おかたづけがかんたんになる魔法をもらったの! ~かみさま、ありがとうございました~
https://ncode.syosetu.com/n6819ej/
この短編には、前作にあたる小説がありますが、読んでなくても問題ないです。
でも、できたら読んでほしいなって、幼女がお願いしているようです。
おなかすいた。おなかすいたよ。
でも、それよりも……
たすけて。うーちゃんをたすけて。
なんで、なんで、なんでこうなっちゃったの? わかんないよ、ぜんぜんわかんない。
おかあさんのいってること、むずかしくてわかんないよ。
うーちゃんがたいへんなんだよ。どうしてたすけてくれないの? すごくくるしそうなんだよ?
あたしは、いいから、まだげんきだから、おねがいだから、うーちゃんをたすけて。
ちゃんということきくから。おそうじ、がんばるから。
じゃないと、じゃない……と……
あれ…………?
またゴミが増えてる……さっきおかたづけしたばかりなのに……
――――――――――――――――――――――――――
…………おなかすいた。ねむれないよ。
うーちゃん、だいじょぶ? あたしがついてるからね? おみず、のむ?
……え?
なんか、おへやがきゅうに明るくなったの。
おめめがショボショボするけど……え? うーちゃんじゃないこどもがいる?
『童に会うのは久々だのう』
なんかへんな、われてるお面つけてる……おんなのこ? あたしよりは、おねえちゃん、かなぁ?
わ、こたつの上にお家がたってる!
あたししってる。これ神社っていうやつだ。おとーさんがつれてってくれたからおぼえてるもん。でも、まえに見た神社よりちっちゃいね。
『小さくて悪かったのう……ええい、この部屋に合わせたから小さいだけじゃ!』
「……おねえちゃん、だぁれ?」
『カカカ、我は「はずれ神」と自称しておる。外れに外れた人生を歩む者の前に現れる、一応の神様じゃな。まぁ、お主は人生と言うほどは時が経っておらぬだろうが』
え? かみさまって、あのかみさま!?
「か、かみさま! おねがいします、うーちゃんをたすけてください! あたしのだいじな、おねえちゃんなの。ずっとウンウンいってて、くるしそうなの!」
『なるほどのう。あい分かった。では運試しをしてみるか』
「……うんだめし?」
『そうじゃ。ほれ、この箱を振るとな、神籤……「当タリ」か「外レ」と書かれた棒が出てくる。
当たりなら、姉とやらの身体を治してやろう。
しかし、外れを引いたなら……』
「ひ、ひいちゃったら?」
『お主が自分で助けるのじゃ。ただし、そのまま見捨てるわけではない。使いどころは難しいが、ハズレ者にふさわしい魔法の力を授けてやろう』
「まほう? ぱいぱいぽんぽい、ぷ~あぷあぷ~さん! っていうやつ?」
『……まあ、概ねそういうものじゃ。
では改めて聞くが』
がっしゃ、がっしゃ。かちゃん。
「……外レだった……」
『……もう引きおったのか……まぁ良かろう。ではこれから教えることをよく覚えるのじゃぞ』
「はーい!」
「お主に与える能力は【小モ大ヲ兼ネル】
【地面から離れた状態で、且つお主が触れているモノの質量と体積を小さくできる】
【動物、生物は不可】じゃ。なになに……小さい生物がモノに潜んでいた場合は、隙間さえあれば勝手に排出される、とな……
……我が言うのもなんじゃが、童にはえらく使い勝手が悪い能力じゃな。持ち上げられるモノなぞ、たかが知れておるしの……
あぁ、お主にも分かりやすく言うなら、生きている動物以外なら、持ち上げているモノを小さくできる、ということじゃ。邪魔にならない場所でなら元にも戻せるぞ。
言霊……いや、魔法の呪文は、【小さくあれ】、元に戻すなら【大きくあれ】じゃ。
……理解できたかの?』
「うん。おかたづけとか、おそうじが、かんたんにできそう」
『そうじゃな。この部屋のゴミは、一掃できるじゃろうな』
ためしてみようかな。このジュースの入ってたのでいいかな。
「えーと、【小さくなあれ】」
『違うぞ。【小さく、あれ】じゃ』
「うー……【小さくあれ!】」
とうめいないれものが、ぎゅっぎゅっていいながら、おはじきくらいにちっちゃくなっちゃった!
「もとにもどすのは……えーと、【大きくあれ!】」
こんどは、にゅにゅにゅっていいながら大きくなったよ。すごーい!
「……でもかみさま。この魔法をつかったら、うーちゃんをたすけられるの?」
『使い方によっては、の』
「……ちょっとまっててほしいの」
『……ふむ、よかろう』
――――――――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ。これでできたかな。
ねぇねぇ、かみさま。これなら、コレも小さくできる?」
『お主が持ち上げられるなら、な』
「……ゆかから、すこしでもはなれてれば、いい?」
『それなら可能だのう』
さっき、できたから、これもできるかな?
