04話 周りを探検しよう
少し修正を加えました。
主人公が一人称を口に発する時は「私」です。
素っ裸で悠然と立っているイグニスに俺は早速突っ込んだ。
「お前何で素っ裸なんだよ! 今服用意してやるから待っとけよな!」
『む、裸では何か問題があるのか? ワシはお主と会った時からずっと裸だったぞ? そういえば人間は普段から布のようなものを纏っていたような気がするのう。よし了解した! それも出せるから少し待つがよいぞ! フハハ!』
いやだったら最初っから出しとけよ。ていうかお前ずっと裸だったのかよ!と突っ込みたいところだったがやめておいた。いやまあ確かにドラゴンが服着てたら笑えるな。ペットみたいで。
そう言ってイグニスはまた変身をした。
よかった。今度はちゃんと服を着ているようだ。
イグニスが着ているのは浴衣のようなものだった。なんか異様にサマになっている。
まあ変身した後のイグニスは普通にイケメンなのだ。当然なのかもしれない。
ちなみに俺は、転生後は服をちゃんと着ていた。女児用の。
俺は今着ている服一着で1年を過ごした。おいそこ、不衛生とか言うなよ? ちゃんと毎日水魔法で洗って風魔法を乾燥機代わりにして乾かしてたんだからな。ちゃんと水魔法でシャワーも浴びてたし。まあ魔法に慣れないうちは時間がかかったけどね。
とりあえず服に関しては解決した。
あとは住むところが欲しいな。とりあえずの生活ができるようにな。
それが整い次第人の集まるところに行けばいいだろう。
イグニスと相談してみると、どうやらあまり動きたくないらしく、反対された。まあ1000年近くも引きこもってればそうなるのかな。
そこで、俺の〈空間掌握〉で作る空間に居座りたいと言われた。この引きこもりめ。
まあ駄々こねられても面倒臭いだけなので仕方なく作ってやることにした。何か欲しければ可能な範囲で渡すと言ってあるし大丈夫だろう。
気をとりなおしてまずは家を作ろう。土魔法を使い家を建てるのもいいが、せっかく〈空間掌握〉があるからそれを使おう。そっちの方が楽だしな。土魔法で家を作るには結構な集中力がいる。それに対して〈空間掌握〉は、素材を移動させるだけでいいのだ。対象の位置さえ確認できれば座標の計算は必要ない。俺は自分で把握している範囲でなら空間を自由に操ることができるのだ。
作業はすぐに終了した。主に竹でできた簡易的な小屋だ。本当は木製がよかったがないものは仕方ない。魔力の変換では木は作れなかったしな。
とりあえず今日はここで寝ることにしよう。
明日になったら、辺りの探索だな。人の集まる街を見つけよう。
そして情報の収集だ。現在いる世界の現状を把握する。生活基盤の確保は後回しでいいかもしれない。実際何とかなるしな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝になった。天気は悪くない。モンスターとかに襲われることもなかったようだ。まあ、俺は〈空間掌握〉で俺に襲いかかろうとするヤツはわかるようになったんだけどね。ちなみにそれは〈空間掌握〉の派生系であり、〈感知〉という無魔法だ。ただ襲いかかってくるのが分かるだけで、それが俺の把握している空間の異質物として認識できるというだけだ。まあこれから進化するかもしれないけどな。
それじゃ、探索を始めますか。俺は歩き出した。
しばらく歩いていると竹林を抜け、開けた場所に出た。そこには複数の家があり、集落とも呼べるような光景が広がっていた。
俺はその集落に近づこうとした。すると早速、俺の〈感知〉に引っかかった奴がいた。後ろだ。俺に襲いかかってきている。これは殺意があるわけではないな。捕まえようとしているみたいだ。
俺はすぐさま〈空間掌握〉を放つ。そしてその襲撃者を目の前に移動させ、空中に固定させた。襲撃者の目が見開かれる。何が起こったのかよく分からなかったようだ。
「あのー、どなたですか?」
「クッ、殺しなさい!」
俺が話しかけると、その襲撃者はそう返答した。おお、これが噂に名高いクッコロさんか! 別に俺はオークではないんだけどな。それにしてもこの声質、女性だな。彼女は所謂忍者のような格好をしている。
別に俺は殺すつもりなど毛頭なかったので、情報を探ろうとする。
「いや別に怪しい人じゃないから。危害を加える気は毛頭ないし、お前だって殺されたくはないだろ? お前だって俺のことを傷つけるつもりはなかったみたいだしな。 俺はちょっと情報が欲しいってだけだ。実は山から出てきたばっかでな、情報に疎いんだ。」
すると女忍者はしばらく俺の目を見つめた後、諦めたように話し出した。
「ここはヤマバチの里だ。私のようなシノビを養成する歴とした場所である。貴様のような得体の知れない者が来ていい所ではない。貴様に敗北した身で言うのはおこがましいかもしれないが、立ち去ってくれ。よそ者は入れてはならぬのだ。」
