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恋バナ?

活動報告に「感想と相関図について」書きました。


 スザンナが来るからって、私には特にやることはない。

 両親とクリスお兄様が、山ほどお土産を持ってオルランディ侯爵家を訪れている間もいつも通りの生活サイクルをこなしていた。

 スザンナはドレスの相談でお母様の元を訪ねたり、私のところに遊びに来たりしていたから城の人間とも顔馴染みだし、いつも通りの雰囲気と笑顔で、ドレスも普段よりちょっと気を使う程度で迎えるのがいいと思うのよ。


 転送陣の間から近い居間で待っている私とアランお兄様の前に現れたスザンナは、ちょっと見ない間に更に綺麗になっていた。

 フリルやリボンの飾りは一切なく白い大きな襟がアクセントになっている藤色のドレスは、首元まできっちりと隠れた清楚で品のいいデザインだ。

 

 夕食を一緒に食べる予定になっているので、それまではディアと話していたらどう? とクリスお兄様に言われて、スザンナを私の部屋に案内することにした。

 クリスお兄様の部屋に行かなくていいの? ってもちろん聞いたわよ。せっかく婚約したんだもん。

 でも正式な婚約は、皇太子の誕生日に皆の前で発表されてからだし、婚約者だからってお兄様の部屋に行くのはまずいらしい。

 ベリサリオでいろいろと勉強しないといけないから、スザンナの部屋を用意したので、そこにクリスお兄様が顔を出すのはいいんだって。


 なんじゃそりゃ! って言いたいところだけど、真面目な話、城内の侵入可能地域が関係しているのだ。

 ちゃんと一族の一員になるまでは、両親や嫡男の私室のあるエリアには入れないんだって。家族の私でも入ってはいけない部屋があるから、そこはしかたないね。

 嫡男とそれ以外では、そのへんまるで扱いが違うのはこの世界では当たり前のことなのよ。 


 私の部屋にスザンナが来たことは今までにも何度もあったから、お互いに慣れたもので、いつものように席に座ってネリーにお茶を淹れてもらう。

 ネリーとスザンナって同級生よ。同じ教室で勉強しているのに、片や私の側近で片や私のお兄様の婚約者。どうしてこうなった。


「ネリーも一緒にどう? 聞きたいことがたくさんあるんじゃない?」

「いいえ。クリス様の婚約者なら侍女の私とは立場が違います」

「侍女じゃないでしょ。あなたは私の側近でしょう」

「筆頭侍女ということでお願いします」


 おーい、伯爵令嬢! なんで侍女になりたがるんだ!


「言っても無駄じゃない? 家が裕福になって掃除や庭の手入れをする人を雇えるようになった時に、掃除が出来なくなったーって泣いてたんだから」

「ガラス磨きが趣味って変人だからね?」

「今は私のことはどうでもいいじゃないですか」


 そそくさとお茶を並べて、ネリーは部屋の隅に引っ込んだ。

 侍女だから立っているのよ。お客様のお世話がすぐに出来るように。

 それが楽しいって言うんだからよくわからん。


「ねえ、ディア。あなたは私がクリスの婚約者に決まったと聞いてどう思った?」


 手に取ったティーカップの中を見つめながらスザンナが言った。


「どうって? 私はあなたでもモニカでも歓迎するつもりだったわよ」

「そうじゃなくて……私は、最初から自分は殿下に選ばれないと思っていたの」

「それは、侯爵家だから?」

「そう。蘇芳様の担当地域を治めているノーランド辺境伯をがっかりさせたくはないでしょ? カーラは瑠璃様担当の地域に領地があるし、候補者になった当初はヨハネス侯爵家とベリサリオ辺境伯家の仲が良かったから、選ばれる可能性もあるかもっておもったけど、私は駄目だろうなって家族でも話していたのよ」


 そうかなあ。

 皇太子の補佐として辺境伯家は三家ともずいぶん近しい位置にいるけど、中央の貴族はパウエル公爵しかいないじゃない?

