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10歳児の行動で世界的影響?

おかげさまで書籍化されることになりました。

キャンペーンの人気投票も行われていますので、活動報告をご覧ください。


中身と違いすぎていた題名も変えました。

気持ちも新たに連載を続けていきたいと思います。

これからもよろしくお願いします。


「私は彼女の気持ちがよくわかるわ。しきたりにがんじがらめにされたら、ベリサリオにいた頃のような自由な発想なんて出来なくなっちゃう。フェアリー商会が成功したのは、家族の理解があったからよ」

「だろうな」

「殿下もそれをわかっているから、私の好きにさせてくれているの」

「アンディにとっても、きみにとっても、今の距離感がいいわけだ」

「そうよ」


 テーブルに頬杖をついて、不服そうな顔で睨まないでくれるかな。

 怒られているような気分になるから。

 私、カミルを怒らせるようなことしていないよね。


「だったら、帝国の他の男達は何をしているんだ。せっかくの機会なのに、きみの傍に来た男がひとりもいなかったじゃないか」

「あなたがいたせいじゃない?」

「それが問題だろう。他国の男に先を越されて平気なやつしかいないのか」


 いやいやいや。私十歳だし、まだそんな慌てる年じゃないし。

 たぶん妖精姫と結婚するって、とんでもない決意が必要だと思うのよ。

 世界情勢動いちゃうって、カミルが言ったばかりじゃない。

 帝国内でも、本人どころか一族揃って注目の的よ。


「それに私の性格を知っているでしょ? 可愛さがまったくないわけだし、子供らしくもない気持ち悪い存在だから」

「あ゛あ゛? なんだそれは。誰がそんな馬鹿なこと言っているんだ」


 目つき悪いぞー。

 眉間にしわを寄せるなー。


「そのうえ私と結婚するってことは、殿下と話す機会も増えて、うちのお兄様達にも認められなくては駄目なのよ。彼らと対等に渡り合える度量がないとね」

「……あの兄貴達はどうにかならないのか。特にクリス」

「私の大好きなお兄様達に何か問題があって? それに私だって、会話についてこられない旦那さんなんて嫌だもの。私はちゃんと自立するから、相手も自立してくれないとね。私が守らないと暗殺されちゃいそうな人じゃ駄目でしょ。出来れば同じようなことに興味があって、相棒みたいに一緒に人生を歩んでいける人がいいのよね」

「きみと互角の立場の男ってことか?」

「出来れば」

「そんな男いるのか?」

「うちのお兄様達はすごいと思うわよ。殿下だって互角以上でしょ」

「ディアと年齢が釣り合い、アンディやきみの兄貴達並みの男が、この世に何人いると思っているんだ」


 うっ……確かに。

 身分的には何人もいるけど、中身がおばさんの私にはディアとして年齢が釣り合う子のほとんどは、お子様すぎて会話がつらいことの方が多い。

 お兄様とも仲良くしている男の子達は年齢の割に大人びていて、私も話しやすいけど……。


「いたとしても、私の本性を知ったら、みんないいお友達になっちゃうのよね。令嬢扱いしなくて済むし、男友達みたいなんじゃないかな」

「いや、そうじゃないと思うぞ。あいつらがじゃなくて、ディアが相手を友達としか見ていないだけだ」


 どさりと背もたれに寄りかかって足を組んで、カミルは目を細めて呆れた顔をしている。

 少し離れた位置にいるキースやジェマが、頷いているように見えるのは気のせいかな。


「ダンスの練習をした時にいた男達だって、身分的にも性格的にも、今すぐは無理だとしても本人が努力すれば、充分にきみの相手になれる男達だった」

「だから彼らは」

「友達としか見ていないのは、きみのほうだ。婚約にしても恋愛にしても、理想ばかり並べて現実味がない。俺のことだって、いいお友達だと思っているんだろう? だから無防備についてきた」

「え?」

「今頃、広間じゃ大騒ぎだぞ」


 あ、やばい!