ほう! この世界にはシノビと呼ばれる人たちがいるのか! 俺はその情報に歓喜した。だってかっこいいじゃん。少年なら誰しも一度は憧れるものだ。
そんなことを考えていると、目の前にはりつけていた女忍者の後ろから、声が聞こえた。
「ホッホッホ。シズ、その必要はないぞい。そのお嬢さんからは邪悪な意志は感じられぬ。お嬢さんや、その娘を放してやってはくれぬかのう。お茶くらいは出すでな。」
「大お爺様! 何を仰ってるんですか! よそ者を里に招いてはいけないという掟ではないですか! それを大お爺様、いえ、里長スイシン様自ら破るなど、あってはならないことです!」
「黙れい! 客人の前で恥をかかすな! トゲマル、こやつを連れていけ。1日の自室謹慎だ。里長に刃向かうのも掟違反であるからな。」
「そんな、大お爺様...」
なんか可哀想になってきた。まあいいか、勝手に襲いかかってきたのはこの娘だし。自業自得というとこだ。
俺はその里長のいう通り、〈空間掌握〉を解除してやった。
すると、どこからかもう一人の忍者が現れ、シズと呼ばれた少女を担いで何処かへ行ってしまった。
里長が口を開く。
「さてと、邪魔者もいなくなった。お嬢さんは何でこの里に来たのかの?」
なんて答えよう。馬鹿正直に異世界から転移して来たって言うのは悪手な気がする。
なので俺は、気づいたら山にいて親の名前も顔も思い出せない可哀想な女の子を演じることにした。きちんと一人称は「私」である。変に勘ぐられても面倒だしな。
そして俺は今とっさに思いついたその設定を里長に伝える。すると、
「そうかそうか、それは辛かったのう。この里で数年の間面倒を見てやろう。ただ訓練はせんといかんぞ。同年代の子がいるから友達もすぐにできるじゃろう。お主魔法も使えるようだしの。ワシが特別に計らってやる。親がいない苦しみはワシもわかるでな。」
なんか心配してくれた。少し罪悪感を感じる。
しかし魅力的な提案だった。戦い方を教えてくれて、かつご飯にもありつける。そして情報収集も捗りそうだ。素晴らしい。この提案、受けようじゃないか。この里に来て正解だった、俺はそう思った。
「ぜひお願いしたいです。ええっと、里長様?」
「ホッホッホ、スイシン様で良いぞ! 承知した。では里へ向かうでな。こっちじゃ。」
そう言われて俺はスイシンについて行った。
先ほど見えた集落だ。さっき見たときは全然家がないと思ったが、実際に行ってみると、今まで見えていた向こう側に谷が広がっていて、そこに大規模な集落があることがわかった。
およそ500軒ほどであろうか、多くの家があった。
里はきちんと区画されており、俺は今通っている道は集落のど真ん中を貫いている。そして左右均等に3ブロックずつあり、今いる道をまっすぐ歩いた突き当たりに大きな屋敷がある。簡易的な平城京、と言っても差し支えないかもしれない。
ちなみに目的地はその大きな屋敷だそうだ。
スイシンの後に続き道を歩くと、里にいる子供たちが物珍しそうに俺を見てくる。すると大人たちが「見てはいけません!」と言わんばかりの勢いで子供を連れて家の中へ入ってしまう。
俺そんなに怪しい人に見えるのだろうか。心が折れそうだ。
そんなこんなでやっと屋敷に到着した。
玄関は日本式で、靴は脱いで入るよう指示された。俺は言われた通り、靴を脱ぎきちんと踵を揃えておいておく。これはどこに行ってもマナーだな。
そうすると、
「ほう! よく出来たお嬢さんじゃのう。」
なんか褒められた。俺的には普通だと思うが、まあこの身体の年齢だとはしゃいでしまってそれどころじゃないのかな。
スイシンに促され、俺は指示された部屋に入る。その部屋には畳が敷いてあって、おそらく10歳から15歳と思われる子供達(おそらく生徒だろう)が30人ほどいた。男女の割合はちょうど1:1くらいかな。皆忍者のような装束を着ている。
スイシンが大きな声で話し始めた。
「皆の者! よく聞けい! 今日からこの教室でお主らと苦楽を共にする仲間じゃ! 仲良くするのだぞ! 異論は認めん! これはワシの決定じゃ!」
それだけ言うとスイシンは俺を残し、部屋を出て行った。
(え、それだけ? 俺どうすればいいの? ていうか何をさせられるんだ...。とりあえず端っこの方座っとこ...)
そう思い、ちょうどいいところを見つけた俺は部屋の角に座った。
みんなが物珍しげに俺の方を見る。中には怯えた表情で俺のことを見ている者もいるし、好戦的な表情で俺のことを見ている者もいる。
里を歩いていたときもそうだったが、俺の顔には何かついているのだろうか。ただ珍しいって言うだけで見るならまだわかるが、怯えているのは意味がわからない。俺は般若のような顔でもしているのであろうか。
ともかくこうして俺の学園生活(?)が始まるのであった。