 辺境伯が帝国の一員になるより前から皇族に仕えていた貴族からすれば、今の状況は不満だと思うのよ。だから侯爵家の令嬢を皇妃にするって、ありえない話じゃないと思ったんだけどな。


「あなたはベリサリオの人だからわからないかも。そんな不満さえ持たないほどに、ベリサリオと妖精姫が帝国にもたらした功績は大きいし……怖いのよ。せめてノーランドだけでも味方につけたいと思うのは当然なの」

「でもぶっちゃけ、どこから嫁を貰おうと戦いになる時に関係ないわよね」


 縁組した後で戦になったケースなんて、どの国の歴史にもあるでしょ。

 悲しい思いをするのは、いつも女性なのだ。


「帝国は内乱にはならないと信じたいんだけど」

「ならないでしょ。少なくとも私の目が黒い……目が届く範囲で戦なんて駄目よ」

「そうなの?」

「あのね、私はこれでも皇太子にちゃんと皇帝になってもらいたいと思っているし、ベリサリオは全面的に皇太子を支持しているわよ」

「それ、殿下にちゃんと伝えてる?」

「え? だって、補佐についてるじゃない」

「うちに帰りたい。補佐をやめたい。ベリサリオにいる方が楽しいってオーガスト様はおっしゃっていたようだし、クリスだって殿下に愛想ないし」


 そうだよねー。

 あの腹黒ツンデレお兄様が、皇太子にそんなこと言うわけないよねー。

 エルトンが、クリスお兄様が補佐に就くのは胃に悪そうだって言ってたもんねー。


「ディアから、それとなくクリスに話すように言ってみてくれない?」

「なんで私なの。婚約者のあなたから言えばいいじゃない」

「妹大好きのクリスなのよ。あなたが言った方がいいでしょう」


 なんで、皇太子とクリスお兄様の仲を取り持つ話になっているのよ。

 そういう話じゃなかったでしょ。


「え? この話がしたかったの?」

「違うの。そうじゃなくて、だから選ばれなかった方がベリサリオに嫁ぐって話が出た時に、うちはもう家族どころか一族総出で喜んだのよ。皇太子に選ばれなかった令嬢って言われるようになると思っていたのが、クリスの婚約者になれることになったんだから」

「それは前も聞いたし、うちとしても侯爵家と縁組出来て……」

「待って。聞いて」


 そう言ったから口を閉じて待っていたのに、スザンナはらしくもなく迷っている風に視線をさまよわせて、もじもじしている。


「スザンナ?」

「あのね、学園が終わってからクリスが補佐になったから、皇宮でお妃教育を受けていた私達と顔を合わせる機会があったのね」

「うん」

「よく会うな……とは思っていたの」

「うん?」

「で、モニカに聞いたら、彼女は会わないって」


 つまり、クリスお兄様はスザンナにだけ会いに行っていたってこと?

 それも偶然を装って?


「その話、くわしく!!」


 ネリー、立場が違うって言っていたのは誰だ。

 壁際からソファーまでダッシュして、スザンナの隣に座り込む速さが半端なかったわよ。

 

「そこの伯爵令嬢、おちつけ」

「でも聞きたいでしょう」

「聞きたいわよ」


 恋バナよ。

 ガールズトークっぽいことをやってるのよ。

 推しの話で語り明かしたことはあっても、恋バナなんてほとんど経験ないんだから。


「えーっと、話を進めていいかしら」

「もちろん」

「それでそれで?」


 スザンナの腕を掴んで揺らさないの。

 なんで、ネリーがそんなに嬉しそうなのよ。


「ディアがルフタネンに行くちょっと前だと思うんだけど、ベリサリオにはきみに来てもらうからってクリスに言われたの。殿下にもそう言っておいたからって」

「え? 皇太子が決めたんじゃなくて、お兄様が決めたの?!」

「そこはよくわからないんだけど、あの……今回の婚約者候補の話が出る前から決めてたって言ってて、だからナディア様にドレスの相談をしたらいいんじゃないかって勧めたって」

「それっていつ?!」

「……ネリー。侍女失格」

「うは。でもでも、すごい話ですよ。クリス様はずっと前からスザンナと将来結婚する気だったってことでしょう」


 興奮しているネリーと真っ赤になってしまっているスザンナ。

 私はもうびっくりよ。

 なに? 私が恋愛がどうこう言ったのは無駄だったの? その前からクリスお兄様はそのつもりだったの?

