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RALE  作者: たけちる
第一章
7/10

06話 剣術鍛錬、そして旅立ち

 魔法ばかり使っていると身体自体はあまり使わなくなる。狩りをするにも魔法で足りるからな。まあ俺はこの世界に来てから一年ちょっとしか経ってないし、その中の一年は洞窟で寂しがり屋のおっさんと二人っきりだったので、自分の身体能力など知る由もなかった。そのおっさんことイグニスも指摘してこなかったしな。


 俺が自分自身の魔力量が何に起因しているかに気づいたのはイグニスとの洞窟生活が11ヶ月を経過した時だった。

 まあ理由は知ってると思う。そう、洞窟にあった湖の水を1年間飲んで過ごしたからだ。あの湖は約1000年もの間、この世界でもトップクラスの魔力量を誇るドラゴンの魔力を浴び続けた結果、ものすごい魔力濃度の高い水で埋め尽くされてしまったのだ。そんな水を1年間も飲み続けたらそりゃあ嫌でも魔力量が上がるってわけだ。

 水を飲むと身体中に染み渡る、とかいう表現があったと思う。まさにそんな感じで魔力ってのは全身に染み渡るものなのだ。これは〈空間掌握〉で確認したので間違いない。そんな感じで俺の飲んだ水によって膨大な量の魔力が俺の体に染み渡った。その魔力は俺の全身の細胞それぞれに行き渡り、俺の細胞を強化した。恐れられるまでに。


 その結果が今目の前で起こっている。今目の前でショウアンが呟いているのを聞いてみると、俺が持ち上げた木刀は推定3000トンほどあるらしい。昔の文献に米俵50000個ぶんとか書いてあったはず...とかとも呟いている。米俵は1つで60kgくらいだからな。


 俺は今表情自体は割とは平然としている。いや、むしろあどけない表情で「?」とも言いたげな感じでショウアンを見上げている。そう、あざとさMAXである。だけど内心ではすごく焦っている。3000トンってなんだよ?!って感じだ。2トントラック1500台分だ。俺はそんなものを軽々と持ち上げてしまったことに少し後悔していた。もう少し下調べをしておくべきだったかな。

 俺は剣術を学ぶことができればそれでいいのだ。あまり目立ちたくはない。

 そう、楽しければそれでいいのである。

 難しいことを考えるのはやめよう。めんどくさくなってきた。


 まずは目の前で起こっている事態をなんとかしよう。テツがさっきからずっと動いていない。さすがに可哀想だ。


「テツ…さん、その体勢で辛くないんですか?」


 俺がそう言うとテツはやっと現実に引き戻されたようで、はっとした表情になった。


「あ、いや...大丈夫だよ! レイルちゃん! ありがと! なんでもないから!!」


 テツはそう言うと、継続中の鍛錬を再開していた。なんか意識的に俺を見ないようにしてるっぽいぞ、あれ。

 ほんと何を恐れているのだろうか。見た目はただの可愛らしい少女だと言うのに...。


 結局この日は鍛錬は進まず(テツは無心に鍛錬を続けていたが)、俺達は屋敷へ戻ることとなった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 屋敷に戻ると夕食が始まった。ここでの食事は朝晩は剣術特化組も魔術特化組も一緒にとるらしい。ちなみに昼は自由だそうだ。

 夕食の席は特には決まっていないが、俺はテツの隣に座ることとなった。まあ、俺と同じ組にいるのはコイツだけだし仕方ないのかもしれない。


 食事の開始は里長の言葉によるらしい。みんなは、里長が来るまで駄弁っていた。こいつら忍者のくせに能天気な。とか思ったけどサワもショウアンも黙認してるし大丈夫なんだろう。

 どれどれ、と耳をすませてみる。べ、別に喋る相手がいないってわけじゃないからな。情報収集だ情報収集。


 そうして聞いてみると、どうやら皆は俺の噂で持ちきりのようだ。例の木刀を抜いたことがもう知れ渡っているらしい。

 そんなに問題になるのか、面倒な。あれを抜く前にショウアンに確認しておくべきだった。そうすればこんなことにはならなかったと言うのに...。


 俺が後悔していると、間も無くスイシンがやってきた。

 スイシンが口を開いた。


「さて皆の者、昼の鍛錬ご苦労じゃった。夜の鍛錬に備えよく食べるがよい。あ、きちんと噛むのじゃぞ? でないとつまらせるかもしれぬからのう。ホッホッホ。」


 夕食の時間が始まり、俺は久々のきちんとした食事に感動した。よくよく考えてみれば1年間はずっと水を飲んでただけだし、その後も臭い肉を食べただけだ。とても美味しかった。スイシンの言う通りたらふく食べてやろう。

 そう思い箸を進めた。


 たくさん食べようと思ったがそうも行かなかった。俺は生前よりも胃袋の大きさがだいぶ小さいようなのだ。まあそれもそうか。20歳の男性と13歳の女性が食べられる容量に差がないわけがない。成長途中の女の子だし尚更だ。