 さっき、アランお兄様とパティが踊る時には、影響についてちゃんと考えていたのに、自分の時にはまったく気にしていなかった。

 妖精姫がルフタネンの公爵と踊って、途中でふたりしてテラスに出て行ったって、他の人達から見たらどう思われるかを考えてなかったわ。


「うかつだよな。そういうところに付け込む男が、今後いくらでも出てくる」

「カミル、勇気あるわね。お父様とクリスお兄様が怒り狂っているわよ」

「……戻ったら、すぐにクリスをダンスに誘ってくれ。ここで殴り掛かられた場合、国際問題になる」

「だったら誘うな」

「だからさっきから自覚を持てと言っているだろう。今はまだいいが、今年はルフタネンに来るんだろう? 一年なんてあっという間だ。その次の年には、きみだって十二歳だ。ルフタネンを訪問したのだから我が国にも来てくれと、他国の王族がやってくるかもしれない。そいつらは、隙あらば自国に連れて帰ろうとするかもしれないぞ。既成事実を作ればこっちのものだと考えるやつも出てくる」


 既成事実?!

 十二歳の女の子に?!

 犯罪だろ、それは! ぶちのめすわよ!


「犯罪? 他国では十二歳で結婚する令嬢は普通にいるぞ」

「帝国では十五歳までは本人の意思が尊重されるの。無理に婚約を決めたり結婚させちゃ駄目なの!」

「帝国ではの話だろう。他国の王族がそんなこと気にするもんか」

「だから王位継承権を持っている男は対象外なの!」

「じゃあ、誰なら対象になるんだよ。いないだろ」

「そんなこと……」


 わかってる。前世からそうだった。

 同人で描いた物語のような恋に憧れて、現実の男達に目を向けていなかった。

 職場で知り合う相手はあくまでも同僚。

 男友達は、あくまで友達。

 じゃあ誰と恋愛するのよって、お姉ちゃんに呆れられていたわ。


 この世界に来てからもそう。

 美形は遠くから観賞するもの。でも思い描く恋愛では格好いい人が恋人になっている。

 年が近い男の子は子供だから無理。

 だけど異性として意識出来る年齢の男性は、たいてい結婚しているし、私を好きになったらロリコンだ。恋愛対象には出来ない。

 かといって、高等教育課程の十五歳から十八歳の男の子達と、親しくなるために動いて来なかった。


 恋愛はいずれするもので、十五までに誰か探せばいいや。

 そうやって後回しにしているうちに、条件のいい男性はどんどん彼女が出来ていく。

 前世でもそれで失敗したのに、今回もまた同じことをしようとしている。


「でもまだ十歳なのよ」

「きみのどこが十歳なんだ。年下から選ぶなんてありえないだろう? だったら相手は年上なんだ。残り物に福なんてないぞ」


 うううう。反論出来ないのが悔しい。

 でもじゃあ、どうやったら誰かを好きになれるの?

 恋に落ちるって、どんな状況なのよ。


「カミルはどうなのよ。女の子と話したことがないなんて言っている場合じゃないんじゃないの?」

「あのな、なんで俺がきみを連れ出したと思っているんだ」

「……国のためでしょ」


 ルフタネンだって妖精姫は欲しいんだ。

 どの国の人達もそう。

 妖精姫で、皇太子の信頼が厚くて、ベリサリオの娘という記号に魅力を感じている。

 私が不細工でも、性格が悪くても、アホでもかまわない。


「もうひとつ条件があったわ」

「まだあるのか」

「重婚は許さない。側室も愛人も駄目」

「なんだ、そんなことか」


 そんなことなの?!

 この世界では、王族も貴族も第二夫人を持ったり、愛人を作っていたりするものなのよ。

 帝国の場合、女帝と結婚した将軍が愛人を持つなんて許されないし、うちのお父様は愛妻家だし、パウエル公爵みたいに亡くなった奥様をずっと愛している人もいるけど、それはむしろ例外よ。後継ぎが生まれないと困るから、愛人がいる人もたくさんいる。


「ルフタネンは、前王……つまりうちの親父が、何人も妃を持ったせいで争いが起こったんだぞ。それに俺は女の子が苦手だと言っただろう。ひとりで十分。そんな何人もの人生に責任持てるかよ」


 話しているうちに、どんどんカミルの言葉遣いが崩れていく。

 私のほうも、令嬢らしい言葉遣いじゃなくなっているけども。

 それより、なにより、なんでこんな話になっているのよ。


「ちょっと、いつから私を連れて帰ろうなんて思い始めたの」


 今までそんな素振りはなかったよな。

 むしろ、私から逃げていたもんな。


「今朝」

「はあ?!」

「精霊王が集まるなんて、どの歴史書にも載っていない異常事態なんだよ。てっきりアンディと結婚して皇妃になると思っていたのに、皇太子婚約者候補が発表されたんだ。この情報は今夜には近隣諸国に広まるぞ」


 私のせいじゃないじゃーーん!

