08話 冒険者
今日は二話投稿です。
俺が冒険者のおっさんについて行くと、歩いて2分ほどで目的地に到着した。
「ほれ、嬢ちゃん。ここが冒険者ギルドだ。結構大きいだろ?」
そう言って紹介してくれた建物は、赤煉瓦造りの近代的な建物だった。
中はかなり広かった。手前にテーブルがあり、レストランのような役割も果たしているらしい。奥には受付やクエストボードのような場所があり、このレストランとは軽く仕切られている。
電灯のようなものはなく、白い光を放つ石のようなものが明かりとして使われているみたいだ。明るさは日本で普及しているLED電灯と遜色ないくらいだ。
「あそこが受付だ。一緒に行くか?」
「あ、ここまでで大丈夫です。連れてきてくれてありがとうございました!」
先ほど目をつけていた受付まで案内するか聞かれたが、断っておいた。ここまでくればあとは一人でできるだろう。お礼も忘れずに。
俺はさっきのおっさんと別れると、受付へ向かった。
受付には30代くらいのお姉さんがいた。やっぱりどこの世界でも受付はお姉さんだよな。
「すいません、私くらいの歳でも冒険者になる方法があるって聞いたんですけど、どうしたらいいんですか?」
「えーと...、お嬢ちゃんは今何歳なのかな? 保護者の方は?」
歳を聞かれたので、13歳と答える。父親と母親については、今日衛兵に話したのと同じようにいないということを告げた。それにしてもこの人、実は俺がロリババアだったらキレてるところだぞ。そういう人がいるのかどうか分からないけど。
「なるほど...、少し待っててね。」
そう言って受付のお姉さんは奥へ行ってしまった。上の人と相談しているのだろうか。
5分ほどするとお姉さんは戻ってきた。
「今聞いてきたんだけど、Cランクの冒険者と戦って勝利すれば冒険者として認められるみたいだよ。ただあんまりオススメできないかな...。
お嬢ちゃんは知らないと思うから説明するけど、冒険者にはS、A、B、C、D、Eの6段階があるの。それで、Eランクには成人すれば誰でもなれるんだけど、DランクになるにはEランクの冒険者100人相当の実力がなくちゃいけないの。Cランクになるにも同じ。Dランクの冒険者100人相当の実力がなくちゃなれない。だから成人の10000人のうちの1人の実力の人が相手になることになるの。だから、やめておいた方がいいと思うわよ。勝てた人は過去に1人だけいたらしいけどね...。」
なるほど。冒険者のランクはそうやって決まっているのか。純粋に力量で決まるようだ。
待てよ。ていうことは、Sランクの人は100億人に1人の実力があるってことか...。ていうか100億って地球の総人口より少ないじゃんか。かなり希少ってことなんだろう。
ただこれは自分の実力が分かるいい機会かもしれない。ミツバチの里では俺は結構強くなっていたという自信があるが、何せあの里はかなり閉鎖的な空間だった。だから実力を測るものさしにはならないはずだ。
もし負けても他を当たればいい。仕事は冒険者だけじゃないんだから。
ということで俺はその試験(?)を受けることにした。受付のお姉さんはかなり心配な顔をしてたけどね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その試験(?)はすぐ始まった。
受付のお姉さんに話を通してもらった後すぐに試験官の人が俺を闘技場に呼んだのだ。
その場所は闘技場と言うだけあってかなり広かった。観客席もしっかりありちらほら人が見にきていた。どうやら俺とお姉さんの話を聞いていたらしい。こういうことは珍しいのだろう。この世界では成人が何歳なのかは分からないが、未成年だと保護者に止められるだろうしね。
俺と試験官の冒険者は対峙する。その冒険者が口を開いた。
「では、これから冒険者ギルド入団試験を始める。俺は試験官のサイだ。こっちが立会人のユーフェルト。じゃあユフィ、よろしく頼む。」
試験官のサイがそう言うと、ユーフェルトと呼ばれた女性の立会人が会釈する。ユフィと愛称で呼ぶからにはかなり仲がいいのだろう。
まあ関係ないことは置いといて。
「では、両者位置について。ルールを説明する。戦闘が続行不可能だと立会人が判断した場合、あるいは一方が敗北を認めた場合に勝敗が決する。魔法の使用も可。死亡させた場合は然るべき機関に通報するのでそこは忘れずに。」
ユーフェルトがそう言うと俺とサイは互いに視線を強めた。合図を待って集中する。
「始め!」
その掛け声で試験が始まった。
俺もサイも剣を抜く。
まずは小手調べがてら剣術だけで相手にすることにした。
サイが俺に斬りかかってくる。かなり大ぶりで。
俺はフェイントに注意してバックステップした。
サイの剣は大きく空ぶった。そしてサイはそのまま剣を振り切る。
どうやらフェイントではなかったらしい。単純に俺を舐めていたのか、それが実力なのか。
大ぶりに剣を振ると必ず少しは硬直する。ものすごい筋力の人ならばもしかしたら振り切っても剣を戻せるかもしれないが、目の前の冒険者はそうは見えない。俺はその隙を狙う。
