊下で悪く言っていたんでしょ?
誰が聞いているかわからないような場所で、よくそんなことが出来るわね。
「モニカ様やディアが精霊の森でお茶会をして、中央の子も精霊を持てるようになってきただろ? 新しい商品も中央の老舗の店に任せることにしたし」
「寝具や枕なんて専門外だし、今は忙しすぎて新しい商品まで手掛けられませんからね」
モニカは着々と中央の貴族達に受け入れられている。
精霊の森に琥珀が戻ってくると聞いて、あの森の周囲の土地が買われているそうよ。
皇宮からはちょっと離れているけど、静かで自然が多くて、子供達が精霊に触れ合える機会が増えるでしょ。
「だから中央は、辺境伯家と仲違いしたくないのよ。ヨハネス侯爵領の生徒が変な噂を広めるのは迷惑なの」
クリスお兄様とエルトンが並んで前を歩いて、私はアランお兄様とエルダに挟まれて、説明を受けながらその後ろを歩いている。
話しているからゆっくりした足取りになるじゃない?
ふと周囲を見回したら、なんとなく公園に生徒が増えてきている気がするんだけど。
もう日が暮れる時間帯だし、雪が降っているのよ?
精霊のいない子なんて、ものすごく寒そうなのに何をしているの?
「じゃあ、変なことを言っているのはヨハネスだけ?」
「それと、中央でもなく辺境伯と親しくもなくて、新事業に声をかけてもらえない領地の生徒だな」
アランお兄様がせっかく答えてくれたのに、馬鹿らしくてしらーっとした顔を向けてしまった。
知らんがな。
帝国の全領地の貴族を辺境伯家が世話しないといけないなら、帝国でいる意味って何さ。
「もうあの侯爵家は潰していいんじゃないか?」
「クリス」
「精霊獣が働いてくれているから、大丈夫だ」
他の生徒の目をエルトンは気にしたんだけど、クリスお兄様はふんと鼻で笑って冷めた表情で先頭を歩いていく。
せっかく忙しい仕事が終わって、ベリサリオで家族が久し振りに揃ったのに、またヨハネス侯爵家関係の問題だもんね。機嫌も悪くなるわ。
でもそれより。
「もしかして見物人が増えていません?」
留学生まで、さりげなく公園で談話しているようなポーズをとりながら私達を見ているのよ。
あからさまにこちらを注目している生徒もいるし。
「エルトンも兄上も、最近学園に来ないから」
ひと目見ようと見物に来たのか。
「顔見知りなら声をかけてもらえるかもしれないし、友達に自慢出来るのよ」
「女生徒ばかりだね。ディアやエルダを見に来る男子は少ないのかな」
「あら、いるのは高等学園の女生徒ばかりじゃない? アラン見物はいないのかしら」
私を間に挟んで、左右でじゃれるのはやめてくれないかな。
お兄様達が人気者なのは嬉しいけれど、貴族のご令嬢が暗くなってきているこの時間帯に、外に出て来てまで声をかけてもらおうとするってどうなの。
「高位貴族や優秀な生徒がいなくなると、こういうことになるのね」
「貴族と言っても領地を持たない下位貴族は、平民とあまり変わらない生活をしているからね。学園で問題が起こるのは決まってこの時期だよ」
「だからこの時期の様子を見れば、各領地の教育度合いや、管理体制がわかりやすいだろう?」
足を止めて振り返ったクリスお兄様が、腹黒そうな笑顔を浮かべている。
しっかり見物に来ていた生徒をチェックしていたんだろうな。
その横でエルトンも苦笑いしてるもん。
「ディア、ヨハネス侯爵家は諦めた方がいい」
「え?」
「カーラも意外と普通の子で、特に最近はディアの友人に相応しいとは言えなくなっている」
クリスお兄様は私の頭にそっと手を置いて、顔を覗き込んできた。
「僕はディアが大切なんだ。きみを守るために必要なら、きみの友人であろうと排除するよ」
「クリスお兄様?」
「兄上、突然そんなことを言ったら、ディアが心配しますよ。そうならないように今から話をするんでしょう」
うえっ。そんな重大な話なの?
モニカがいるってことは、皇太子の耳にも入っているってことだから、皇宮でも問題視されてるってこと?
「ヨハネス侯爵家がモニカ様の足を引っ張る存在になるのなら、殿下も放置出来ないんだ。どうもその重大性をヨハネス侯爵家の人達はわかっていないようだね。皇妃の親戚になる人達には、いろんな人達が群がってくるというのに、彼らは隙がありすぎる」
エルトンの話を聞いて、もっと不安になってきたわ。
ノーランドがクラリッサ様を離婚させたのは、娘を守るためでもあったの?
じゃあ孫は?
どういう話になっているの?
うきゃー、ニコデムス問題で慌ただしかったし、商会の仕事と観光業が忙しすぎて、そういう情報を集めていなかった。
……いえ、前から他所の領地の問題にはあまり興味なかったんだった。
助けて、ウィキくん!
「幽霊が恋してもいいですか? 死神の素顔がもろにタイプだったので幽霊生活を楽しみながら美少女幽霊助けます」も連載しています。
https://ncode.syosetu.com/n0432gr/