 精霊王と皇太子のせいなんじゃーーん!!


「他所の国に取られるよりは、ルフタネンで欲しい。ディアなら話がしやすいし、商会の仕事も一緒に出来る。モアナなんて泣いて喜ぶぞ。俺は王位継承権は放棄しているし、全属性精霊獣持ちだ。悪い条件じゃ……」

「クリス様がこちらに来ますよ」


 窓からひょいっとサロモンが顔を覗かせた。


「アランは?」

「一緒です」

「なら大丈夫だ……と思いたい」


 一気に弱気になってるじゃないか。

 だったら、最初から誘うな。


「カミル、なんの話をしているのかな」

「くそ、タイムアウトか」


 サロモンを押しのけて、テラスに出てきたクリスお兄様の冷ややかな顔。

 せっかく温度調整していたのに、一気に寒くなった気がするわ。


「兄上、落ち着いて。相手は賓客なんですよ」

「アラン、そもそもおまえが」

「クリスお兄様、次のダンスは私と踊ってくださいな」


 立ち上がって、クリスお兄様の元に駆け寄る。


「え? ああ、それはもちろん……」


 急にクリスお兄様の表情が緩んだ。ちょろい。

 他のことに関しては容赦なく優秀なのに、私には本当に甘い。

 うちのお兄様達、マジ天使。


「カミルに聞いたお話で、お兄様に相談したいことも出来ましたの。私、世界のことまでは考えていなかったから」

「世界?」

「精霊王が勢揃いしたせいで、近隣諸国が一気に動き出してやばいって話をしていたんだ」


 そういう話もしたね。たしかにね。最初のうちね。


「……ああ、それは僕も気になっていた。特にベジャイアとシュタルクだ」


 私の座っていた席に腰を下ろしたアランお兄様が、難しい顔つきで頷いた。

 そうか。そんなにやばいか。


「一番気を付けた方がいいのはシュタルクだ。今日の式典に参加したがっていたのに断ったんだろう?」

「ルフタネンに泣きついた?」


 にっこりと微笑むクリスお兄様の笑顔が黒い。

 なのに笑顔を返すカミルもすごいな。

 空気がピリピリしている感じがして、とんでもなく居心地が悪いよ。


「かなりしつこかった。この周辺諸国の中では、一番歴史の古い由緒正しい国だという自負があるのに、最近は帝国に国力で差を広げられている。どうあってもディアを自国に呼びたいんだろう」

「あそこの王都はひどいらしい。王宮の庭の花が全滅したそうだ」


 アランお兄様、その情報はどこから仕入れてきたんですか?

 そんな話、シュタルク国民にも知らせていないんじゃないの?


「朝の話を聞いたあとで、ディアをシュタルクにやるわけがない。もちろん、ルフタネンにもだ」

「過保護過ぎるのもディアのためにならないと思うが? それにどうせ俺は明日の夜には国に帰る。俺の存在をやばいと思った帝国の男達のほうを気にした方がいいんじゃないか?」

「僕を番犬にしておこうってことか?」

「まさか。クリスが番犬なんて可愛い存在なわけがないだろう」

「兄上は皇都に生活の場を移すから、番犬にはなれないんだよ」

「アラン!」

「まじか……」


 こいつら、私の意向を無視して、なんで話を進めているのかしら?

 そもそも祝賀の舞踏会をほっぽり出して、兄弟揃ってここにいるのはまずいわよね。特にクリスお兄様は、婚約者候補の傍にいないといけないんじゃないかしら?

