67わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第2章 第7回
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「パル君は、もう、ひとりで生きて行けるよね。」
ウナが言った。
パル君は、もちろん、ひとりでやって行ける力はあるのだろう。
しかし、ここしばらくの間、彼はウナと一緒に生活することが出来た。
あの、旅行に出てから、びっくりするようなことばかりが、やまほど起こった。
一旦は、すっかり、諦めていた、母との平和な生活である。
それが、『国王』さまに、なれだって!
やっと来た平穏が、また、まもなく崩壊するかもしれないという、どうしようもない不安は、口には出さなかったけれども、当然パル君には、あったのだ。
実際、パル君を巡る状況は、すっかり変わってしまった。
あの、嵐のような集会では、パル君の出番はまだなかった。
今から思い出せば、あれはやはり、最後のお祭りだったのだろう。
『最初の』かもしれないが。
人々には、爆発できる場所が必要だった。
火星も金星も、もう、おしまいになってしまったことだけは、誰の目にも明らかだった。
それまでならば、女王様や、ビューナス様の魔力が効いたかもしれないが、どっちもいなくなったら、お仕舞いなのは、どうにもならないものだと、みんな納得せざるを得ない。
そのはずである。
もっとも、ビュリアが、女王様の力と財産を引き継いだと言うことを、多くの人々が、素直に納得できるかどうかは、いささか、賭けな部分だったのだ。
多くの人々は、すべてを失った。
ビュリアだけが、その取り巻きだけが、特をするのは、どう考えたっておかしいだろう?
そこは、火星の女王の『心理支配』が、最後まで持つかどうかが、実際、勝負の分かれ目だったが、結局のところ、女王様の支配力は、想像以上であったと、言わざるを得ない。
結果が、そこんところを、証明してしまったわけだ。
もしかしたら、ビュリアが、そこまでの力を、女王から預かっているのかもしれない。
ブル博士などは、なんとか、もっと違う結果に行き着きたかったのだが、なかなか、そこまでは困難だったわけなのだ。
だから、ブル博士とその数少ない同志たちなどには、ビュリアに反発する動機は、ありありだった。
ただ、大物の一人、あの議長さん・・・つまり、金星のもとナンバー2。
金星の、『元』、情報局長さん。
カタクリニウク氏。
老いてまだかくしゃくとした、彼の心中は、謎だったけれど。
火星人も、金星人も、あまりにも長い時間、女王やビューナスに頼ってきたし、実際、いざというときには、頼りになったのだ。
不可思議な力を発揮し、数多くの危機を救ってきた。
その、かなりの部分は、『伝説化』しているが。
女王と、怪物の食料にされながら、また一方では、かなりの搾取をされながらも、そうした『奇跡』をたくさん見せられ、あるいは、大部分は、教え込まれてきたわけなのだ。
倒錯した倫理観ではあっても、長年続けば、当たり前になる。
最後の時以外は・・・・・。
結局のところ、誰が、最後の引き金を引いたのか、はっきりわからずじまいだった。
ブル先生と、その同僚は、なんとかそこんところをいぶり出し、相応の断罪をしようとした。
まあ、怪物ブリューリは、幸運にもというか、皮肉にもというか、やっかなことに、と言うか、最後は女王の力によって封印されたらしい。
女王は、『宇宙怪物ブリューリ』によって、操られた結果、おそろしい人喰い怪物にされてしまったんである。
ブル先生たちは、この解釈を、なんとかして、ひっくり返そうとしたのだが、どうにもならなかったのだ。
一つは、明確な『証拠』が、なかったことがある。
そこらあたりの真実は、あまりに古いことがらであり、しかも、意図的に消去された歴史の記憶にまみれてしまって、この世からは、無くなってしまったらしい。
『火星の第一文明』は、未だにまっ暗闇の中だ。
そうしたものが、あった、ということさえ、科学とオカルトの中間地点くらいだ。
おかげさまで、ブル博士は、まっとうな大科学者としての地位を手にすることが難しかった。
しかし、博士は諦めては、いない。
その、確固たる証拠は、必ず、火星の内部に。まだ、埋まっているはずだ。
もしかしたら、金星に隠されているかもしれない。
金星の『ママ』は、刺抜きされたような状態で、この先、うっかり近づけないことになりそうだが、ここが、狙い目なんじゃないか?
ブル先生は、そうも考えていた。
『ママ』は、きっと、多くの事実を知っているに違いない。
まあ、様々に、矛盾したことがらが、いっぱいあったわけだったが、いまさらあせっても、どうにもならない。
結局、火星も、金星も、そのまま、終わってしまった。
もっとも、だから、ブル先生たちが諦めるわけがない。
彼らは、あえて、ビュリアの王国に入り込む決断をした。
マヤコも、仲良しを光人間に変えられてしまったことに対する、消しようのない、疑惑を抱えていた。
勘の鋭いマヤコは、どうも、ビューナスだけの意図で始まったことだとは思えなかった。
太陽系の裏側には、『火星の女王』が、もともと、とっぷりと、関わっている。
マヤコは、そう確信していたのである。
だから、いやではあったが、中枢に入り込むことに、同意した。
せっかく、誘ってもらったんだから。
そうは言っても、結局のところは、リリカと、ダレルが中心の体制が固まり、ビュリアは、予定した通りに、引き続き、地球を手に入れ、そこは『聖域』として、周囲からは隔離して、やがて、現れるはずの、地球人類の成長を、暖かく見守ることになったわけだ。
『王国』は、その『見張り番』でもあったわけだ。
ただ、ビュリア自身は、まあ、多少は、どうしても、手出しをすることにはなるのだが、基本的に、自分は政治には一切かかわらない事にしたし、やむを得ない事も、その大部分は、パル君にお任せとし、その後見人として、生きたコンピューター、『アニーさん』に、そのお世話を任せて、しまったわけなのである。
問題は、『ウナ』、だったのだ。
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そのビュリアは、間もなく、ウナを『教会』に呼び入れて、会談を持った。
それは、新しい『王国』の将来を決定付ける、たいへん、重要な会談となったのである。
いや、それどころか、はるか彼方の未来の地球の、いや、太陽系の未来に至るまでの、と、言った方が良いかもしれない。
当面のところは、『タルレジャ王国』の脊椎を固めるという、重要な意味合いがあった。
************* ふろく ************
「なんかもう、やましんさん、これだけ書くのに、一か月かかってません? もう、青息吐息?」
幸子さんの手から、お饅頭が無くなることはありません。
これで、病気にならないのは、彼女が幽霊で、女神様だからです。
「一か月は、オーバーですよ。まあ、遠からず、だけどな。」
「ふうん。人間は老化するしなあ。日一日と、衰えて行く。あわれなことね。」
「まったく。じゃあ、お饅頭いっこ、下さい。」
「あらあ。珍しい。お医者様に、叱られるんでしょう?」
「いっこくらい、まあ、いいじゃないですか。どかどか~~は、いやですよお。いっこ、でいいです。」
「よしよし。じゃあ、お饅頭あらし、いっこ。行きます!」
「まったまった、それじゃなくて。そこの、一個でいいです。」
「あらま。もうすぐ春だと言いますのに。人生短い。ドンと行きましょう。ドンと。」
「あい。そうしたい。」
「あ、ドンと寝っ転がったか。」
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