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カミングアウト

日間異世界転生/転移の恋愛部門ランキングで1位になっていました。

もうなんか本当にありがとうございます!!

恋愛要素がなかなか出てきませんが、のんびりと読んでいただけると嬉しいです。

『酷い言いようだな。受けた方がいいとあの時勧めていなかったか?』


 今まで戸外でしか会わなかったから、自室に精霊王がいるのって違和感が半端ない。

 精霊王を包む淡い光がとても幻想的で、余計に現実ではないように感じる。

 でもここ、女の子の部屋なのよ。不法侵入よ。


「提案された時点で受ける選択肢しかないじゃないですか。あそこで断ったら、危険な存在になる前に取り込もうと、皇宮に連れていかれたかもしれません」


 え? あの時、そんな危険があったの?

 誰か教えてよ。せめて考える時間をもう少しちょうだいよ。


『口にした時点で返答にかかわらず後ろ盾になる事は決めていた。彼女の意志に反して動いた時には、あの場でこの国の精霊全てが皇帝の敵になっただろう』


 待って。本当に待って。

 軽い雰囲気で交わす会話の中に、そんな重大な事態になる決断を紛れ込ませないで。

 胃が痛くなるわ!!


「……そんなにディアを気に入っているんですか」

「でも、私が力を悪い方向に使おうとしたら、精霊王だって協力しないですよね」

『悪い方向とはなんだ? 立つ位置によって悪は変わる。我らはおまえを信じ、おまえと共にあることを決めた』


 つまり他の人にとっては最悪の決断であっても、私が選んだのなら問答無用で実行するって事?!


「こわいこわい。そんな力、絶対使えない」

『そんなおまえだから信じたのだ』


 優しげな微笑を浮かべて精霊王が私に近付こうとした途端、アランお兄様がテーブルの上に乗り、私を抱え上げた。ガチャンと音を立ててカップが床に落ちるのにもかまわず、精霊王から視線を外さないまま、クリスお兄様に私を手渡す。

 クリスお兄様は私を受け取って自分の隣におろし、そのまま肩を抱いた。

 

『どうした? 会合の話はしたはずだ。迎えに来ただけだ』


 アランお兄様はテーブルの上に片膝ついてしゃがんでいる。

 どう見ても臨戦態勢です。


「お兄様? 突然どうしたんです?」

「精霊王様、まさかこのままディアを精霊の国に連れて行ってしまおうなんて思っていませんか?」

『なんの話だ?』

「気に入った人間を精霊の国に連れて行ってしまったことがあると、本に書いてありました」

『……ああ、そうかそうか。それでか』


 アランお兄様の言葉に、水の精霊王は声をあげて笑い出した。


『ディアドラ。兄達はおまえが心配で仕方ないらしい』

「はい?」

『おまえは家族と別れて我らと共に来る気があるか?』

「え? ないです。家族と離れたくありません」

『だそうだ。この娘の後ろ盾になると言いながら、悲しませるようなことはしない。彼女が望めばいつでも連れて行くがな』


 ようやくほっと息をついて、アランお兄様がテーブルを降りて私の隣に並んだ。


「つれていく?」

 

 そんな危険があったのかよ! と言いたげなブラッドの横では、レックスがお兄様ふたりの連係プレイに興奮気味な顔になっている。

 だよね。格好良かったよね。

 私、ヒロインみたいだったよね?

 宅急便の荷物をトラックに積むために、引き渡したみたいじゃなかったよね?


「失礼しました」


 クリスお兄様が頭を下げ、少し遅れてアランお兄様も非礼を詫びた。

 でもふたりとも、私の肩や腕を掴んだまま離さない。


『ディアドラ。このふたりは信頼に値しないか?』


 精霊王は、たぶん私が転生者だとわかっている。

 今日の会合ではその話も出るんだろう。

 顔を左右に動かして、ふたりのお兄様の顔を見る。

 ふたりとも、どんなに頭がよくても大人っぽくても、体格は子供だよ?

 なのに大人だって勝てない精霊王相手に迷いも見せずに、私を守る事だけ考えてくれていた。


「値します。大好きなお兄様達です」


 ぎゅっとふたりの腕を抱え込んだ。


「嫌われちゃうかもしれないけど、お兄様達に聞いてほしい話があるの」

「嫌う? ありえない」

「そうだよ、僕達はなにがあってもディアの味方だ」


 ううう……。

 迷っていたのが申し訳ないよ。


『では行くか』

「え?」


 今から?!

 本気でこっちの都合を聞く気はなかったんかい!!

 

「精霊王は長生きなんですよね? ドラゴン時間じゃないんですか?」

『ドラゴン時間?』


 ファンタジーでよくあるでしょ。

 長く生きる種族は時間の感じ方が違うのよ。

 「用事があるからちょっと待って」って言ったら「ちょっと? 一週間くらいか?」って言われちゃうようなやつよ。


『ふむ。わからなくはないが、皆暇を持て余していてな。面白そうだとすぐに来た』


 すぐが三日後か。

 微妙だけどずれはあるのかな?


