表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/295

影響力が強すぎる

前回投稿してから、また間隔があいてしまいました。

咳のし過ぎでのどを痛めたようで、実はまだ声がハスキーなままなんです。

今回の風邪は手強かった。

皆さんも喉の調子がおかしいなと思ったら無理しないでくださいね。

 ブリジット様とエルダと、そして本当にエルトンより私を優先させてしまったイレーネを、大きなテーブルのある居室に案内した。ここを作業スペースにする予定だ。


 相も変わらず、私と周囲とでは物事の受け止め方が違うらしい。

 精霊王から依頼のあった教本作成は最重要事項で、その教本作成に参加出来るというのは、大変光栄なことだと思われているみたい。

 私は、お友達と絵本を作るぜ!! ひゃっはー! くらいにしか考えてなかったわ。


「というわけで、瑠璃の要望でもあるから皇太子殿下や高位貴族の方々も協力してくださるそうなの」


 私の説明を、三人ともえらく真剣な表情で聞いていた。

 具体的な名前が出たせいで、余計に重要な仕事だと思ってしまったかな。

 私はいろいろとマヒしてるなあ。そうだよね。皇太子殿下と精霊王がこんなに身近な人はそうはいないよね。


「それで……何をすればよろしいのかしら」


 しばらく沈黙が続いたあと、反応を返してくれたのはブリジット様だ。


「絵本と教本と二種類の本を作ろうと思っているんです。文字の読めない平民の子が、字を覚えるきっかけになるかもしれないし、絵本なら大人達が子供に読んで聞かせることも出来るでしょう?」


 教本のほうは文字の読める平民や貴族用ね。

 学ぶことに慣れている貴族の子供達なら文字が多くても大丈夫だから、子供から大人まで幅広く使えるように、こっちはより詳しく精霊の育て方をまとめた本にしたい。


「私は絵本を担当する予定です。こんな感じで絵を描こうと思っていますの」


 みんなに見せたのは、子供が掌に魔力を集めて精霊に差し出している様子を描いた絵だ。

 昨日の今日なので、ラフ絵にささっと色を塗っただけなんだけど、絵本にするにはこんな感じの線と塗り方がいいのかもしれない。

 

「まあ可愛い!」

「ディアが絵を描くなんて知らなかったわ」

「ディアドラ様は何でも出来ますのね」


 社交辞令ありだとしても、悪い反応ではないだろう。三人の顔が少し和やかになったもの。

 こういう絵なら、この世界でも受け入れられるのね。


「皆さんには教本をまとめる作業をしていただきたいの。どのような内容にするかはクリスお兄様がまとめてくれるそうなのですけど、お兄様の性格を考えると、論文か報告書のようにまとめてくると思うので、それをわかりやすく読みやすくしてほしいんです」

