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皇太子の誕生日会

説明回。これで隣国がすべて出揃いました。

今回はちょっと真面目。次回からまた恋愛の話題がちらほら出てきます。

 誕生日の式典が行われる少し前の時間、皇宮の奥まった豪華な一室に帝国の中枢を担う貴族が皇太子と共に集まっていた。

 うちはクリスお兄様と私が参加している。

 お父様と交代して皇宮で仕事をしているお兄様が参加するのはわかるんだけど、なんで私まで呼ばれたんだろう。苦手なんだよな、会議って。


 すでに式典の衣装に身を包んだ皇太子は今年十六歳。

 婚約者を発表したら次に国民が気にするのは、即位と結婚式の日取りだろう。

 どっちもお祝い事だから、みんなも明るい表情で話が出来るねーって言いたいところだけど、全員そろって微妙な顔をしてるのよね。

 私という特別枠の存在のせいで。


「では、もう配れるということで話していいんだな」

「はい。準備は出来ております」


 皇太子の問いに答えたのは、ブリたんのお父様のチャンドラー侯爵だ。

 途中までは私が中心で制作していた教本は、今ではチャンドラー侯爵家に任されている。

 私はルフタネンに行ったり、フェアリー商会の仕事があったりとバタバタしていたし、なによりもブリたんとエルダと愉快な仲間達の本制作にかける情熱が強かった。私は挿絵を渡しただけだったわ。


 最近、地方ばかりの活躍が目立っていたから、ここらで中央の貴族も頑張っているよって広めるのにもいい機会じゃない? チャンドラー侯爵は、今は解散したとはいえパウエル公爵の派閥にいた人で、縁の下の力持ち的な役割で中央再建に尽くしてきた人だし、面倒な制作費の問題や、外国語への翻訳についてもおまかせしてしまっていたんだから、全部彼らの功績でオッケーなのだ。


 ただ何事にも問題は発生するもので、教本の話を聞きつけた諸外国が自国語に翻訳するのはぜひ自国民にと、翻訳家や外交官を帝国に送り込んできたのよ。

 ごたごたしているのは海峡の向こうだけで、もともと国交のある国の外交官はいたよ。大使が常駐している国も多い。だから情報は絶えず国境を越えて飛び交っていて、精霊王や精霊獣の話を聞いていた国々は、何かの機会を見つけて帝国に人を送りつけたいと思ってたんだね。


「今日は妖精姫に接触しようとする者も多いだろう。クリス、ディアをひとりにさせないようにアランに話しておいてくれ」

「もちろんです」


 皇太子がわざわざ言うほど、相変わらず私は危なっかしいらしい。

 クリスお兄様は皇太子と一緒に婚約発表しないといけないから私のお守はしていられなくて、今日はアランお兄様がエスコート役なのだ。


「諸外国から、我が国の学園に留学したいとの申し出が複数来ています。リルバーン連合国からも何人かの受け入れの打診が来ていますよ」


 パウエル公爵の言葉に、いっせいに私に視線が集まる。

 冬場しか開園しない学園に留学するって、来る意味があるのかって話よ。

 特に、一年中授業をしている学校のあるリルバーンのほうが、教育という面では帝国よりずっと進んでいるのに。


「国によってそれぞれですが、おそらく三つほど理由が考えられます。ひとつは、冬の雪に閉じ込められてしまう時期にも、子供の教育を行う手段が欲しいというデュシャン王国のような例です」

「デュシャン王国との貿易はうまくいっているようだな」

「はい。コルケット辺境伯のおかげで、いい関係を築けております」


 北のデュシャン王国はエーフェニア陛下が即位する時の国境戦で負けて、少々国土を帝国に取られている。でもコルケット辺境伯がその土地を、両国で自由に商売が出来る地域にしたおかげで、貿易が盛んになって関係もそこそこ良好らしい。


「彼らが少しでも南に国土を広げたいという気持ちは、私にも理解出来ますからな。しかし、侵略されるのを許す気はない。ならば貿易で互いに必要な物資を、少しでも安く手に入れられるようにするのがいいと思ったんですよ」


 デュシャン王国の人達は寡黙で真面目な人が多いそうだ。何か月も雪に閉じ込められる生活のせいかもしれないね。

 同じく北にあるタブークは、くそ寒いけど雪は少ないらしい。

 私はどっちも嫌だわ。ベリサリオ、最高!