『兄妹そろって預かると辺境伯に伝えておけ』

「誘拐犯みたいな台詞言ってる!」

「待ってください。俺も一緒に……」

『本来はディアドラひとりの予定だった。これ以上は許さん』

「夜までには戻ってくるからって父上に伝えておいて」

『何日かゆっくりして行ってもいいのだぞ』


 なにか事故でもあった場合の事を考えると、辺境伯の子供三人が同時にいなくなるのはまずいと思うんだけど、お兄様達はふたりとも残るとは言わなかったし、私を離さなかった。

 心配そうな執事ふたりに大丈夫だよと手を振っていたら、視界が優しい光に包まれて、何も見えなくなってしまった。








 光がゆっくりと薄れて周囲が見えるようになってきて、まず思ったのは湖じゃないんだなって事だった。


 廊下……なんだろう、たぶん。

 壁と天井が白くて床はダークグレイ。

 全体的にぼんやりと優しい光に包まれている。

 ちょっとSFっぽい?


 手が汚れているといけないので、ごしごしとハンカチで拭いてから壁にそっと触れてみる。

 つるつるではないけど触り心地はいい。

 床は石を磨いたのかな。


「ディア、何をしてるのかな?」


 クリスお兄様に呼ばれてはっと顔をあげたら、お兄様ふたりと水の精霊王といつの間にかいた可愛い女の子に注目されていた。


「なにで出来てるのかなーと思って」

「突然しゃがんで床を(こす)るのは、女の子としてどうかと思うよ」


 困り顔のクリスお兄様の横で、アランお兄様と精霊王が俯いて肩を揺らしていた。

 笑いたければ笑っていいのよ?


『満足したか?』

「はい!」


 元気よく立ち上がって、女の子の案内で緩いカーブの付いた廊下を進むと、突き当りが木目の見える白い扉になっていた。

 知っている材質だけど、扉は楕円形だ。角がない。取っ手もない。


『皆様こちらでお待ちです』


 扉は自動ドアだった。

 左右に開く引き戸じゃないわよ。

 一瞬で扉が消える自動ドアよ。


 その先は三十畳はありそうな広い部屋だ。

 天井はドームになっていて、ここも全体的にほんのり明るい。

  

「ここは水の中ですか?」


 アランお兄様が急に駆け出したのでそちらに目を向けたら、正面の水色の壁に見えていたのは水だったらしい。

 ガラス窓じゃないの。

 手を伸ばすと水に(さわ)れるの。

 なのに部屋の中に流れ込んでこないし、魚が泳いでいるのが見えるの。


「すごい」

『気に入ったか』


 ハスキーな男の人の声が聞こえて、ようやく私は部屋にいる人達に気付いた。

 キノコの傘の部分をまっ平らにしたような大きなテーブルが置かれていて、その周りに置かれたクッションに座っているのが三人の精霊王だろう。


 人をダメにするクッションてあったでしょ?

 すっぽり身体を包んでしまうような大きなビーズソファー。

 見た感じはあれ。

 やばい。座りたい。


「それでこの子が妹のディアドラです。ディア、クッションに夢中になる前にご挨拶」


 クリスお兄様が紹介してくれていたのに、私は夢中でクッションを見てしまってた。

 だって懐かしい。

 なんの飾りけもない無地の布に包まれた大きなビーズソファーなんて、こっちの世界にはなかったもん。


「初めまして」

『あなたがディアドラ? 本当に小さいのね』

『ベリサリオの人間はおもしろいわね。羨ましいわ』

『いいだろう? 我の事はこれより瑠璃と呼んでくれ』

『名など必要あるまい』

『ならばおぬしは貰わねばいいだろう』

『むむむ……』


 ハスキーな声の正体は、燃えるように赤い髪と褐色の肌。ギリシャあたりの彫刻のような見事な筋肉をした火の精霊王だ。

 火だから暑くて薄着なのかな。ノースリーブですよ。

 肩から二の腕までの筋肉っていいよね。

 動きやすさ重視なのか、ぴったりとしたパンツにブーツ姿なのが、ほら。

 水の精霊王との姿や服装の差がね、素敵でね。

 このツーショットをネットにあげたら、一部から熱狂的な反応が返ってくると思うわ。


 風の精霊王と土の精霊王は女性だった。

 風の精霊王は緑色の髪なのに違和感が仕事しないってすごい。

 ポニーテールにした豊かな髪がふわふわと肩に流れていて、大きな瞳が好奇心いっぱいでこちらを見ている。

 スレンダーだけど出るところは出たモデル体型で、白い薄手のドレスの上に透けるターコイズグリーンの丈の長い上着を羽織ってる。


 土の精霊王は、一言で言うと豊満。ボンキュッボン!!

