07話 王都グリッツ
少し書き方を変えて見ました。
俺は地を蹴り空に飛び出した。
少し落ちてしまうのではないかという恐怖心があったがすぐに慣れた。今ではおそらく時速100kmくらいは出ているだろう。周りに何もないので速度は出し放題なのである。
問題はどれくらい続くかだ。というのもこの魔法、ものすごい集中力を費やすのである。下手したら落下して怪我をしてしまう可能性もある。そのため何回か休憩をとりつつ、といった感じになるだろう。
この空を飛ぶことのできる魔法は〈飛行〉と名付けよう。まあ自分で名付けても問題ないだろ。多分。
結局のところ休憩は必要なかった。イグニス水(毎回説明するの面倒だからこう呼ぶことにした)による集中力強化はそれほどに絶大なものだったということだ。
2時間ほど空を飛んでいると、街のような風景が見えてきた。
さすがに街のど真ん中に降り立つのは悪目立ちしそうだ。なので俺は街に到着する少し手前で降りて、あとは徒歩で行くことにした。
2kmほど歩くと門の前に到着した。何か入る時に形式的なものはないのだろうかと考えていると、衛兵が俺のもとへやってきた。
「お嬢ちゃん、こんなところでどうしたんだい? お父さんやお母さんは?」
その衛兵にそう聞かれたので、俺は返答する。
「えーと...私、ミツバチの里から来たんです。お父さんとお母さんはいません。」
「何? ミツバチの里から? てことはあの森を一人で抜けて来たのか。あの森は危険な魔物も生息していて誰も近寄ろうとしないはずなんだが...。よく無事だったな。」
どうやらあの森を一人で抜けることはかなり危険なことであったようだ。空飛んでたからわかんなかったけど。
「とりあえず中に入れてやる。おじさんが1週間くらいは宿代を出してあげるから、何か仕事を見つけるんだぞ?」
そう言うとその衛兵は俺に巾着袋をくれた。重さ的に中にはお金が入ってるみたいだ。
そして中には入れてくれるらしい。1週間も住む場所は見つかった。
にしてもこのおっさんいい奴だな。小さい女の子というステータスが良かったのかもしれない。
「ありがとうございます! お仕事見つけたら衛兵さんにお礼しに行きます!」
「おう! 気をつけろよ! 何かあったら俺のところまで来い! 手伝ってやれるかもしれないからな!」
そう言って俺達は別れた。
よし、とりあえず宿探し、そして仕事探しだ。
(にしても仕事か...。そもそもどんなものがあるかが分からない。どこか情報を集められるところはないのかな。いや、とりあえずは宿探しだ。そうすれば宿屋の女将さん的な人がに何か知っているかもしれない。)
そう決めて俺は足を進めた。
が、重大な問題にぶつかる。文字が読めないのだ。
ミツバチの里では読み書きは習わなかった。純粋に剣術ばかりやっていたのだ。
文字が読めないということは何が宿屋かもわからない。必然的に俺は先ほどの衛兵のところへ戻ることになった。
「お嬢ちゃん、どうした? 早速困っちゃったか?」
「はい。実は文字が読めなくて、宿屋さんがどこにあるのか分からないんです。良かったら連れて行ってくれませんか?」
「おういいぞ! こっちだ! オススメの場所がある!」
「ありがとうございます!」
こんな感じで俺はおっさん衛兵に案内してもらうことになった。
「着いたぞ。ここだ。俺が女将さんに話を通しておくからちょっと待ってろ。あ、君そういえば名前は?」
「わかりました。レイルです!」
「そっかレイルか。いい名前だな。それじゃちょっと行ってくるな。」
そういうとその衛兵は宿屋の中に入って行った。
衛兵はすぐ戻って来た。
「レイルちゃん、準備できたぞ! ほら入って!」
そう言い衛兵は俺に入るよう促した。
宿屋に入ると受付のような場所があり、そこにお姉さんがいた。だいたい20歳なりたてくらいの見た目だ。生前の俺と大体同じくらいの若さだ。結構可愛い。
衛兵はそのお姉さんを指差して言った。
「ほら、この人がここの女将さんのメルだ。メル、この子の面倒、少しだけ頼むな。」
するとそのメルと呼ばれた女性は俺に挨拶をしてくれた。
「レイルちゃん、だったかな。これから少しの間よろしくね! お父さんもお母さんもいないんじゃ心細いよね。でも大丈夫、お姉さんに任せなさい!」
なかなか元気な子だ。年齢の割に頼りになるかもしれない。
「はい! ありがとうございます! 衛兵さんもありがとうございました!」
「おう! 何かあったらまた言えよ! 遠慮しなくていいからな!」
そう言って衛兵さんは持ち場に戻って行った。
「さて、レイルちゃん。君が泊まる部屋に案内するよ。こっちおいでー」
メルは俺にそう言って奥にある廊下に入って行った。俺はメルに着いていく。
階段を上がるとすぐにメルは止まった。
「ここがレイルちゃんの泊まる部屋だよ。はいこれ鍵! 結構広いと思うからゆっくりして行ってね!」
