67わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第二章 第10回
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ウナは、ビュリアから呼ばれていた。
順番から言えば、ビュリアがダレルと火星の地下を見て回っていた時間と、1歩遅れだが、ほぼ同じ時間である。
常識的には、ひとりの人間が、同時に別の場所で、別の人と会見しているということは、双子などの場合は、よくあるトリックかもしれないが、実際、ビュリアなら、十分、普通にあり得ることなのだ。
というのも、コピー人間を作成し、活用することが、彼女には可能だからという、ずいぶん簡単な理屈である。
その力が、リリカ由来の火星上の技術なのか、それとも、女王由来のものかは、周囲の人からは、区別がつかないものだ。
「ねえ、ウナさん、パル君が国王になったら、あなたは、どうするお考え?」
ウナは、昔からの通り、少しうつむき加減に答えた。
「わかっています。この体は、これ以上あまりもたないのでしょう。」
ビュリアは、すこし、気の毒そうに言った。
「そうね。かなり、これまで無理したからね。その体は、ずたずたになってるわ。《宇宙クジラ》は、その体の再生自体は可能だと言っている。ただし、莫大な報酬を要求して来るわ。前回は、どうしても、必要だった。」
「わかっています。あたしの役割は終わったから。」
「いいえ、そうじゃない。」
ビュリアは強く言った。
「そうじゃない。新しい役割があるからよ。あなたは、光人間を統率しなければならない。確かに、アレクシスとレイミは、いまだに光人間には、一種の特別なカリスマだけれど、残念ながら、実務的な役には立たないわ。それでも、プライドはやたら高いし、それなりの知恵が働くから、やっかいなの。《新の都》に入れるつもりだったのに、事象の境界の前で止まって隠れていた。どうやったか知らないわ。でも、ビューナス様ならば、対処方法を教えていたんでしょうね。光ならば、出て来られる位置にいたわけだ。まあ、彼らには、秘められた力がありますから、悪い《悪魔》になられたら困るしね。祭り上げておいて、あなたは実権を持ちなさい。神が、真の実力者でなくたって、かまわないし、やりかたは、いくらでもある。ただし、要注意。あなたの後ろには、女王がいつもいることを、ふたりに、しっかりと、意識させておく必要があるわ。まあ、あなたがどうするかには、無限のバリエーションがあるんだから。いいこと、やがて、地球人が現れる。その精神的な背後にあなたが働くことを女王様は認める。いいわね。永遠じゃない。やがて、人の神の役割も終わる時が来る。それ以降は、またその時のこと。」
「火星人と金星人が蘇る時が来るのですか?」
「そうね。たぶん、来る。でも、その時代も、限られた時間よ。地球から見たら、ほんの、一時に過ぎないわ。でも、今から見たら、遠い未来。まだ、決まってはいない。女王様は、行き先を示すことはあっても、決めつけたりはしないお考えになっている。今はね。」
「ウナは、独裁者は嫌いです。」
「もちろん。だから、あなたが、どう、管理するかは自由よ。でもね、独裁者は現れる。絶対にね。あなたは、支配者ではない。管理人さんよ。それなら、いかが?」
「まあ、どう違うのか、分かりませんけれど。いずれにせよ、人間の姿では、もういられない。そこは、分かっています。あの・・・」
「うん?」
「マヤコさんは、光人間になるのですか?」
「そこだ。あの人は、どうやら、ちょっと、変わった体質らしい。そこも、研究の対象になるわね。でも、彼女は、おそらくは、光人間にはならないでしょう。」
ウナは、ほっとした様子だった。
「マヤコさんには、ずっと、人間でいてほしい。パル君は、不死化するのですか?」
「そうだな。もう少し先に、本人に決めて貰いましょうよ。光人間には、したくないの?」
「したくないです。光人間は、人間じゃないです。不死化したひとは、まだ、人間です。一度、光人間になってわかったんですもの。光人間は、人間らしい感情も、感動も、消えてしまう。ただ、ずべてではなかったような気もしますが。」」
「ふうん・・・・。どうかなあ。あたくしの立場から言えば、それも、かなり、疑問なんだけどね。まあ、あなたは、いま、パル君には、永遠に生きてほしい?」
「そりゃあ、もう。」
「そうか。まあ、永遠に国王ではいられない。ほかの何かにならなくては。パル君が望めば、体はそうしてはあげるけど、別の人生を見つけなければならないわ。まあ、パル君なら、上手くやるだろうけど。本人が、同意するかどうかは、わからないわよ。」
「はい、でも。ウナは、パル君をずっと見ていたい。いつまでも。何になっても。その気持ちを、永遠に失いたくはない。そこが、すごく、問題です。」
ウナは、そうとう、我慢していたのだが、ついに、泣きだしてしまった。
「そうね。それでも、宇宙の最後は、かならず、来るしね。」
「宇宙が終われば、すべて、おしまいになるのですね。」
「そうよ。女王様以外はね。でも、そこは、まだ、謎だ。女王様も、その真理が分からないでいるの。」
「ウナは、真理はしらなくていいです。パル君だけでいい。」
「ああ、なるほど・・・・いいわよ。光人間は、余計な感情に左右されないように設計された。でも、あなたに、感情を残しておくことは、可能だ。でも、かえって、つらいわよ。かなりね。光人間の中で、自分だけそうなのは。いいの? それでも?」
「はい。パル君のためになら。」
「そう。わかった。そこは、じゃあ、受け入れましょう。」
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「ぼくは、わるいけど、あんたの、言いなりにはならない。」
ダレルは、強調した。
「そんなこと、言わなくても分かってるわよ。でも、あたくしは、あなたの母親役を、女王様から引き継いでいるのよ。これでも、心配してあげてるんだから。」
「押しつけは、不要だ。」
「まあ、そっけない。あなたは、母を母と呼んだことがない。それでは、母は悲しい。」
「よく言うよ。化け物のくせに。」
「化け物、結構。むしろ、そう言われるとね、嬉しい位だわ。嫌われても、母は母。」
「ははははは。母らしいことを、何かしたかい?人間を食べさせようと、努力したくらいだ。」
「それは、ブリューリのしわざだ。」
「ほう・・・確かにそうなのかも。でもね、火星の《第1期文明》は、霧の中なんだ。女王は知っている。当事者なんだから。生きた歴史がいる。あんたも、知ってるのかな。この際、本にして出したらどうかな。教祖様になったんだ。時間はあるし、ものすごく、貴重な本になる。懺悔にもなる。どう?」
「ふうん・・・・いいわ、考えてみる。あなたが、そう、勧めるのならば。」
「ほう、珍しく、反対しなかったね。出すなら、まず、ぼくに見せてほしいものだ。」
「それも、考えとく。」
「アニーさんに、代筆させちゃだめだよ。」
「そのほうが、客観的に、書くかもよ。」
「懺悔にならないよ。あんたが、涙を流しながら、メロメロになるのが見たいんだから。」
「ありえない。女王に、感情はない。」
「ビュリアには?」
「そうだな。考えてみるわ。」
ビュリアは、ウナに約束をしたばかりだった。
二人は、それから、火星を一旦、離れた。
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