 露出度の少ない飾り気のない生成りの衣を着ているのに、とんでもなく色っぽい。

 でもけっしていやらしくなくて、包み込んでくれそうな優しい感じがする。

 薄茶色の髪を編み込んで、服がシンプルな分、髪や首にたくさんの飾りをつけていた。


 ともかく美男美女が大集合ですよ。

 人間離れした美形がここまで揃うと、CGの世界に迷い込んだ気分よ。


『好きな場所に座るといい』


 お許しが出て嬉しくて、お兄様達より先にクッションまで走って近づいた。

 子供がでかいビーズクッションに乗るのは大変だよ。

 よじ登ったよ。

 上であおむけになったら角度が悪くて、天井しか視界に入らない。

 でも起き上がれなくてじたばたしていたら、土の精霊王が抱き上げてちょうどいい角度で座らせてくれた。


「ありがとうございます」

『いやー、かわいいわあ。持って帰りたい』

「駄目です!!」


 慌ててお兄様達が駆け寄ってきたら、今度は火と水の精霊王が、ふたりを私と同じクッションに座らせてくれた。

 子供とはいえ、三人も座れる大きなクッションによじ登った私すごいでしょ。


『三人並ぶともっとかわいい!!』

『この果物、食べてみろ』

『ねえねえ、アランくんだっけ? 土の剣精持ってないのよね。私が……』

『おまえ達、少しは落ち着け。子供らが困っているだろう』


 水の精霊王の住居に来たら大歓迎されました。

 お兄様ふたりとも固まっています。

 私にしがみついています。

 うん、まかせろ。女は度胸だ。


「本日はお招きいただきありがとうございます。まず私からお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」


 背筋を伸ばして私が言うと、精霊王達はそれぞれ椅子に座って話を聞く体勢になってくれた。

 

『話してみろ』


 火の精霊王の言葉に他の精霊王達が頷く。


「私がどういう存在か、皆さんは知っているんですか?」

『知っているわよ』

『魂の形が変わっているもの』

『転生する前の記憶を持っているのだろう?』


 水の精霊王があっさりと重大発言かましてきた!! 


「わーーーーん。早い早い! ちゃんと私からお兄様達に説明させてください!!」

『おお、そうか。ではしばらく待とう』


 うわ。話しにくい。

 どういうことなの!!て顔で両側からお兄様達にガン見されてる。

 それを精霊王達が、ほのぼのとした顔で見守っている感じがもう。

 この人達あれだ。見た目はどうあれ、もう何百年も生きている爺さん婆さんだから、孫が遊びに来た感覚だ。

 かまいたくってしょうがない感じ。


「転生って、生まれ変わりってことだよね」

「はい。クリスお兄様。私は生まれる前の記憶を持っているんです。以前の私が暮らしていたのは、魔法がなく、精霊もいない代わりに、文明が発達した世界でした」

「一度死んでいるの?」


 気持ち悪がられたらいやだなと思っていたけど、クリスお兄様はいろいろと聞きたい様子で、アランお兄様は死んだ記憶があることを心配しているみたいだ。


「はい。病気……なのかな。両親を残して死んでしまって。親不孝しちゃった」

「両親? 兄妹もいたのか?」

「姉と妹が」

「……会いたいよね」

「生まれたばかりの頃は会いたくて悲しかったけど、今はもうお兄様達がいるし、お父様もお母様も大好きですよ」


 両側から抱きしめてくれるお兄様達。

 ほら、天使でしょう?

 もう日本に帰れないけど、家族の愛に包まれて私は幸せに暮らしています。

 今度こそ、長生きして両親に親孝行するからね。

 

「それで子供らしくなかったのか」

「クリスお兄様よりは子供らしいと思います」

「いくつで死んだんだ」

「女性に歳の話はしちゃだめです」


 とてもじゃないけど、アラサーなんて言えない。

 嫌でしょ、そんなの。

 それだけは墓まで持っていく。


「大人じゃなかったんじゃない? 走り回っているし、抜けてるし」

「頭はいいんだけどな。あの行動は大人じゃないな」

「それはほら、子供の振りをしないといけなくて」

「演技? あれが?」


 あ、思っていたのと別の意味でも、今更アラサーだって言えなくなった。


『病気だったんでしょう? なら、元気になったんだから走りたいわよね』

『恋人はいなかったの? 結婚は?』

「結婚してません。恋人もいません」

「そうか。病気で……」

「子供っぽいのもそのせいか」

 

 あれ? 私、病弱で薄幸な女の子だったと思われていない?

 それに、さんざん子供らしくないと言われてきたのに、今度は子供っぽいって言われてるんですけど。

 解せぬ。



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