うちのお兄様達まじチート
総合評価ポイントが急に上がっていたので何事?!と驚いていたら、日間異世界転生/転移ランキングにはいっていました。ありがとうございます!!
これも皆さんが読んでくださったおかげです。
ちゃんと完結出来るように頑張りたいと思います。
誤字脱字報告ありがとうございます。
これ、すごい便利な機能ですね。ボタンひとつですよ。
文明って素晴らしい。
皇帝一家が帰って今日で三日。
城の中は、まだどこか落ち着かない空気が満ちている。
その理由の一つは、精霊獣を手に入れたというのになぜか毎日誰かしらが顔を出す魔道士共だ。
特に副魔道士長。なんで毎日来ているんだよ!
あんた、絶対アリッサ狙いだろう! 未亡人に惚れただろう!
だったら髪型をどうにかして来い。ちゃんと飯を食え。目の下の隈をどうにかしろ。
全く関係のないやつなのに、応援したくなってしまうじゃないか。
でもたぶん、今のところ全く相手にされていない。
第二の理由が、夏に向けて大勢の客人を滞在させる準備が始まったからだ。
精霊に魔力をあげることと、対話が必要なことは皇帝陛下から正式に国中に知らされた。
でも具体的にどこでどうすればいいか、魔力はどのくらいあげないといけないのか、他にも聞きたいことはいろいろ出てくる。そこで宮廷魔道士達が活躍するはずなんだけど、あいつらもまだ勉強中で私のところにやってくる。
そのうえ、
どうもベリサリオ領の貴族達の持つ精霊の数が急激に増えているらしい。
持っている精霊の大きさが我々とは違うらしい。
精霊獣なるものがベリサリオにはたくさんいるらしい。
皇帝一家が公務に穴をあけてまでベリサリオ領を訪れたらしい。
これだけいろいろと噂が流れたら確認したいでしょう?
それで、城の別館になっている夏期の客人のための宿泊施設を使いたいとの申し出が、日を追うごとに増えているの。
今からすぐにも泊まりたいという人もいるのを、準備があるからと理由をつけて待ってもらっている状態なのよ。
「コルケットとノーランドの辺境伯がいらっしゃるのは、五日後?」
「そう聞いております」
北の高原地域のコルケットと東の大草原を領土に持つノーランドは、共にお父様と同じ辺境伯の治める領地だ。
つまり田舎。
風の精霊王の住むコルケットはうちの北側のお隣さんだから、うちの領地内の北部と気候が似ている。
高原地域はあれよ、北海道よ。
北海道は高原じゃないけど、たしか町民の数より牛の数が多い町があるのよね。コルケットもそうなの。
地平線まで牧場が続き、ところどころに白樺並木があってその下が道だよってわかるようになっている。
そこに牛や馬が放し飼いにされて、のんびりと草を食んでいる牧歌的な世界。そこがコルケット。
チーズや牛乳などの乳製品が有名だし、家畜を魔獣から守るために、冒険者が多く雇われている地域でもある。
火の精霊王のいる東のノーランドは、ザ・辺境。
見渡す限りの草原にもその周囲の森にも魔獣がたくさん。
空にはワイバーンが飛んでいて、たまにはドラゴン目撃情報も出る。
武器防具や魔道具を作る職人達や、素材を集める冒険者が城壁に囲まれた都市で生活しているイメージ。
突然のファンタジーでしょ?
