表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/295

寮での女子会  前編

活動報告に書籍の通販について書きました。


 その後、アランお兄様とパティの間にどんなやり取りがあったのかは知らない。

 でもその日以降、パティの左手首にはいつも細い鎖のブレスレットがつけられるようになった。

 ゴールドの鎖に等間隔につけられたルビーは、パティの髪の色を表しているんだと思うの。その中にひとつだけ、他の石より色が濃い赤茶色をした石が混じっているのに、私はちゃんと気付いているもんね。それってアランお兄様の髪の色だよね。


 十三歳の男の子がさあ、出来すぎでしょう。

 パティはときどき、それは嬉しそうに石にそっと触れているのよ。

 空気が甘く感じるぜ。


 パティと両思いだとわかったアランお兄様は、もうすっかり恋人の態度でたびたび昼食を誘いに来て、当然パティの横に座って食事をする。

 互いの家も公認なんだから、ふたりっきりで食事すれば? って言いたいところなんだけど、そこがめんどくさい貴族社会。良家の御令嬢は、たとえ相手が婚約者になると決まっている相手だろうと、成人してもいないのにふたりきりでべたべたするなんてもってのほかなのだ。

 なので、必然的に私やカーラも誘われる。

 ヘンリーやジュードがついてくる。

 食堂で出くわせばダグラスも同じテーブルになる。

 去年と同じメンバーだわ。


 ただ今年は、私とカミルの仲がすっかり有名なので今なら誤解される心配がないからと、アランお兄様がいる時にはエルドレッド殿下が同じテーブルにいる機会が増えた。


「そんなに有名ですか……」

「前回のデビュタントと兄上の誕生日の両方で、堂々と一緒にいれば誰でもそう考えるだろう」


 暗黙の了解ってやつですよね。

 間違っちゃいないんだけども、ベリサリオからは一切何も発表していないのに、私の婚約は内定しているという空気になっているのは、お兄様達がはっきりと否定しないからだね。


「たしかにあいつは優秀なんだろうが、気に入らない。外国人のくせに兄上と仲が良くて、皇宮に来るとふたりで話し込んでいる。兄上は、なんであんな奴を気に入っているんだ?」


 俺様系だと思っていた殿下は、実は大型わんこ系だった?

 わだかまりがなくなって皇太子と何度も話をした結果、うちの兄貴は世界一って感じで、すっかり心酔しているみたいなんだよね。

 未だに殿下を担ぎ上げて、自分達が政治の主流になろうと考えていた貴族もいたみたいなんだけど、殿下のあまりの皇太子大好きっぷりに、ドン引きして静かになっているって話もあるくらいよ。


「俺もあいつは気に入らないな」


 ぼそりとダグラスが呟いたので、その場が瞬時に静まり返った。

 私がビビるのはわかるんだけど、テーブルにいる他の人まで静まり返るってことは、みんな気付いていたってこと?!

 わかっていなかったの私だけ?!

 誰か教えてよ!


「俺も気に入らないけどしょうがない。あいつは貴重な存在なんだ」


 アランお兄様、怖いフォローをありがとう。

 ダグラスとは、どんな顔をして会えばいいんだろうと心配していたんだけど、今までと全く変わらない様子で話しかけてくれてほっとしたのに、なかったことにしているわけではないのよね。たまにぼそっとさっきみたいなことを言うので反応に困る。

 それとも、もうこうやって話題に出来るくらい平気だよって言うつもりなのかな。わかんないよ。


「クリスと違って、アランは割と冷静だな。もっと騒ぐかと思っていた」

「僕は成人したら領地を離れるから、どうせディアとは会えなくなるんだ。だったら安心して任せられる相手がいた方がいいよ。早めに取り込んでおきたいから、仲良くしておかないと」

「アランお兄様……」

「さすがクリスの弟だな」


 殿下、感心してないでなんか言ってくれませんかね。

 アランお兄様はベリサリオの良心だと考えていた時期もあったっていうのに、実はしっかり腹黒でしたよ。

 カミルが外堀を埋めていこうとしたように、アランお兄様はカミル自体を取り込もうとしているのよ。

 お母様は純粋にカミルを気に入っているから、何かと世話を焼いたり心配するでしょ? 母親を知らないカミルからしたら、気恥ずかしいけど嬉しいみたいなの。

それでアランお兄様は、うちに顔を出せばこんなに楽しいよとアピールして、結婚してからもベリサリオに入り浸るようにする気でいるみたいなのよ。でも、クリスお兄様とお父様があまり協力的じゃなくて、ちっとも計画が進まないみたい。