「ふたつめは精霊との付き合い方を学びたいという理由です。連合国やシュタルクなど、ほとんどの国がこれを理由に挙げています」

「連合国としては精霊車の量産と運用は急務だろう」

「さようですな。それと空間魔法と転移魔法を学びたいようです」


 険しい山脈の向こうにあるリルバーン連合国は、小国がいくつか集まり、それぞれの王族が集まった議会で政治を行っている。

 大陸の端にあるこの国は、連合国としてなら帝国よりも面積が広いんだけど、海と山脈と豪雪地帯に囲まれているせいで、他から隔離されてしまっているの。

 海から遠回りしてルフタネンや帝国と貿易するしかないので、小国同士が戦争なんて始めたら、共倒れしてしまう地域なのよ。

 でも連合国になったおかげで人や物資の移動が盛んになって、商人の国と言われるくらいに発展しているし、教育にも熱心で女性も仕事をするのが当たり前という考え方らしい。


 だからね、帝国の精霊車が楽々と山脈を超えて物資を運んできた時には、大騒ぎになったらしいよ。

 馬がいない馬車が、宙に浮かんで移動してきたんだから。

 それまでは、たった一つの険しい街道を何日もかけて行き来していたんだもん。転移魔法も空間魔法も、喉から手が出るほど欲しいのよ。


「リルバーンもデュシャンも精霊王は信仰の対象で、精霊を育ててはいたようですが、対話をするという発想がなかったようですな。教本も非常に感謝されておりますし、他の授業はいいので精霊と魔道具に関しての講義を集中的に受けさせてほしいとのことです」

「精霊王は、たまに運のいい者が見かけることが出来る程度の交流しかないらしいな」

「あとは何年かに一度、お告げをしに姿を現したという話を聞いております」


 皇太子の成人式に、ちゃっかりアーロンの滝にいましたけど?

 人間との共存に力を貸してくれって言ってたよ? 

 帝国で姿を現すくらいなら、自国で顔を出して対話すりゃあいいじゃないの。何をやってるのかね。


「そして最後に、妖精姫と親しくなって自国に連れ帰ろうと目論んでいる国がいくつか」


 えーー、でもさ、留学を受け付けるのは高等教育課程だけでしょ? 同じ教室にならないじゃん。

 校舎への行き来では会うし、茶会に招待出来ても、そんな仲良くなるほど交流出来ないでしょう。


「問題は寮だな。連合国の学園では学園側が寮を用意しているようだが、我が国はあくまでも各貴族が用意した寮に、それぞれの領地の貴族の子息を預かっている形だ。各国用に寮を作るのはかまわないが、今後も留学生が来そうなのはデュシャンくらいだろう」


 皇太子は、大きな椅子に足を組んで座り、肘掛けをトントンと人差し指で叩きながら話をしている。

 もうすっかり大人に囲まれて皇族の仕事をすることに慣れ、威厳さえ出てきた。

 でも相変わらずいつも忙しそうだ。


「いっそ、皇族の寮を増築するか? 各国の動きを把握しやすいぞ」

「おやめください。警備が大変なことになります」


 こういう場ではいつもあまり発言しないパオロがすかさず否定したので、思わずみんなから笑いが漏れた。


「建物の管理は各国にさせればいいですし、使わないというのなら我が国で再利用すればいい。留学生を受け入れないという選択肢はありえないでしょう」


 私の隣に座るクリスお兄様ってば、超不機嫌。

 特にベジャイアとシュタルクからの留学生が嫌なんだよね。私だって嫌だよ。


「まあな。せっかく各国との関係が良好なんだ。留学くらいは受け入れるべきだろう。なに、妙なことをしたら戦う口実が出来る。海峡の向こうに好きに出向けばいいだろう」

「それはいい。さすがに今年は無理でしょうから、来年からということで各国に答えましょうか」


 皇太子ってば、海峡の向こうに軍を出す口実を探しているんじゃないでしょうね。

 そりゃ皇宮にまで入り込んで、私のお友達に毒を盛ったニコデムス教は許せないわよ。このままにしておいては帝国の威信に傷がつくし、どこかで決着をつけなくてはいけないんだろう。

 でも戦争は駄目よ。ペンデルスとの間にはシュタルクがあるんだもの。ただでさえ貴族のせいで精霊王との関係が悪化して、作物がまともに育たなくなっている地域の平民は、大変な思いをしているはずなんだから。

 留学している場合じゃないだろう。貴族の古い習慣や悪い慣例をどうにかしろよと私は言いたい!


「そろそろ、次の話題に移ってもよろしいでしょうか」

「どうした? ノーランド」

「モニカが婚約者と決まったのはいい機会です。我がノーランドは殿下の後ろ盾のメンバーから外れさせて頂きたいと思います。グッドフォロー公爵であれば蘇芳様の担当地域に領地をお持ちですし、私の代わりとして推薦させて頂きます」

「……そうだな。身内の一族が権力を持つ危険性を、皆が心配するだろうな」


 バントックの二の舞になるんじゃないかって心配は、誰もがしちゃうだろうね。

 そっかー。お父様に続いてノーランドも交代か。


「どうだ、公爵。やってくれるか」

「ありがたいお言葉ですが、ベリサリオ辺境伯が御子息と交代なさっていることですし、先のことを考えますと、私が加わるよりは息子のローランドのほうがよろしいのではないでしょうか」