「……!!! 【小さくあれ!】」
『ほう。お主、馬鹿力……いや、「外せる」のか。カカカ、面白いものを見せてもろうた』
ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ。そんなおとをたてながら、ソレが小さくなっていく。
あんなに大きかったのに、おにんぎょうさんよりもちっちゃくなっちゃった。
でも……
「どうしよう、かみさま。なんかいろいろよごれちゃった」
『……こういうところは子供だのう。さっきの礼に助言くらいはしてやるわ。
まずは、ソレを片せ。そして手やら顔やらについた汚れを小さくしてから洗ってこい。
それが終わったなら、その「べっど」とやらの布団ごと小さくしてみよ。ああ、一応周りの汚れも拭いておけ。床があまり汚れなかったのは幸いじゃな。あとは同じく処理すればよい。なんとかなるじゃろうて。
後は……そうさの……先程は「自分で助けよ」と言ったが、それは全て一人でやれということではない。誰かを頼ってみよ』
「だれかを、たよる」
『助けを求めて、助けてもらえるように努力することもまた、お主、いや、其方の力じゃ』
「……うん……わかりました」
『我が手伝えるのはここまでじゃ。あとは……まぁ、頑張れ』
「わかった! がんばる!」
ハサミとゴミをもって、トイレにはいる。
このままだとながれないかもしれないから、ちょっきん、ちょっきん、こまかくしてから、ジャバー。
うーちゃんをはやくたすけたいけど、まだやらなくちゃいけないことがあるの。おそうじして、キレイキレイするのは、たぶん、ひつようなことなの。
よくわかんないけど、そんなきがする。
小さくして、小さくして、フキフキして、トイレにジャーして。
「ハサミもよごれちゃった……コレもながれるかな。【小さくあれ!】」
すごく小さくしたから、たぶんだいじょぶ。
かみさまがいってたとおり、よごれを小さくしてから、おふろであらう。
おふろから出ると、かみさまはいなくなっていた。コタツのうえにあった神社もきえちゃった。
でも、ゆめじゃない。
うーちゃん、まっててね。
あたしは、げんかんにむかってはしる。いまなら、いままでできなかったことができる!
ドアにはね、カギがかかってるのはしってるの。だけど、カギをあけても、くさりがかかってるから、ちゃんとドアがあいてくれないのもしってるの。
だから、げんかんのドアの、チラシがはさまってパカパカできるところにゆびを入れてあける。
あたしは、大きくいきをすって、
「だれかたすけてえーーーーーーーー!!!」
なんども、なんども、こえをだしたの。
――――――――――――――――――――――――――
「あ、警部。お待ちしておりました」
「おう、すまんね、ちと遅れちまった。いやはや、ゴシップ好きの奥さんたちが中々離してくれなくてね。……ちょいと何があったんですか、とか聞いただけで、出るわ出るわの噂話だよ」
「またいつもの、一般人のふり、ですか?」
「フリじゃないさ。向こうが勝手に勘違いして話し始めただけってね。まぁ粗方聞いてはいるけど、一応まとめの報告よろしく」
「はっ……救助された子供たちの名前は、田戸崎卯月、田戸崎皐月。双子の姉妹で共に六歳。
母親は田戸崎美空、二十五歳、無職……現在は行方不明となっています。夫とは一年程前に離婚しており、収入と言えるものは慰謝料と養育費のみ。その金で生活する日々だったようです。
子供に関しては保育所や幼稚園には通わせておらず、食事もまともにとらせていなかったようです。育児放棄、児童虐待……ネグレクトってやつですね。
とくに双子の姉、卯月ちゃんは肺炎に近い症状で……今のところ命に別状はないようですが、医師の話ではもう少しで手遅れだったと」
「胸くそ悪い話だねぇ。しかも、この部屋のゴミ屋敷状態。よくもまあ生活ができたもんだ」
「ええ、まったくで。
それと、通報者はたまたまマンションの近くを歩いていた男で、四日前の未明に子供の助けを求める声を聞いて駆けつけたそうです。
これについては本当に偶然のようだと、ある程度ウラはとれています。子供の助けを求める声も、近所には聞こえていたと証言もあります」
「なのに通報があったのは、その一件だけってか。世知辛ぇな。周りにゃ騒ぎは日常茶飯事だったってのもあるか。はー、やだやだ」
「しかし、母親の部屋だけは……なぜこんなにきれいなんでしょうか。ベッドに布団もない状態で……」
「わけわかんねえことだらけだよ。しかもルミノール反応が所々にあるとはいえ、事件性があるかどうかはなんとも言えん量だ。それに、本当に拭き取られた血痕かどうかも、更に調べなけりゃわからん。しかし、やる価値はあるのかね……
あの双子の顔や身体を見る限り、普段から殴られていたのは一目瞭然だ。あっちの部屋には鼻血やらが垂れた跡がいくつもあったんだろ?」
「トイレや風呂場からも検出されていますが、こちらも事件性といえる程の量ではありませんし。……風呂場については、その、普段から傷の血などを流していたと……子供たちから聞いています」
「……けっ。トイレについちゃ自分の娘たちを虐待するような母親でも、女は女だ。月のモノはあるだろうから反応が出てもおかしくはない、が……その本人が一体どこに行ったのやら」
「このマンションの入り口と階段にある防犯カメラからは、今から六日前に『帰ってきた姿』を最後にして、それ以降は映っていませんでした。同日の同時間帯に、部屋に戻ったときの目撃情報もあります」
「つまり、帰宅した六日前から、通報があった四日前の間にいなくなった。この三階の部屋のベランダか、外の通路からでも出ていかない限り無理ってこった」
「はい。しかしながらそのような痕跡は見つけられていません」
「あとは……殺されて死体を隠されたか、運ばれたか……なんてぇのは、この部屋の調査結果を見れば、無理だってわかるわな」
「刺殺やバラシなら、血量が足りない。絞殺なら暴れた形跡がない。他のヤり方をしたにしても、子供しかいない部屋で、ドアにはカギとチェーン。そしてこのゴミ部屋……コロシがあったとしても、ここが現場とは……」
「さもありなん……ってか。
……あんまやりたかねぇが、子供たちの事情聴取を手掛かりにするしかねえよなあ」
――――――――――――――――――――――――――
「おかあさん?」
「ああ、そうだ。お部屋にお母さんがいつまでいたか、わかるかな?」
「……わかんない……」
「そうかい……それじゃ何か、小さなことでもいいから、お母さんについてわかることはないかな?