剣術の奥義、《縮地》で一瞬で距離を詰める。俺はサイの腹に掌底を叩き込む。
サイは一瞬のうちに吹き飛び、闘技場の壁に突っ込んだ。砂煙が上がる。
俺は次の攻撃を警戒し刀を構えたが、砂煙の中からは反応がない。機を伺っているのであろうか。
しばらくして砂煙が上がる。すると、サイは気絶した状態で壁にめり込んでいた。息はあるので死んではないようだ。
どうやら俺は相手のことを格上に見すぎていたらしい。本気で打ち込んでいたら危なかった。
それにしても立会人、ユーフェルトは目を大きく開け固まったまま動いていない。結果を早く言って欲しいんだけど。
「えーと、立会人さん、私はどうすれば...。」
「あっ、はい! 勝者、レイル!」
俺が声をかけるとすぐ言ってくれた。何か反則とか言われなくてよかった。
とりあえず冒険者ギルド入団試験は突破できそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
受付のあった場所に戻ると、もう俺のことが噂になっていた。面白半分に俺の試験を見学していた冒険者が少し色をつけて話しているみたいだ。
しばらく待っていると、俺の相手をしてくれていた受付のお姉さんが焦った様子で俺のもとへやってきた。
「えっと、先程は失礼な態度、申し訳ありません。レイル様、こちらにギルド入団を認めるという旨の書類とギルドカード、ランク証でございます。レイル様は今回Cランクの冒険者に勝利したため、Cランクからのスタートとなります。」
いきなり態度をコロッと変えたお姉さんはそう言うと、俺に2枚の紙と免許証のようなカード、金でできたネックレスを渡してくれた。
俺は今渡されたものが何か分からなかったのでお姉さんに聞いてみた。
「こちらの紙は、契約書とギルド規約になります。こちらのカードはギルドカードと言って、身分証になります。国境を越える時なども使用することができます。こちらのネックレスは一目でどのランクかを判別するものです。常時身につけていなくても良いものですが、ギルドにいらっしゃる際はつけてくださると事務が捗ります。」
とのことだ。紙はそこそこだいじなものっぽいが、俺にとってはあまり重要ではないようだ。
ギルドカードに関しては、かなり便利だな。パスポート代わりに使えるみたいだ。ギルドが身分保障をしているということだろう。
ネックレスはランクによって変わるようだ。俺をギルドまで案内しれくれていたおっさんもそのようなことを言ってた。おそらくクエストなどを受注する時重宝するのだろう。
俺がギルドの有用性に驚いているとお姉さんが口を開いた。
「言い忘れておりましたが本来なら入団手数料が必要なのですが、レイル様は今回特別入団とのことで、入団手数料は頂きません。他に何か質問はございますか?」
危ない。どうやら本当ならお金がかかったらしい。俺の所持金は完全に0なので詐欺とかになるかもしれなかった。
せっかく質問の有無を求められたので、俺はクエスト受注の仕方や報告の仕方、ランク別冒険者の人数やギルドの構成など、色々なことをお姉さんに質問しまくった。こういう時に質問しない人は生前俺の周りに結構いたが、俺は断然する派だ。お姉さんは少し迷惑そうな顔してたけどね。
お姉さんの話で分かったことをまとめると、
・クエストはクエストボードに貼ってある紙を、受付に持ってくることで受注できる。
・報酬はクエストによってまちまち。
・ギルドで受注できるクエストの内容は主に採取、討伐、護衛であり、10個に1つくらい変わったクエストがある。
・討伐するのは魔物が多い。魔物とは体内に魔臓のある動物のことで、魔物でない動物を襲う習性があり、知性がある場合がある。
・クエストごとに達成報告の方法は違う(討伐なら討伐したモンスターの特定の部位を持ってくる等)。
・Sランクの冒険者は世界に2人しかおらず、Aランクは150人ほど、Bランクは約1000人、Cランクは約1万人しかいないそうだ。そしてDランクは1億人くらいいるし、Eランクは5億人ほどいるらしい。ちなみに世界全体の人口は50億人ほどいるらしい。元の世界と比べては少ない。100人に1人の実力、と言っていたのはあくまで目安なようだ。
・Sランクの上にSSランク、SSSランクがあるが、冒険者につけられたことはない。討伐が不可能な魔物のことなどを指すときがある。あまり使われない。
・ギルドは世界各国のいたるところに支部があって、グレイトウッド帝国というところに本部がある。
とのことだ。
大体ギルドの在り方などは分かったし、冒険者としての活動もできそうだ。
ただCランクは世界に大体1万人しかいないらしいからたまに絡まれる時があるので注意したほうがいい、と帰りがけにサイに言われた。
まあとりあえず仕事は見つかった。明日からクエストに挑んでみることにしよう。
そう思いつつ俺は宿に戻るのであった。
魔法は〈〉、スキルは《》で囲んでいます。