うちは辺境伯の中では都会組なのよ。
よっぽど森の奥深くや、山の上の方に行かないと魔獣なんていないから。
「冒険者も精霊獣を持てたら、だいぶ戦力あがるもんね」
「牧場経営者や商人だって、精霊獣と生活出来たら安心感が違いますよ」
「平民は魔力量が少ないから複数持つのは難しいでしょうけど、精霊が多いと農作物にもいいんですよね。それは重要ですよ」
皇帝陛下とお父様の説明を聞いたのに、どうしても一度私に会わせてくれとうるさくて、五日後に将軍と辺境伯三人と私とで会合を開くことになったの。
「精霊王との接し方を学びたいんでしたっけ?」
レックスがお茶の準備をしてくれるのを、ぼんやりと眺めながら私は頷いた。
「精霊王に会う気があるかどうかは疑問ですね」
ブラッドにも今は土の精霊がついている。
騎士団の人達の前に、城内で働いている者達が湖や周囲の森に行って、精霊と対話する機会を与えられたから。
一度やり方の説明を聞けば、あとは好きな時に好きな場所でさりげなく声をかければいいのよ。
城内の庭にも精霊はいるはずだから。
「それよりも夏に向けて何か欲しいのよ」
「何か?」
「せっかく精霊目当てにお客様が来るんだから、また来たいと思わせる何かが欲しいの。うちの別館てどんな造りなの?」
「さあ?」
私の執事は客の相手は仕事じゃないからな。知らなくて当然か。
「見に行きたいわ」
「また無茶を言いだしましたよ、このお嬢さん」
「散歩してたら来ちゃった! じゃ駄目?」
「この城の広さをわかっていますか? 城内で遭難できますよ」
まじか、そんなに広いのか。
誰かちょっと日本に行って、チャリかセグウェイ持ってきて。
「旅先なのに普段住んでいる屋敷と同じじゃつまらないでしょう? そのあたり、ヨハネス侯爵はうまいと思うのよ。だからうちの別館もちょっと変えられたらなって」
内政に口を出したり、異世界の物を広めたりはしないつもりだったけど、精霊について説明するために領内を回って、観光客が減っているせいで寂れてしまっている町を見てしまったのよ。農業やお茶を作っている村や町はいいの。観光を主産業にしている町をどうにかしないと。
「その話をどうご主人様に提案なされるつもりなんですか」
「うーーん。そこが問題よね」
「僕が話してあげようか?」
背後から声が聞こえると同時に、部屋の扉がスーッと開いた。
「ふーん。僕が指摘すると怒るのに、執事とはそんな風に話していたんだ」
なんでお兄様がふたり揃って立っているの?!
ここ、私の私室だから。
家族で使う居間やティールームじゃないから。
前触れなく乙女の部屋に来ちゃ駄目でしょう。
すっかり気を抜いてたじゃないか。
「ディアは僕や兄上より、彼らと仲良しなんだね」
眉尻を下げて悲しげな顔でアランお兄様が言うのを聞いて、私は慌てて立ち上がった。
「そ、そんなことないです!!」
「僕の信用がないせいだよね。どうしてだろ?」
クリスお兄様は、アランお兄様の背中を押して部屋の中に入り、扉を閉めて鍵までかけた。
こわい。怒っている。
「いつからそこにいらしていたんですか?」
ブラッドは別の意味で怖がっている。
元冒険者のアサシンとしては、盗み聞きしていたのに気付かなかったのはショックなんだろう。
「侍女が出て行くときに、どうせ中に入るからって扉を閉めないでもらったんだよ」
シンシアが出て行ったのって、どのくらい前だっけ?
別館を改装したいって話は間違いなく聞かれたわ。
「それとほら」
クリスお兄様が掌の上に土の精霊を乗せてみせると、アランお兄様も手を緑色に光らせた。
「土の精霊は防御魔法に秀でているだろう? それでいろいろ試していたら気配を消す魔法を覚えたんだ」
「風の精霊は声を遠くに運んでくれるんだよ」
うちのお兄様達、まじチート。
転生したら、私よりその世界の人達の方がチートでした。
おかしいだろ、九歳と六歳児!