「なるほど。それも一理ありますな」


 ローランド様はグッドフォロー公爵家の嫡男だ。

 年が離れているから接点が少ないけど、真面目で優しい兄だとパティが話していたっけ。


 公爵家三家と辺境伯家三家。特にパウエル公爵と辺境伯三家は皇太子の後ろ盾として政治を支えていたメンバーだけど、エーフェニア様と将軍が皇宮を去ってもう五年。お父様からクリスお兄様に役割変更されたり、辺境伯が代替わりしたこともあって、最近は後ろ盾というよりブレインという捉え方のほうが強くなってきているし、若い人材がメンバーにはいるのもいいのかもね。


「デリックが側近からはずれたことだし、問題あるまい」

「殿下。帝国は今、他国から動向を注目されております。即位は十八になられた年に行う予定でしたが、国民もすっかり今の体制に慣れ、エーフェニア様の統治は過去のものになっております。いっそ来年の末か、翌年の春にでも即位なさってはいかがですか?」

「私もパウエル公爵の意見に賛成です。もはや皇太子のままで(まつりごと)を行う必要はありますまい」

「ふむ。そうだな。私が即位した方が弟も動きやすいかもしれんし……」


 パウエル公爵とコルケット辺境伯の意見に頷いた皇太子は、椅子の肘掛けに頬杖を突いたままで、なぜかじっと私の顔を見つめた。

 今の話の流れで、私が注目される意味がわからない。

 

「この前読んだ本に、連合国の即位式の話が出ていた。あそこでは各国の王が即位する時に、議長が王の頭に王冠を被せるのだそうだ。どうだ? 我が国では妖精姫が私に王冠を与えるというのは」


 うげっ! なんちゅー提案をするのよ。

 

「これ以上、ディアに世間の注目が集まるのは反対です」


 テーブルに手を突いて腰を浮かせたクリスお兄様と皇太子が互いに見つめ合ったまま動かないよー。

 睨み合ってる? 気のせいよ。

 見つめ合っていると思わせて。


「むしろ注目が集まった方が安全だとは思わないか? 皇帝に王冠を与える大役を担うほどに、妖精姫は帝国で特別な存在だと他国に示せる。その特別な存在に手を出すやつがいたら、ベリサリオだけではなく帝国全体がその者を許さないだろう」

「しかし……」


 スザンナも言ってたよね。ベリサリオは怖いんだって。

 特に最近はルフタネンとの貿易が盛んだし、両国の精霊王がしょっちゅう顔を出している。

 この場にいる人達は事情を知っているから何も言わないけど、他の貴族や国民からしたら、ベリサリオは独立しようとしていると思われかねない。


「わかりました。やります」

「ディア!」

「でも、王冠を落としたらごめんなさい」

「……ぎりぎりまで台に置かれている物を、持ち上げて私に被せるだけだ」

「それなら……」


 でも重いんじゃないの?

 落ちて転がっちゃって、拾えなかったら大変だな。


「本当にディアに任せて大丈夫ですか?」

「少し……不安は残るな」


 このふたり、基本的には仲がいいと思うのよ。

 思うんだけどお互いの立場がね、違うからね。守らなくてはいけない物も違うしね。

 そこがまた萌えポイントだと思うんですよ。


「王冠を被せるということは、妖精姫自ら私を皇帝と認めることだ。それは精霊王が認めたのと同じ意味がある」


 精霊王は人間の政治に干渉しないから、認めるなんて宣言出来ないもんね。

 私が代わりに行動で示したってことにするのか。

 別にいいけど。誰も反対してないし。


「アランは近衛として身辺警護に当たり、クリスは参謀として政治に参加。ベリサリオの忠誠には感謝している」

「はあ?! アランが成人したら、僕は領地に帰るって話だっただろう!」


 クリスお兄様! 落ち着いて! ため口は駄目ですよ!!


「そんな話があったか? 私は聞いていないぞ。パウエル公爵、聞いていたか?」

「さあ、存じませんな」


 すーっと冷静な顔になるクリスお兄様がこわい。

 それをにやりと笑って眺める皇太子がこわい。

 終始穏やかな微笑で話しているパウエル公爵もこわいよ。

 私はどうすればいいの? 笑顔か。私も笑顔か!


 「「「……」」」


 え? なんでみんな驚いた顔しているの?


「……さて、時間もありませんし次の話を」

「そうだな……」

「そうですね」


 ちょっと待て。

 それは私の笑顔が一番こわかったってことか?

 そうなのか?!


読んでくださってありがとうございます。


誤字報告、助かってます。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ディア 「平民志向ではなく❗️  私が支配する国家は私が居なくても回る  つまり、私は影の支配者になるのよね❗️」
[一言] いち辺境伯の令嬢が、冠を授ける役……。 リアルで例えれば、 大きな会社の社長が「お前が支社長をやれ」って辞令を出す様な物。 それを大きな場面でやるってんだから、帝国は“ベリサリオ”のデ…
[一言] 山下洋輔トリオの初代ドラマーの方がクラシックのオーケストラにシンバル奏者として参加していた時、曲のクライマックスでシンバルをうっかり落としてしまい会場中にグワラグワラガッシャン!!という大音…
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