「確かにクリス様は、難解な文章を書きそうですわね」

「私、理解出来ないかもしれない」


 お兄様と同じ教室で学んでいるブリジット様が私の言葉に頷き、エルダが情けないことを言い出した。


「理解不能な文章をクリス様がディアに渡すわけがないでしょう? むしろ必要なことを箇条書きにした愛想のない文章を渡される気がしますわ」

「ありそう」

「ですわね」


 そしてイレーネがなにげに鋭いことを言い出して、他のふたりが納得している。

 クリスお兄様のイメージのぶれなさは見事だと感心してしまうわ。


「教本のほうにも挿絵があった方がわかりやすい箇所もあると思うので、その時はどんな絵が必要か言っていただければ私が描きますわ」

「それではディアの負担が大きいのでは?」

「教本のほうはまだ当分作業出来ないので、先に絵本を作りますから大丈夫です。学園の後期が始まったら、寮で予定の確認をしたり分担を決めたりしましょうか」


 大きなテーブルの端に四人で固まって座り、お茶を飲みながらまったりと話をしているうちに最初の緊張はなくなって、ようやくいつもの笑顔も見られるようになってきた。

 何をすればいいのかはっきりすると安心するよね。


「部屋に籠っている時に本はたくさん読みましたけど、まさか本を作る側になるとは思っていませんでしたわ。しかも精霊王様に依頼された教本を作るなんて」


 頬に手を当ててほっと息を吐くブリジット様は、どこから見ても夢見る乙女という感じだから、恋愛小説をたくさん読んでいると思うんだよね。

 でも読み専の人の方が圧倒的に多いのは当たり前。

 この世界にはネットなんかないんだから、自分が書いた小説を誰かに読んでもらうなんて機会はまずありえないんだもん。


「私は……実は小説をいくつか書いたことがあるんですよ」

「え?」


 いた。

 こんな近くに同志がいた。


「エルダ、本当に?」

「イレーネにはちらっと読んでもらったことがあるのよねー」


 ちょっと!

 なんで幼馴染の私には見せないで、イレーネには読ませたのよ。


「イレーネもね、実は……」

「エルダ! 内緒だって約束したじゃない」


 うはっ、もうひとりいた。

 そういえば、リーガン伯爵領は人間より牛のほうが多くて、本を読むか刺繍をするくらいしかやることがないと言っていたっけ。

 まあ、たいていの御令嬢はそんなものよ。

 商会の仕事をしたり、走り込みをしたり、精霊王に会いに行ったりはしないわよ。

 

「私も書きたいなと思ったことがあって」

「ディアも?!」

「でも、話の流れだけ書き出して挫折したの」

「ディアでも挫折することあるのね」


 エルダは私を完璧超人とでも思っているの?

 漫画を描けても小説は書けないわよ。


「ねえエルダ、私にも読ませて」

「その書き出した話の流れっていうのを見せてくれるのなら」

「それでいいの? あとで持ってくるわ。……ねえ、いろんな方の本が読みたいと思わない?」

「読んでいるわよ」

「そうじゃなくて」


 世間に出回っている小説って、純文学に近い内容だったり、騎士が活躍する話がメインでその中にちらっと恋愛が出てくるものだったり、あるいはどろっどろの昼メロのような小説が多いのよ。

 そういうのが読みたい時もあるのよ?

 でもいつも全力で盛り上げるぞーーー!! ってやられると、むしろ引くじゃない。

 それにそういう小説って、十代向けじゃないのよね。


 私が欲しいのはそういうのではないの。

 日常の中で普通に出会って、ちょっとキュンとするような場面があって、読み終わった時にほっと幸せな気持ちになれるとか、たまには悲恋物もいいけど、学園で出会って片思いして、でももう相手には婚約者が決まっていたなんて話がいいわけよ。

 

「同じように小説を書いている信用のおける御令嬢はいるかしら」

「信用のおける?」

「だって、高位貴族の御令嬢が小説を書くって、よく思わない方も多いのではなくて?」


 この世界にも女流作家はいる。でもたいていは下位貴族の御令嬢で、圧倒的に独身の人が多い。

 御令嬢が専門職に就いたり、作家になったり、画家や音楽家になった場合、パトロンになろうとする人はいても結婚しようとする人はとても少ないの。


「恋愛小説を書いているなんて知られたら、そういう経験があるんじゃないかとか、そういうことをしたいんじゃないかとか、くだらないことを言ってくる殿方がいるでしょう?」

「したいわよ!」

「エルダ、落ち着いて」


 最近、エルダのことがわからなくなってきたわ。子供の頃はおとなしい儚げな女の子だったのに。

 イレーネはエルトンとの婚約が決まって、いい意味で大人びた気がする。


「たしかにそうね。あまり知られたくはないわ」

「大丈夫よ、イレーネ。私達の会話は四人にしか聞こえないようにしてあるから」


 テーブルの向こう側では、執事のジェマとメイドのシンシアが、ブリジット様のメイドとお話している。

 イレーネもエルダも誰も連れて来なかったので、彼女達三人しかいないの。

 エルダはいいとして、イレーネはそれでいいのか!