「どうもきみたちはまだディアの置かれた状況がわかっていないみたいだから、今日はゆっくり話そうか」
「レックス。悪いけど僕達もお茶をもらっていいかな」
私を通り越して、テーブルを挟んだソファーに腰をおろすふたりを、呆然と見つめるしかない。
いつもは私が嫌がるから気付かなかった振りをしてくれていたけど、今日はそれでは許してくれなさそう。
「ディア、そんな青い顔をしないで。倒れそうになっているから座って」
「クリスお兄様……あの……」
「もう少し平和的に話をしようと思っていたんだけど、そこの執事達には子供の振りをしていないと知ったら、そりゃむかつくよね」
「兄上が外面悪いのがいけないんじゃないかな。変な噂を聞いたんだよ」
「その噂、誰がディアの耳にいれたんだろうね」
にやりと片方の口端だけあげてブラッドに視線を向けるクリスお兄様。
ばれている。
「でもそのあとブラッドは、お兄様ふたりとも私に甘いとか愛されているとか言っていました!」
「たしかにいろんな噂を話したのは俺です。そのあと実際に家族で御一緒のところを見て、使用人相手と家族相手ではやはり違うと訂正はしました」
「それは間違っているよ。信用出来る相手や仕事の出来る使用人にだって、きちんと接しているよ」
「あの、でも何人もクビにしているというのは本当ですか?」
レックスが紅茶を前に置くと、クリスお兄様は軽く会釈してそれから私に視線を向ける。
こういうところは、ちゃんとしているんだよね。
「本当だよ。最短二十分でクビ」
「それは噂になりますよ」
「僕のところに来る側近や執事って、誰が捜してくると思う?」
就職情報誌なんてないもんね。
「領内の貴族や身元のはっきりしている人の紹介?」
「そう。使用人ひとりひとりの背後に誰かがいるんだよ。ああ、全員がそうじゃないよ? 父上や僕が気に入って働いてもらっている人も少しずつ増えている。ただ僕はまだ幼いでしょ?」
「え?」
「は?」
そこで呆れた顔をするな、執事ども。
私と違ってクリスお兄様とゆっくり話す機会なんてないから、想像以上に話し方や表情まで大人なんで驚いてしまっている。
おかしいんですよ、この子。
たぶん前世の世界にいたら、メンサ*にはいってますよ。
「紹介者に弱みを握られていたり性格に問題があったり、仕事の出来ないやつはすぐにクビにするのは当たり前だよね」
「あの、いいですか?」
「はい、どうぞブラッドくん」
「最初から仕事の出来る奴ばかりではないと思うんですが。自分で育てる気は?」
「やだなあ。いい大人の使用人が九歳の僕に育ててもらわないといけないのかい?」
「あーたしかに。年齢がもうわからなくなってきた……」
「一番問題なのはね、教えてモノになればいいけれどそのまま惰性で雇い続けるとね、僕が成人する頃には、僕の近くで長年働いてきたっていう実績が出来ちゃうことだよ。仕事が出来なくても、新しく雇った者より立場が偉くなってしまう。それからだと扱いが困るでしょ」
ああ、やっぱり私は普通のOLでしかない。そんなことを考えたことなんてなかった。
爵位を継いで、うるさい貴族共を束ねて、領民と国境を守らないといけないクリスお兄様は、私とは違って何年もあとの事も考えているんだ。
私なんて行き当たりばったりだよ。
勢いでどうにかしようとしちゃうよ。
おかげで精霊王や皇帝一家の前で目立ちまくって、すっかりやばい状態だよ。
「申し訳ありません。そこまで考えていませんでした」
「いやかまわないよ。きみの仕事はディアを守る事だ。彼女ひとりでは集められない情報を集めるのも仕事だとわかっている。今回は僕のやり方にまずいところがあったから、こうしてディアに警戒される結果を招いたんだから、これは僕の落ち度だ」
「それに兄上は、使用人に厳しくたってディアには優しいよね。たまにちょっと気持ち悪いくらいディアのこと好きだし。なのになんで警戒するの?」
「おまえだって話してもらっていないんだから、同じように警戒されているんだよ」
「僕も? なんでさ」
ここまでの会話の内容に問題なくついてこられているのはおかしいよ、六歳児。
クリスお兄様のおかげで目立ってないけど、アランお兄様も方向性が違うだけで油断ならない。
なんなの、うちの兄弟。
遺伝子がおかしいの?
