あの頃の
鎖の音が耳に入る。
ジャラジャラ、ギンギン、ガシャガシャと音をたてて。
五月蝿い、
五月蝿い、
五月蝿い──。
そういえば、どうして僕は此処にいるんだっけ。今どうしてここを歩いて、息をして──どうして僕は生きてるんだっけ。
もうこうなっては生きる意味なんて無いじゃないか。生きていて何が得なんだ。
生まれてくる前は死んでいる事とほぼ変わらないのに、なんで生きた後はわざわざ死ぬんだ。
早く、死なないといけないな。
これからどうなるんだろう。
手首を切り落とされて、首と足首から鎖で繋がれ、殴られ、蹴られて。身体が、全部が痛いよ。
僕は何故か歩いている。
「どうして歩かなきゃいけないの?」
僕は小声で呟いた。
掠れて痛くなった喉で、誰にも聞こえない様に。
「……歩かないと殺されちゃうから」
後ろの方から小声で返事が返ってきた。
へえ、僕以外に人がいるのか。っていうか聞こえてたのか。というかこんな半分死んだような状態なんだから、もうこの場で殺されたっていいじゃないか。
***
もう痛いなんてわからない。
もう苦しいなんてわからない。
もう過去なんて覚えてない。
鎖で繋がれて、歩かされてる事しかわからないよ。
ずっと歩かされ頭もぼーっとしてきた頃に、突然の鉄の匂いと鎖の音、目の前には生臭い部屋と閉ざされた扉。
もしかして今、閉じ込められたのか。
ああそうなのか、
閉じ込められたのか。
まあいいか。
もう寂しいなんて知らないや。
誰かの名前が呼ばれてる、名前というかただの番号だけど。
もう口を閉じた。
……ああもう呼ばれないんだ。僕は呼ばれてないや。
名前を呼ばれた人たちが立ってる。歩き始めてる。何処へ行くんだろう。
……ああ、そういう事か。わかった。
今から殺されるって事か。
呼ばれて行く場所はあの世って訳か。
噂の処刑室だっけ、確か。歩いてる時に後ろから微かに聞こえたんだよね。
なんか、もう僕も呼ばれて欲しかったな。生きたくないから死にたいや。
死ねば楽になるんだろう?
死ねば辛くないんだろう?
生きていて苦しむより、死んで楽になる方が良いじゃないか。
でもまあ、
死を経験したことないから、楽になるとはまだわからないんだけどさ。
「立て」
あ、この声は従わないといけないやつだ。
従わなかったら死よりも痛くて苦しい御仕置きが待っているんだ。これも噂で聞いただけだけど。
さあ立とう。
これに従ってる僕……もしかして死は痛い、苦しいって思ってるのかな。
それかあれかな、
僕まだ死にたくないのかな。
なら生きて居た方が良いのかな。
あれ、なんかさっきより太い鎖に繋がれてる。ほんの少し前までこんなんじゃなかった気がするんだけど、頭がうまく思い出させてくれないや。
頑丈そうで、人の力じゃ絶対に外れ無さそうな重い鎖。多分この鎖が僕の身体や感情や心を締め付けているのだろう。
──嫌だなぁ。
あれ、僕嫌なのか。
締め付けられるの、嫌なんだ。
へえ。
「歩け」
まあいい。歩こう。
──"生きながら死ぬ道へ"。