 それが私としてはありがたい。結果として、みんな静観してくれているから。

 もしかすると、そういう態度を取りつつ好きにやらせてくれているのかもしれないな、なんて思ったりもする。


「まさか、ディアにこんなに早く恋人が出来るなんてね」

「こ、恋人?!」

「私、正直、ディアが最後かと思ってたわ」


 エルダに何か失礼なことを言われた気もするけど、恋人と言われた衝撃で聞き流してしまったわ。

 私が主催の最初のお茶会は、今年もいつものメンバー七人を招待して、部屋の中央に噴水のある部屋で行った。

 去年はイレーネが騒動に巻き込まれて、エルトンを呼んで来たりしてバタバタしたのよね。

 あれからもう一年よ。


「だって、やりたいこといっぱいあるって、いつも忙しそうにバタバタしていたじゃない。男の子が近付く隙なんてなかったでしょ」

「ふたりの兄貴のガードがすごいからねー」


 あはは、と大きく口をあけて笑うエセルも、もう侯爵令嬢よ。

 領地が広がっても、あまり生活は変わらないらしい。

 今は、近衛騎士団入団のための訓練が忙しくて楽しいんだって。


「クリスを、いやいやでもしょうがないと思わせるなんて、カミルはすごいわね」

「もう私の話はいいから、スザンナ、あなたも今度のチャンドラー侯爵家との茶会には参加してほしいの」

「いいけど、どうして?」

「ブリたん、ティアニー伯爵家嫡男との婚約が決まったのよ」


 きゃあっと、みんなの明るい歓声が部屋に響く。

 ティアニー伯爵領は、パウエル公爵の息子さんが治めている東の領地のお隣さん。

 シルクや高級織物の産地として有名で、ティアニー伯爵家紋章入りの絹織物は、他とは一桁違う高級品よ。


 ちなみにパウエル公爵は中央の領地も取り戻しているので、離れた場所に領地がふたつある状態なの。

 息子さんは中央の政治より織物が好きで、東の領地に引っ込んだまま。

 いずれお孫さんが中央の領地は継ぐみたい。


「ビディとティアニー伯爵家嫡男のマイルズ様は、実は幼馴染なのよ」


 中央の噂はパティが一番詳しいのよね。ブリたんとも昔から交友があったみたい。

 年齢差があるから、会う機会はそうは多くなかったみたいだけど。


「じゃあ、もしかしてマイルズ様は、ずっとブリたんを想っていたり?!」


 エルダの目がきらーんと光った。


「そうみたいよ。両親としてもふたりを婚約させる気だったみたいなんだけど、あの状況でビディと婚約したら、世間はティアニー伯爵家もベリサリオに喧嘩を売っているって思うでしょう。だからどうしようかって話になってたみたい」


 招待状がないのに他所の派閥のパーティーに潜り込んで、妖精姫にひどい態度を取ってベリサリオを怒らせたって話は、ブリたんだけでなく周囲にも影響大だったのよね。


「でもほら、ベリサリオ辺境伯とパウエル公爵は、五年前から親しくしているじゃない。その後、ナディア様とキャシー様も和解なさったでしょ。きっとディアもビディを許してくれるだろうって。マイルズ様は卒業までは婚約者を決めないでいたいって、待っていたらしいの。マイルズ様は今年卒業なのよ」

「うわあ。彼女にべた惚れだったのね。そうよね。話せば素敵な子だものね」

「エルダ、なんでメモしているの?」


 もう、ブリたんたら全くそんな話していなかったじゃない。

 私と和解した後に縁談がたくさん舞い込んできたって……話してて……。


「もしかしてブリたんは、マイルズ様の気持ちに気付いてなかった?」

「そうみたい」

「うわ、鈍い」

「ディアには言われたくないと思う」

「ホント」

「あなたのほうが間違いなく鈍いわよ」

「うんうん」


 うっ……。なにも全員で頷かなくても。

 確かに鈍かったわよ。

 自分のことってわからないものなのよ。


「そこがディアのいいところよね。……じゃあ、フェアリー商会のお仕事でお会いする機会が増えそうね」


 みんなに鈍いと言われて、糸目で遠くを見ていた私の肩に手を置いて、スザンナは笑いを堪えた声で言った。

 いいのよ、笑っても。

 でも、なんとなくちょっと、姉妹っぽい雰囲気になれているようで嬉しい。


「そうなの。それにスザンナとブリたんなら、きっと仲良くなれると思うわ。イレーネもエルダも参加するはずだから、話し相手にも困らないわよ」

「そうなのね。喜んで参加させていただくわ」


 モニカとスザンナが婚約者候補になったり、ヨハネス侯爵家とベリサリオが仲違いしたりして、こうして七人で集まる機会は徐々に減ってしまっている。

 それぞれとは会っているのよ。

 エルダやイレーネとは、教本を作るために何度も顔を合わせていたし、スザンナはベリサリオに勉強に来ているから、以前より話をする機会が増えた。

 パティとはずっとふたりでやり取りしていたし、アランお兄様の婚約相手に決まりそうだから、今後も長いお付き合いになると思う。

 スザンナとパティと私。

 ベリサリオも華やかになると思わない?


 一方、会う機会の減った相手もいる。

 エルダはブリたん達といる方が楽しいみたいで、あまりこちらの集いには参加しなくなっている。

 女流作家になると本気で決意した彼女は、部屋に引き篭もって執筆作業をしていることも多いのよ。

 寮ではうるさく言う人がいないから、今がチャンスと引き篭もり生活をしているわ。


 エセルは訓練が忙しいし、モニカは皇宮に通わなくちゃいけない。

 そしてカーラは、ようやくヨハネス侯爵家とベリサリオが表面的にとはいえ和解したのに、新しい問題に巻き込まれていた。



そんなたいした問題じゃないんですけどね(ネタバレ)


いつも感想や誤字報告ありがとうございます。

特に誤字報告! 毎度申し訳ありません。助かっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作の書籍版1巻~6巻絶賛発売中。

i449317

― 新着の感想 ―
[気になる点] 大魔王ディア 「フハハハハハッ……………………  こういうのは近くよりも………  遠くから広めた方が良いのよね❗️  どれくらいでコチラに来るのか?  私が書いた薄い本が私の手元に❗️…
[一言] 恋人!ディアとカミルの関係を言葉にすると恋人!になるのですか?なんか意外…本人たちはそんなこと微塵も思ってなさそうなんですけど、どうなんでしょう? でも外から見るとそうなるのか、とディアと一…
[一言] >私とカミルの仲がすっかり有名なので あぁ、だから焦っている人が出てきているのか。(恋愛要素増大) 他国が絡んできたらカミルにちょっかい出すバカも出てくるかも知れませんね。単純な嫉妬ならと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