そう言うとメルはさっきいた受付に戻って行った。
俺は鍵を渡されていたのでそれを使い部屋の扉を開ける。
その部屋は確かに広かった。大体15畳くらいだろうか。女の子が1人泊まるには広すぎるくらいだ。
日本だとこのくらいの部屋を借りるのに結構かかるはずなんだけどね。あの衛兵さんはかなり太っ腹みたいだ。
料金のことを考えていて思い出した。
今、俺には金がない。文字通り一銭もないのだ。何か入手する手段を得なければならない。ミツバチの里では衣食住全てが提供されていたので気にもとめていなかった。
とりあえずは街に着いたことだし、金銭入手の手段の確保が先決だ。1週間はあの衛兵さんのおかげで泊まることができるが、そもそも食料もないのである。また野生のイノシシとかを狩って食べるのはゴメンだ。
ということで、さっきの女将さんのところへ行って何かいい仕事はないか聞いてみることにした。
あの人ならいい場所を知ってそうだ。
そう思い俺はさっきの受付へ向かう。が、そこには誰もいなかった。
「あれ、メルさーん?」
と呼んでみても反応がない。どこかに出かけているのかな。
今俺には二つの選択肢がある。
一つは、このまま宿屋に残りメルさんの帰りを待つという選択肢。
もう一つは、宿屋を出て一人で探索するという選択肢。
前者は、いい仕事を見つけることが確実である可能性が高いが、待っている間暇だ。
それに対して後者は、その確率は低いけども、異世界の街を探検できるという点で魅力的だ。
ということで俺は外に出て情報収集をすることにした。仕事を見つけられるようになるかどうかは俺の技量次第になるけどね。
宿屋を出ると道が左右に広がっている。
問題はどっちに行くかだ。俺はこういう時、昔からいつも右へ行っていた。右利きだったのもあるかもしれない。まあそれは置いといて、俺は右に進むことにした。
歩いていると色んな人が道にいるのが分かる。白いフードを被った行商人風の人や客引き、大きな俵を抱えた農民のような人とかね。
全体的に見てこの街の文化レベルはあまり高くなさそうだ。道に馬がいる時点でそのことが伺える。道路もアスファルトなどで舗装されているわけでもないし。
ただ異国情緒と言ってはなんだが全てが興味深い。見ていて楽しいのだ。こういうのってワクワクしてくる。
中でも俺の目に留まったのはたまに剣や弓で武装している人だ。日本では帯剣なんてしていたら即逮捕だ。だがこの町ではそういうことがないらしい。一応もしかしたらこの街限定なのかもしれないので、「この世界」とは考えないでおこう。
そういえば俺も帯刀してたけど何も言われなかったし、結構普通のことなんだろう。ちなみに今腰の後ろの方でぶら下がっているのは鞘が黒くて鍔のない日本刀のようなものだ。ミツバチの里でもらったものである。サイズも今の俺の身長に合わせてあるので丁度いいくらいの長さだ。
ちなみになんで後ろにぶら下げているかというと、忍者みたいに背中に差したり、侍みたいに腰に差したりするためには帯などをきつく締めないといけないからだ。帯をきつく縛ると結構苦しいし動きにくいので、刀には紐をつけてショルダーバッグを後ろに持ってくるような感じでぶら下げている。これが一番楽だ。
興味をひかれたので俺は帯剣している人に話しかけてみる。
「すいませーん、その剣って何に使うんですか?」
「ん? お嬢ちゃん、冒険者を知らないのか?」
「えっと、田舎の生まれなので、全然何も知らないんです!」
「そうかそうか、冒険者ってのはなあ、ギルドに依頼されたクエストを受注して依頼者の抱えている問題を解決する人のことさ! ちなみにこのネックレスが冒険者の証だ。俺は今Dランクだから銀で出来たネックレスだな。でもお嬢ちゃんまだ小っちゃいから冒険者になるのは難しいかもしれないぜ? 最低でも15歳なのが原則だったはずだからな。」
「なるほど、詳しくありがとうございます! そうなんですか、でも例外はあるんですよね?」
「いいよいいよ。うーん、あるにはあったらしいんだけど俺は分かんねえなあ。ギルドに行って直接聞いてみるか! 丁度俺もギルドに行くとこだったんでな、案内するぜ!」
いきなり面白いものを発見できたようだ。それにしても冒険者か。ゲームとかではよく聞いた単語だ。一応剣術とか魔法は使えるし、なれるかもしれない。まあ他にいい仕事がありそうだったら冒険者じゃなくて他のやつにするけどね。
俺は礼を言うと、今話していた冒険者のおっさんについて行った。
構図的には幼女を上手い言葉で騙して連れて行ってるおっさんと幼女なんだけどね??
でもこの人は善意で言ってると俺の勘が告げてるし、アメちゃんあげるとかも言われてないからきっと大丈夫だろう。
まあ何かあっても最低限の護身はできるだろう。俺の剣術と魔法がどれくらい通用するか分からないけど。
誰でも基本的には幼女に優しいですよね。