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Trompe-l'œil  作者:
1/1

あの頃の

鎖の音が耳に入る。

ジャラジャラ、ギンギン、ガシャガシャと音をたてて。


五月蝿い、

五月蝿い、

五月蝿い──。


そういえば、どうして僕は此処にいるんだっけ。今どうしてここを歩いて、息をして──どうして僕は生きてるんだっけ。

もうこうなっては生きる意味なんて無いじゃないか。生きていて何が得なんだ。

生まれてくる前は死んでいる事とほぼ変わらないのに、なんで生きた後はわざわざ死ぬんだ。

早く、死なないといけないな。


これからどうなるんだろう。

手首を切り落とされて、首と足首から鎖で繋がれ、殴られ、蹴られて。身体が、全部が痛いよ。

僕は何故か歩いている。

「どうして歩かなきゃいけないの?」

僕は小声で呟いた。

掠れて痛くなった喉で、誰にも聞こえない様に。

「……歩かないと殺されちゃうから」

後ろの方から小声で返事が返ってきた。

へえ、僕以外に人がいるのか。っていうか聞こえてたのか。というかこんな半分死んだような状態なんだから、もうこの場で殺されたっていいじゃないか。


***


もう痛いなんてわからない。

もう苦しいなんてわからない。

もう過去なんて覚えてない。

鎖で繋がれて、歩かされてる事しかわからないよ。

ずっと歩かされ頭もぼーっとしてきた頃に、突然の鉄の匂いと鎖の音、目の前には生臭い部屋と閉ざされた扉。

もしかして今、閉じ込められたのか。

ああそうなのか、

閉じ込められたのか。


まあいいか。

もう寂しいなんて知らないや。


誰かの名前が呼ばれてる、名前というかただの番号だけど。

もう口を閉じた。

……ああもう呼ばれないんだ。僕は呼ばれてないや。

名前を呼ばれた人たちが立ってる。歩き始めてる。何処へ行くんだろう。


……ああ、そういう事か。わかった。

今から殺されるって事か。

呼ばれて行く場所はあの世って訳か。

噂の処刑室だっけ、確か。歩いてる時に後ろから微かに聞こえたんだよね。

なんか、もう僕も呼ばれて欲しかったな。生きたくないから死にたいや。

死ねば楽になるんだろう?

死ねば辛くないんだろう?

生きていて苦しむより、死んで楽になる方が良いじゃないか。

でもまあ、

死を経験したことないから、楽になるとはまだわからないんだけどさ。


「立て」

あ、この声は従わないといけないやつだ。

従わなかったら死よりも痛くて苦しい御仕置きが待っているんだ。これも噂で聞いただけだけど。

さあ立とう。

これに従ってる僕……もしかして死は痛い、苦しいって思ってるのかな。


それかあれかな、

僕まだ死にたくないのかな。

なら生きて居た方が良いのかな。


あれ、なんかさっきより太い鎖に繋がれてる。ほんの少し前までこんなんじゃなかった気がするんだけど、頭がうまく思い出させてくれないや。

頑丈そうで、人の力じゃ絶対に外れ無さそうな重い鎖。多分この鎖が僕の身体や感情や心を締め付けているのだろう。


──嫌だなぁ。


あれ、僕嫌なのか。

締め付けられるの、嫌なんだ。


へえ。


「歩け」

まあいい。歩こう。



──"生きながら死ぬ道へ"。


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