「気にしすぎかもしれないけど、エルトンに迷惑はかけられないから」

「もちろんよ。私だって、妖精姫が絵を描いたり、小説を書こうとしたことがあるなんて知られたくはないもの。絵本の絵を描いたのが私だっていうのは、うちの家族とあなた達だけの秘密にしていただきたいわ」

「私も誰にも言いませんわ。小説も読ませていただきたいから、私も書こうかしら」

「共犯ですわね」

「はい」


 四人で顔を見合わせて頷きあう。

 ひとまずこれで仲間が三人に増えたわ。


「実は私の知り合いに、絵を描ける子がいて……」


 せっかくの機会ですもの。

 この世界で漫画風のイラストが受け入れられるか確認したい。


「こういう絵を描くんですけど、どう思います?」


 テーブルの上に置いたのは、少し前に描いた皇太子とクリスお兄様のイラストだ。

 少女漫画よりは実物に近くして肖像画風にした。でも髪の表現や服の描き方は、前世で描いていた漫画のままよ。


「まあ、殿下とクリス様ですわね!」

「素敵!」

「これ、売っていませんの?」


 おおう……反応が良すぎて驚いた。

 そうか、この世界にブロマイドはないもんな。

 皇太子やクリスお兄様の絵姿は、それだけで大人気になるのか。

 これで商売出来るな。しないけど。


「一枚しかないので売りませんよ。作者に許可を得ないと転写の魔法も駄目です」

「誰? 私の知っている人よね? ディアの行動範囲は城内か学園か……」

「エルダ、誰が描いたか教えないと約束したから描いてもらえたの。だから作者を特定しようとしないで」


 ばれないように、絵本とこっちの絵では作風を大きく変えたのよ。

 ジャンルを変えてサークル名も変えたのに、作風でばれるようなものよ。


「たのめば小説の挿絵を描いてくれるそうなの。せっかく書いた小説だもの。本の形にして挿絵を入れて、そして信用出来る少数で交換し合うのはどう?」

「私のお友達にも絵の上手い方がいるわ。話したら描いてくれるんじゃないかしら」

「最初からみんなの名前は出さないで、まずは話だけしてみてね」

「ええ、その辺は気を付けるわ」


 イレーネと私が会話している間、エルダとブリジット様は先程の絵をまだ眺めていた。

 そんなに気に入ったの?


「やっぱり皇太子殿下とクリスが並んでいるのって素敵ね。見ているだけで胸が高鳴るというか」

「まあ、エルダ様も? 実は私もなんです」


 おーーい、そこのふたり。そっちの沼はまずいから戻ってこーい!

 なんでそっちに行った! この世界に、貴腐人が生まれるきっかけを私が作るのは嫌だ。


「でも昨日、カミルとクリスが並んでいるのも素敵だったわ。クリスは白い服だったでしょ? カミルの黒と対照的で……」

「駄目よ。クリス様は殿下の隣がいいのよ」

「おふたりはなんの話をなさっているのかしら?」

「え?」

「あ?」


 その絵は没収。危ないから門外不出にするわ。


「おふたりとも、小説を書くにあたって絶対に実在する人物を登場させないでくださいね」

「ディアの敬語が怖い」

「エルダ、特にあなたはよく聞いて。皇太子や皇帝という登場人物も禁止。王太子や王子、国王にしてよ。どんなに注意していても、間違えて本を落としてしまったり、誰かに黙って見られてしまう危険はあるでしょう? その時に実在の人物の名前が書かれていたらどうなると思う?」

「殿下に報告されたりしたら……不敬罪になるかも」


 イレーネ。それはこわい。怖すぎる。そこまでは考えていなかった。


「えええ?!」

「そこまではどうかと思うけど、本の内容によっては実際にあった話だと勘違いする人もいるでしょう。恋愛話だったら、暴露本かと誤解されたり、作者が恋愛の相手かもと思われてしまうかもしれないわ」

「私、やっぱり小説を書くのはやめますわ」

「ブリジット様?」

「そんなことになったら、今度こそ家を追い出されてしまいますもの」


 いったいどんな話を書こうと思っていたのよ。

 BLか? ボーイズラブなのか?