いや、この世界にはまだ遺伝子なんてわかるやつはいないな。
この場合は、お父様の子種がおかしいの? かな。
あ、これ四歳児じゃなくても御令嬢が口にしたら駄目な台詞だ。
「ディア、聞いている?」
「はい」
「僕としては、ディアが僕を警戒する理由がわからないんだ。何が問題なのかな?」
前世の記憶があるのが問題なんです。
お兄様達は頭がいいから、隠しておく自信がないんです。
だからこういう会話はしたくなかったんです。
そんなこと言えるか――――!!
「お嬢、それは俺達も聞きたいと思っていましたよ」
「うんうん。どう考えてもこのおふたりは味方になってもらった方がいいですって」
ブラッドやレックスまで言い出した。
え? ぶちまけちゃって平気?
もういっそ、全部話してすっきりしちゃう?
「もしかして」
なかなか私が答えないから、クリスお兄様が口を開いた。
「ディアは爵位が欲しいのかな?」
ブラッドとレックスがぎょっとした顔で私を見て、アランお兄様はちょっと首を傾げてじーっと私を見ている。
「爵位?」
私は何を言われたかわからなくて、ぼんやりとクリスお兄様の顔を見返した。
うん。やっぱり天使。美少年。
「父上の後を継いで辺境伯になりたいのかなって?」
「え? は? ええええええ?!」
「あれ? 違う?」
「ないないないない。私女だし?」
「皇帝陛下も女性なんだよ? 我が国は女性でも爵位を持つのは認められているよ」
「そんな気ないです!」
「そうなの? ディアなら仕事も問題なく出来るだろうから、やりたいなら譲ろうと思ったんだけど」
何を言っとんじゃ、あんたはーーー!!
執事がふたりとも口をあんぐりと開けて固まってるじゃないかーー!!
「爵位とか、そんな面倒なことやめてください!」
「めんどう……」
「お父様の様子を見れば忙しさがわかります。事務仕事は多いし、うるさい貴族の相手はしないといけないし、収穫の心配までしてるじゃないですか。ありえない。そんな仕事してたら早死にする」
「僕が継ぐんだけど」
「お役目ご苦労様です!!」
「えー、僕は宰相か外相になろうかなと思ったんだけど」
「外相いいですね。私、海外旅行に行きたいです」
「じゃあ、アランに後を継いでもらって、ふたりで旅行に行こうか」
「旅行と跡継ぎ問題は関係ないよね!」
ほら、ちゃんと話についてきてる。
むしろ、私の執事達がついてこれていない。
「うーーん。そうなるともう、警戒される理由が思いつかないな」
「あの、自分の置かれている立場がっていう話を、ちらっと聞きたいなーと」
「ディアは可愛いからそれだけで注目の的だったんだよ。そこに頭がいいって話が加わって、全属性持ち精霊獣持ち。ほら、ここまででもすごいだろう?」
「あんまり……」
「ああ……城にいるとわからないか。父上は出来るだけ表に出なくていいようにしようとしているけど、うちは避暑地だし、学園に行くようになれば直接いろんな領地の子供と会うよね」
そりゃ夏に遊びに来てくれたお客様には会わないとね。
学園は行ってみないとわからないけど、歳が近ければ会う機会も多いよね。
「外国の王族も留学してくるよ」
はあ? そんな進んだ学園なの?
つか、王族の子供どれだけいるんじゃい。
「何年もしないうちに、きみを手に入れようと大勢の人が動き出すと思って覚悟した方がいい」
「いくらなんでも大袈裟では?」
「どうして? だってきみがその気になれば、国のひとつくらい簡単に滅ぼせるんだよ」
「……へ」
「そこの精霊王のせいで」
クリスお兄様が視線を向けた先を追って振り返ると、水の精霊王が楽しそうな顔をして笑っていた。
*メンサ
人口上位2%の知能指数を持つ人達の交流を目的とした集団。