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吟遊詩人の幻想曲  作者: 烏合の卯
翼人義賊と法族狩りと吟遊詩人
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第24話 吟遊詩人と翼人賢者

「クラインの計略である事はミハスから聞いた」

「あの……悠遠のミハスか?」


 船内が不穏にざわめき気丈なレダーグさえ唾を飲んだ。『悠遠のミハス』と言えば先代のヴォルゴーから名高い大魔術師だ。時空魔術のエキスパートだから『永遠に辿り着けない』という二つ名らしい。だが、実際にミハスを見た勇者の大半が『拍子抜けした』という感想を残す。そんな勇者たちの腑抜けた表情を見るたびに、ミハスはなぜか嬉しそうな顔をする。

 クレイディアは別段驚く様子も見せなかった。


「どこでミハスと? 知り合いなの?」

「ニケもミハスも懇意だ。私は先代のヴォルゴーから懇意だった」


 女だけの船員は怪しみ不安がる。クレイディアの眼差しだけは常に真剣で、それが私に居心地を悪くさせなかった。


「あなた、いったいいくつ? 年齢は」

「知らない。ただ三千年ほど昔までは記憶がある」


 彼女が何度も言った通り、彼女は私を無条件に信頼しているようだった。現に彼女は私の年齢についてそれ以上詳しく尋ねなかった。だからだろうか? 全てを喋ってもいい気がした。


「クラインの計略って?」

「ミハスもニケも具体的な作戦については聞いていなかったらしい。独断だ。ただ『殲竜を倒す』と豪語していたらしい」

「どういう事? 殲竜は魔族の見方ではなかったの?」

「強い相手と戦う、それだけが行動理念の竜だった。おそらくは人と魔、どちらにとっても毒でしかなかった」

「あなたは殲竜も知っているのね」

「顔見知りではあった。ラナックでは『俺より強い奴を待っている』と言っていた。『俺はラナックの人間を殺していない』とも」

「つまりクラインは『ライ=ラナックで待っていれば強い相手がやってくる』、そんな餌を撒き殲竜を釣った。自分は街の人を皆殺しにして、最後の生き残りのふりをして殲竜の仕業をでっちあげた」

「可能性の域を出ない」

「少なくともあなたはそう予想した。そして推理どおり死体は消えていた」


 この一連の会話も心地よかった。理路整然として問題解決的だ。そしてこの仮説は検証こそできないが、的を外れてはいないだろう。


「私はクラインが戦っているところを一度も見た事が無い。ただ仮説としてはスマートだと思う。部下の魔族を使ったのかもしれない」

「もし不死身だとすれば、セドゥンピア全滅なんか一人で可能かもしれないわ。しかも誰にも見つからずに殺し続けられたかもしれない」


 ニケはその事を知っているのだろうか? 私と似た性質を持つのであれば、魔術も法術も使えないのではないだろうか? 実力だけが選定理由にはならないだろうが、クラインはどうやって四天王まで成り上がったのだろうか?

 疑問ばかりがふつふつと湧いてきて整理が大変だ。


「いずれにせよ推論の域を出ない、だが殲竜は殺しを自慢したり、手の込んだ作戦をする竜ではなかった」

「それだけじゃない。男の特徴、あなたが聞いた話、根拠としては十分すぎる」


 私は一番気になっていた事を尋ねてみた。


「仮にクラインが首謀だとして、どうするつもりだ?」

「もちろん殺すわ」

「復讐か?」

「それもある。でもこれ以上被害を出さないために必要な戦いよ」

「不死身かもしれない」

「それは気の毒ね。こんな仕事をしていると『死んだ方が幸せだった』と思える方法なんていくらでも思いつくの」

「私も不幸になるだろうか」


 私は不幸者だろうか……自覚は無いが幸せだとは到底思えない。辛い分くらいは不幸者かもしれない。幸せそうなクラインもその逆も私には想像できない。やはり私とそっくりだ。


「ああ、ごめんなさい。あなたに嫌味を言うつもりじゃなかったんだけど」

「実際的な話だ。私は不幸者だろうか」


 つい二度もそんな疑問を吐露した。私らしくもない。彼女なら何か有意義な回答をくれる気がした。


「幸せになりたいの?」


 回答ではなかったがその質問自体は新鮮だった。


「考えた事もない。不幸でもいいのかもしれない」


 クレイディアは私を見つめた。この瞳の中で、どれだけの発想と機転が躍動しているのだろうか。私も長く生きて知恵と知識は働くが、本当に賢い者の発想と機転には舌を巻く。彼らが導き出すシステムは飛躍的で前衛的だ。ややもすると、我々にはその根拠すら理解できず、享受できない。


「ねえ、クラインはなぜそんな事をしたのかしら?」

「知らない。ただただ、クラインは殺す事に熱心なんだ」


 思えば、クラインもまた頭が良かった。いつも焦点が合っていない様な目つきで漫然と頬杖をつき、ブツブツと独り言を漏らしたかと思えばどこかへ消えてしまう。その行動には何か大きな野望や展望があるのかもしれない。


「ねえ、吟遊詩人さん。クラインってどんなやつ?」

「聞いてどうする」


 私はあまり気が進まなかった。話せば話すだけ彼女たちはクラインに近づくだろう。それは無為な死に近づく事と同義に思えた。


「そういう情報や思い出話から人柄を知る事は出来るでしょう?」

「ほとんど会った事もない」


 クレイディアは目を閉じ、翼を揺らめかせた。どうやら彼女は本気で思案する時、こんな仕草をするらしい。


「ひょっとしてだけど、私たちがクラインと衝突するのを故意に避けようとしてない?」


 やはり、彼女は垢抜けて非凡だ。そんな彼女が真摯である以上、私もその誠意に答えよう。


「仇討ちなんてやめたらどうだ? キルビスならともかく、お前たちでは返り討ちに遭うだけだ」


 死なない相手、しかも相手の死を渇望する敵を前に、クレイディア達は見る事も感じることも出来ないとすれば、それは無謀としか思えない。

 しかし返ってきたのは女達の『私たちを誰だと思っているの?』とでも言いたそうな不敵な笑いだった。自負が強い集団特有の笑い声だ。

 クレイディアだけは相変わらずの冷静な顔だった。


「そう言われると燃えちゃう奴ばっかりなんだ、ここは」


 白い歯を見せて笑うレダーグはそんな奴の代表格に見える。彼女達が命も厭わず立ち向かうと言うのであれば問題なかろう……そうだ、なぜ私は彼女を引きとめようとしたのだろうか? 物語を紡ぐのであれば、時には火に油を注ぐことも必要ではないか。


「分かった。ほとんど覚えていないが、クラインの記憶を全て話そう」


 私は手をつける事を忘れていたグラスで喉を潤した。

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