ほら、きれいになってたお部屋があったよね。あのお部屋についてとか、何か知らないかな」
「ベッドのおへやは、あたしがきれいにおかたづけしてたの。いつもきれいにしなくちゃいけなくて」
「皐月ちゃんがお掃除していたのかい?」
「うん。きれいにしなくちゃいけなかったの。うーちゃんのぶんも、あたしががんばってたの」
「それはお母さんに言われていたからかな」
「いわ、れて…………?」
「どうしたのかな」
「おじさん……オカアサンって……なに?」
「……え?」
「オカアサンって、どういう、いみの、ことば?」
「…………!」
オカアサンはしらないけど、ベッドのうえにあったおっきなゴミはしってるよ。
うーちゃんをたすけようとすると、いつもじゃましてくるの。ゴミなのにたたいてくるの。あばれるの。
おなかすいたから、ごはんたべようとしたら、またたたいてくるの。しかもうるさいの。
かみさまから魔法をもらったけど、ゴミなのにそのままじゃ小さくできないみたいだったから……うごかなくしなくちゃいけなくて……
…………だから、だいどころにあった、ほーちょーをもってきて、うごくのをとめようかなって。
ベッドのおへやにはいって、ゴミのあたまがきもちわるかったから、もうふをかぶせたの。あとはそのままおくちのあなに、ほーちょーを、よいしょ! って。
クジは外れたけど、あれは当たってくれてよかったあ♪
なんだかね、いつもよりかんたんにちからがわいてきたの!
したのマクラにまでささってたから、そのままにしちゃった。ベッドからひっぱったとき、シーツといっしょにすべってくれたから、たぶんあれがせいかいだったのかな?
あかいお水で、お手てとかベッドのおふとんがよごれちゃったけど、ゆかとかカベにとばなかったから、おそうじはらくだったね。
よくわかんないけど、きっとあのおへやがよごれてたから、うーちゃんがくるしんでたんだっておもったの。あのおへやのゴミが、あたしたちをくるしめてたんだ。魔法でおかたづけして、キレイにできたから、あたしたちはたすかったんだ。
でもね、魔法少女はしょうたいをしられちゃいけないんだよ。
だから、おじさんたちにはナイショなの。ごめんね。
かみさま。ありがとうございました。
どうしてかみさまがあたしのところに来てくれたのか、すこしだけわかったきがするの。
いまのあたしって、まえとちがうってことだけはわかるの。
これって、『あたまのネジが外れてる』っていうんだよね? あたししってる。ゴミがつけてたテレビで見たことあるもん!
きっとあの日、あたしのあたまからポロッとおちちゃったんだよ。
だからだよね、外れのかみさま。
~~以下、裏設定~~
皐月ちゃんの声を聞いて通報したのは、前作「自殺をしようと樹海へ~(略)」の主人公です。
はずれ神が、こっそり誘導してました。
卯月ちゃんは本編には出てきませんが、あらすじで喋ってます。
当初は、卯月ちゃんは皐月ちゃんの妄想上の非実在少女……にする方向もありましたが……流石に救いが無さすぎて……
卯月ちゃんは4月30日生まれの姉。
皐月ちゃんは5月1日生まれの妹。
月末に日を跨いで30分差で生まれたのが、それぞれの名前の由来になっています。父親が命名。
でも親権はゴミにとられちゃった。南無。
このあと引き取れるといいね。
作中のひらがな表現ですが、簡単な漢字だけは使ってます。
幼稚園にも行ってない六歳児が使える漢字かどうかはわかりませんが、大体テレビ字幕でなんとなく覚えたということで。
「魔法少女」なんてその最たるもの。
なんか、マイ投稿短編の凶器が全て包丁だということに今さら気付く。