「落ち着いて。誰が書いたかわからないようにすれば大丈夫ですわ。それにしばらくは教本をまとめる仕事があるんですもの。本を書く余裕はないと思いますわよ」

「そうね。でももう本当に家族に迷惑はかけたくないんです。私のせいで兄や姉の縁談が壊れるところだったんですもの。お母様とベリサリオ辺境伯夫妻の……その、学生時代のこともありましたでしょ? 姉は嫁ぎ先がグッドフォロー公爵家でしたから影響はないだろうと言われていましたけど、兄の婚姻が白紙に戻るのではないかって心配で」

 

 うっわー、まじか。そんなことになっていたのか。

 確かにやばいことをやったかもしれないけど、子供のやったことじゃない。婚姻を取りやめるなんて話が出るほどの大事になるなんて思ってもいなかったわ。


「ベリサリオ辺境伯とコルケット辺境伯を怒らせたのよ。チャンドラー侯爵家には近付きたくないと思う人がいてもおかしくはないわよ。あの頃は私もまだディアとそれほど親しくなくて、どんな方かわからなくて、少し怖かったもの」


 ああ……UMAだと思われていた頃だっけ。

 イレーネと話をしたのはもっと後だったから、いろんな噂が流れてきて警戒していたのか。


「あの……」


 遠慮がちな小声でエルダが口を開いた。


「ブリジット様は……その、婚約は……」

「決まっていませんわ。私は問題を起こした当人ですもの」


 な、なんですと?

 侯爵家の御令嬢なのに、成人したのに婚約者なし?

 もうお母様とチャンドラー侯爵夫人が和解したことは知れ渡っているのに?!

 私か。妖精姫の怒りを買う危険があると思われたのか!


「ディアドラ様、そんな困った顔をしないでくださいな。私の場合、自業自得なんですから。それに昨日、ディアドラ様と御挨拶出来たので、あの後ダンスの申し出をたくさんいただきましたのよ。婚約について聞いてくる方もいたそうですの」

「じゃあ、たくさんの縁談が舞い込んできますわよ」


 あの時、ブリジット様は皇太子と親しくなるきっかけが欲しかったのよね。でももう殿下の婚約者候補は決定して、彼女は選ばれなかった。

 あの一件がなければ、彼女も候補にはいっていたのかしら。

 ……の割には、気にしている素振りはないのよね。皇太子とクリスお兄様のカップリングに萌えているみたいだし。

 女心はわからん。


「あの後、実は学園が始まってすぐに、クリス様と殿下にお声をかけていただきましたの。クリス様は呆れた雰囲気でしたけど、笑いながら『何をしてるの。しょうがないなあ』って。おかげで、噂ほどにベリサリオは怒っていないみたいだと同級生は思ってくれて、学園で居心地の悪い思いをすることはなかったんです」


 さすがですわ、クリスお兄様。

 冷たく見られがちだけど、実は優しくて思いやりのある人なのよ。


「殿下には、よく妖精姫に突撃する勇気があったなって感心されてしまって」

「え?」

「黙って立っているだけでも、不思議なすごみがあるだろうって。怖いもの知らず過ぎると叱られましたわ」


 せっかくのいいお話が、台無しだぜ。

 あの頃の私はまだ六歳よ。すごみって何さ。

 私がUMA扱いされた原因の中に、皇太子の言動が含まれているんじゃないの? 




読んでくださってありがとうございます。

誤字報告、助かってます。


少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作の書籍版1巻~6巻絶賛発売中。

i449317

― 新着の感想 ―
[一言] ディアドラの薄本スキルが活躍するのかな?もう少しもう少しと一気読みすると寝不足になってしまいました。これからは、一気読みしてしまうと、寂しくなるので敢えてゆっくり読もうと思います(努力目標で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