 えええ?! まるでそんな素振りを見せなかったじゃない。

 

「たぶんクリスのことだから、帝国中の令嬢を調べて、それで一番私が条件に合っていたってことで、好きだとかそういうのじゃないんだとは思うの。それか、私が感謝して負い目に感じないように、そういう話にしてくれたのかもしれないわ」

「ない」

「え?」

「いい? クリスお兄様はベリサリオの次期当主で、帝国全体よりベリサリオを大事にしているのよ」


 椅子に座ったまま、腰に手を当てて胸を張る。

 部屋の中でそれぞれ自由にまったりしていた精霊獣達が、のっそりと顔をあげて私に注目して、すぐに興味をなくしたようにそっぽを向いた。

 冷たい。精霊獣が冷たい。


「それは言い切っていい話ではないのでは?」


 ネリーにまで呆れた顔をされると、ちょっと傷つく。


「いいから聞いて。クリスお兄様はベリサリオが大事。家族がとっても大事なの」

「それはわかっているわ。特にディアとアランが大好きよね」

「つまりね、クリスお兄様にとってのウイークポイントは家族なのよ? その家族の中に迎え入れて、次期当主の妻になる女性をずっと前から決めていたって、ある意味熱烈なプロポーズよ。この帝国に、あなた以上にいいと思える女性はいなかったってことでしょう?」


 大きく目を見開いて、両手で口元を覆ったスザンナの顔が真っ赤になっている。

 倒れないでよ? 大丈夫?


「そう……よね。自信持っていいのよね」

「そうよ。堂々としていていいのよ」


 ふたりの関係はふたりにしかわからないし、夫婦になる決め手だって人によって違うのかもしれない。

 恋愛感情があるかどうかより重要なことだってあるかもしれない……でも、実はクリスお兄様ってばスザンナに惚れてるんじゃないの?


 待って。どうしてせっかくスザンナが城に来たのに、彼女の部屋に案内するより先に私と話をさせたの?

 スザンナがまだ負い目を感じたり自信を持てないみたいだから、私に話をさせようと思った?


「クリスお兄様、大事なことは自分で言わなくては駄目です」

「なんの話かな?」


 食事が始まる前に私が文句を言ったら、にっこり笑顔で答えた。

 やっぱり! 妹を便利に使ったな。


「どうしたの?」

「あ、お母様。クリスお兄様ってば、ずいぶん前からスザンナがいいって思っていたそうなんですよ」

「ディア!!」


 ふーーん。慌てても遅いもんね。


「あら、そんなの知っていたわよ」

「え?」

「クリスが私に紹介してくれた女の子ってスザンナだけですもの」

「それってドレスの相談でしょ?」

「理由が何であれ、他の女の子にはそこまで優しくないでしょ」

「母上。食事にしましょう」


 さすがお母様。

 クリスお兄様がそんなに慌ててる姿を、初めて見たわ。


読んでくださってありがとうございます。


誤字報告、助かってます。




少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価していただけると嬉しいです。

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本作の書籍版1巻~6巻絶賛発売中。

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― 新着の感想 ―
[一言] お星様は入れているので、いいねボタンも押したいです! クリスお兄様にお母様〜♡ 萌えてジタバタしましたw
[一言] クリス~!!ニヤニヤしますね!! そしてさすがお母様!! 前からスザンナに決めてた、何年前かなって話が前にあったかと思いますが、そのあたりのクリス視点の詳しい話をいつか知ることが出来たら嬉し…
[気になる点] ディアが鈍いだけで周囲は恋で溢れてたとはね。 本人の鈍さで、本気の想いに気づかれず玉砕していたモブはどれだけいたんだろ? それらモブの悲劇を知ってるのに、自分達の恋はこそこそ根回しして…
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