 ベリサリオの兄妹と一緒に、カミルだけがここにいるのだってまずいでしょ。


「僕がしっかりとディアを守るから大丈夫。だからディア、次のダンスは僕と踊ろう」

「アランお兄様、人を好きになる時ってどういう時なんでしょう」

「え? 急にどうしたの?」

「だってクリスお兄様にわかるわけないし、カミルだって女の子が苦手だと明言しているんですもの。他に聞く相手がここにいないじゃないですか」


 試しに周りにいる人達を見回してみたけど、キースもジェマもニックも、そっと視線を逸らしている。

 私の周りは、恋愛に疎いやつしかいないんかい!


「ディア、アランはノーランドで初めてパティを見た時に一目惚れしたんだよ」

「兄上!」


 うわ、それってまだパティが六歳でアランお兄様が八歳の時じゃないの?

 四年越しの初恋か。

 

 いいなあ。せっかく若返ったんだからさ、私だって恋がしたいよ。

 十五を過ぎても相手が出来なかったら、政略結婚でも我慢するからさ。


「さすがに舞踏会に戻らないと。ディア、僕と踊ろう」

「いえ、やっぱりクリスお兄様はモニカやスザンナの傍にいてください。きっといろんな人に囲まれて、根掘り葉掘り聞かれているはずです」

「いやでも……」

「お兄様が守らないといけないのは誰ですか?」


 私のお友達を泣かせたら許さないんだから。


「……わかった。アラン、あとは頼む」


 悲しい顔をして背を向けないの。

 そんなとぼとぼ歩かないで、しゃんとせんかい!





 結局、アランお兄様と踊った後にクリスお兄様とも踊ってからベリサリオに戻った。

 スザンナに、


「情けない顔をしているから、一曲踊ってあげて」


 って、言われてしまうクリスお兄様ったらダメダメだわ。

 モニカにも、


「クリスのシスコンぶりは昔っからだもの。今更よ」


 と、笑われていたし。


 家に帰ってからも大変よ。

 今度はお父様に、テラスで何を話していたのかと散々聞かれたわ。


「あなた、その前に気にしなくてはいけないことがあるでしょう。カミルはルフタネンからの賓客で、帝国の舞踏会は初めてだったのよ。知り合いのお嬢さんもいないのに、どうしてあらかじめダンスの相手を用意しなかったの? ディアが一緒に踊らなかったら、大事なお客様に恥をかかせるところだったかもしれないのよ」


 さすがお母様。

 そうなのよ、そこが重要なのよ。


「確かにそれは考えていなかった」

「皇族に女性がひとりもいないせいだわ。でもそれにしても、女官長や舞踏会の責任者が気にするべきところでしょう」

「今までエーフェニア陛下の周りはバントック派が固めていただろう? 皇太子妃候補のお妃教育を始めるにあたって、全国から新たに人員を集めているんだ。しかし身元確認や身辺調査をしないうちは皇宮にいれるわけにいかない。まだまだ人材不足なんだよ」


 皇太子は政治的なことで手一杯だもんな。

 皇室に女主人がいないと、こういう時に困るのね。


「それで、カミルとは何を話したんだ?」

「帝国の人間は、五か国もの近隣諸国の精霊王が帝国に姿を現したことを、もっと重く受け止めたほうがいいと言われました」

「は?」

「他国の動きが活発化して、私を無理に誘拐しようとする者も出るかもしれないと」

「そういう話をしていたのか?!」


 多少、盛ってはいるけど嘘ではないわよね。

 既成事実がどうとか、カミルも連れて帰りたいと言っていたとかは言えないもん。


読んでくださってありがとうございます。

誤字報告、助かってます。


少しでも面白いと思っていただけたら↓から評価していただけると嬉しいです。

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本作の書籍版1巻~6巻絶賛発売中。

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― 新着の感想 ―
[一言] 連投すみません 作者さんの言う通りもう読む気はなかったのですが、昨日あまりにも主人公にイラッとしてしており、厳しい事を言われてスッキリしたので思わずコメントしてしまいました。この作品のストー…
[一言] いつまで、無自覚です☆自分の影響力甘く見てました☆をやるつもりなんだろうと思ってましたが、いい加減現実見ろって釘さされてすっきり。 そもそも貴族としての教育受けてたなら他国から妬みや諸々注目…
[気になる点] 「だから王位継承権を持っている男は対象外なの!」 「じゃあ、誰なら対象になるんだよ。いないだろ」 「そんなこと……」 どうしても結婚ありきなんですね。結婚なんてしなくても十分幸せにな…
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