 そんなわけで俺の計画(?)は断念せざるを得なくなった。なんてこった。


 そんなどうでもいい事を思いつつ夕食を済ませ、夜の鍛錬の時間となった。

 ショウアンは最初は嫌々、言う感じであったが、俺が「剣術を学びたいんです!」と上目遣いで言うと即OKしてくれた。アホは扱いやすくて助かる。

 ちなみに基礎訓練はしなくていいことになった。だってショウアンよりも上だしな。やる必要がないのだろう。


 こうして俺の剣術特化型の鍛錬が始まったのだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 剣術特化型の修行を続けてから3ヶ月が過ぎた。

 俺の剣術の習熟度はかなり高かったようで、実は剣術自体は1ヶ月ほどで達人と呼ばれているショウアンをも凌ぐほどになった。では残り2ヶ月ほど何をして過ごしていたかと言うと、剣に魔法を乗せる鍛錬だ。このアイデアは俺が出したもので、この案を出した時ショウアンはかなり驚いていた。魔法にそのような使い方があったなど思いつきもしなかったようだ。

 そしてこの技術はなかなか曲者で、俺はマスターするのに2ヶ月もかかったのだ。細かい作業が難しいのだ。ショウアンやテツにいたっては剣に魔法を乗せることすらできていなかった。イメージが掴めないらしい。


 そんなことより俺の習熟度についてだ。これはまた、イグニスのいた洞窟の湖の水に影響しているらしい。その水によって俺にもたらされた魔力は、俺の脳や中枢神経にまで入り込み、反応速度や理解力、記憶力にまで影響を与えたのである。それによって俺は、剣術をマスターするまでに至ったのだ。ちなみにこれも〈空間掌握〉によって分かったことである。本当に便利だわ、この魔法。


 そして今後の俺の方針だ。里の人にはかなりお世話になった。なにせ何処へ行こうか迷っていたところ、寝床と食事、そして技術を与えてくれたのだ。本当に頭が上がらない。色々情報も手にいれることができたしな。なので恩返しはして置かなければならないと思うのだ。ただ今の俺には何もない。技術とかはあってもお金や物資がないのだ。

 なので、お礼は俺が稼ぐことができるようになってからするつもりだ。まあまだ何で稼ぐかは決めてないけどな。

 ただこの里は外の世界と交流を断絶しており、稼ごうにも稼げない。

 とりあえずこの里にいても何も始まらないのだ。だから俺はこの里を出ることにした。


 その事をスイシンに伝えると、その時ちょうどいたショウアンが泣きそうな顔になっていた。剣術を進んで学んでくれる弟子がいることが本当に嬉しかったのだろう。鍛錬が始まってから2週間ほどで本人もそう言っていたのだ。

 俺も別れを惜しんだが、ここは引けない。この世界を見てみたい、という気持ちもあったのだ。いつになるかは分からないが、必ず恩返しはしよう。俺はそう誓った。


 こうして俺のミツバチの里での生活は、幕を引いたのである。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 一通りお世話になった人に挨拶をすると、俺は里の門をくぐり外へ出た。

 3ヶ月前は近くで襲撃されたという事を思い出すと、少し感慨深い。


 とりあえず目的地を決めよう。

 今俺がいるところはミステカ島というところの一番北のほうらしい。この島は南北に広がっていて、テスタ王国なる国が支配しているという。なのでミステカ島の北端に位置するミツバチの里は、テスタ王国という国の支配下にあるということになる。これはスイシンに聞いた話だ。ただミツバチの里はあまり外の世界と関わらないせいか、スイシンが知っているのはそこまでだった。なので俺はまずテスタ王国の首都グリッツへ向かおうと思う。そこならば今よりは情報収集が捗るだろう。


 目的地が決まったところで、俺は足を進め始めた。方角は聞いていたので、俺はそれを頼りにアスカ王国の首都へ向かう。


 ここで問題が発生する。

 歩きたくない。

 そう、歩きたくないのだ。疲れるし。


 というわけで俺は、風魔法の練習を始めた。周りの空気を操れば宙に浮けるようになるはずだ。そう思って。

 俺はひたすら練習した。歩いた方がむしろ楽なんじゃないかと思えるほどに。すると2時間ほどで宙に浮くことができるようになった。だがまだ「飛ぶ」という域には達していない。

 そしてここまで練習して気づいたことがある。

 〈空間掌握〉使えばいいんじゃね?


 しかし〈空間掌握〉に頼りすぎるのもどうかと思うのだ。無魔法というのは人間ではそもそも使えないらしいし、〈空間掌握〉に至っては神しか使っていないそうなのだ。イグニスによるとだけどな。

 なのでこの魔法を街中で使ったりしたら...と思うとゾッとする。面倒事は嫌いなのである。

 ミツバチの里は周りと交流がなかったからいいものの、普通の街ではすぐに噂は広まり俺を利用しようとして来る者が現れるかもしれないのだ。いやまあ撃退すればいいのかもしれないが、この世界の人間がどれくらいの強さかも不確定だし、いちいち撃退するのも面倒なのだ。

 ということで〈空間掌握〉は封印しよう。いざって時は使うけどね。


 そうして俺は風魔法により飛行する魔法の練習を再開した。

 3時間ほど経つと俺は空中を自由に移動することができるようになった。結構集中力がいるけどな。これは例の水のおかげで集中力や演算能力が上がっていなければできなかっただろう。それほどに複雑なのだ。


 なにはともあれ俺は飛べるようになったので、首都グリッツに向け飛び立つことにした。

リアルが忙しくなかなか投稿できませんでした。

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