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十七章  闇の中の答え  2

 アーチャはスクリーンに目を止めた。ジャーニスがメガネのレンズを通してこちらをじっと見つめている。やがて、ジャーニスが言った。


「最初に君と会った時、君は私に向かってこう言った。『俺は純粋なヒト族だ』と。正直、私はとても驚いた。君は君自身のことをまったく知らない……というより、覚えていないようだった。ジェッキンゲンに何をされたのかは分からない……だが、せっかくの機会だ、思い出させてあげよう。君はジャーグ族だ、アーチャ」


 心臓が狂ったように低音を刻み、一点を見つめたまま、アーチャは呼吸することさえできなくなっていた。アーチャの探し求めていた“答え”が、衝撃的な真実と共に見出された瞬間だった。

 ジャーニスの話は続いた。


「君がこのアクアマリンへ連れて来られた時、その姿はジャーグ族そのものだった。彼らはその邪悪な姿ゆえ、普段はヒト族の容姿でいることが多かったと聞く。だが、そんな偽装も軍の前では通用しなかった。ヒト族はジャーグ族の力を恐れ、軍の力を持って十年前に根絶やしにした……はずだった。だが、君がアクアマリンに現れた時、僕の中で確立されていた事実は虚実となった」


 ジャーニスの声は興奮で裏返り、その表情にはわずかな笑みがかいま見えた。


「ジェッキンゲンは何らかの方法を用いて、君の中からジャーグの力だけを奪い取った。そして、抜け殻となった君はドレイとなり、あの部屋で目を覚ました。僕は兵士になりすますという方法でゴーレムから君の情報を聞き出し、善人を装って部屋を訪ね、君の前に現れた……まだどこかに残されているであろう、ジャーグ族の力を借りるためにね……すべてを承知したなら……」


 その言葉を最後に、スクリーンから映像が消えた。後に残されたスクリーンから発せられるのは、ぼんやりとした輝きと、アーチャに突きつけられた絶望的な“答え”だった。


「俺とお前の関係が少しずつ分かってきただろう?」


 男の声が遥か遠くの方から聞こえてきた。愉快でたまらないといった口ぶりだ。


「俺がジャーグ族……だって? 違う……何かの間違いだ」


 アーチャはわらにもすがる思いでそう言った。男はすげなく笑った。


「強情だなあ。それじゃあ、もう少し時をさかのぼってみようか」


 スクリーンがチカチカと明滅し、次の映像が映し出された。アーチャのすぐ目の前に、大柄な巨漢が現れた。まだジェッキンゲンに正体を明かされる前の、兵士として暴れ回っていた双子のジングの姿だった。


「覚悟しとけよぉ、812番。遅かれ早かれ、お前もさっきの奴もいつかこうなる」


 太いだみ声でそう言った直後、ジングは床に横たわるイクシム族の死体に唾を吐きかけ、見下すような視線でアーチャを見た。

 胸くそ悪い薄ら笑いを浮かべるジングの顔をアップで映したまま、映像がまたも一時停止した。


「お前がここに来てまだ間もない頃の記憶だ。続きをよーく見てろよ」


 直後、ジングの顔色が青ざめ、一振りの拳がその顔面をとらえた。ジングの巨体は無様な格好で吹っ飛ばされ、肉詰めされた鉄火巻きのようにゴロゴロと転がってうつ伏せで止まった。男の不謹慎な笑い声がガンガン反響し、アーチャは不快な表情でスクリーンを睨みつけていた。


「これは失礼」


 笑いを押し殺しながら男が謝った。


「本当に見てほしいのはジングじゃない。お前の手だ。ほら……」


 スクリーンの映像は、アーチャの繰り出した拳がジングの顔面にクリーンヒットする寸前まで巻き戻っていた。その手は、確かにアーチャのものである……はずだった。


「何なんだよ……これ」


 そこに映し出されていたのは、濃い紫色の皮膚に覆われた細長い腕だった。幾本もの赤い筋が腕から肩にかけて浮かび上がり、黒ずんだ親指の爪は刃物のように鋭利で、殺気立って見えた。


「お前の腕だ。別の言い方をすれば、ジャーグ族特有の邪悪な姿」


 アーチャはそれ以上、その腕を見ていられなかった。両の瞳からスクリーンを通して恐怖が入り込み、アーチャ自身を虫食んでいくようだった。


「そろそろ核心に迫ろうか」


 男の声がいきなり冷静になった。アーチャは不明瞭な光を放ち続けるスクリーンに目を向け、男の次の言葉を待った。もう身も心もボロボロだった。


「アクアマリンへ連れてこられる直前に何が起こったのか、お前はずっと知りたかった。違うか?」


 スクリーンに映像が映し出された。うっすらと記憶に残る、あの時見た光景がそこにあった。


「お前が忘れてしまった記憶を、俺が呼び起こしてやろう。そして、すべてを思い出すんだ。途切れてしまった記憶の糸をつなぎ合わせろ。さあ、上映開始だ」


 アーチャは乾き切った喉を唾液で潤わせ、汗の滲む手の平を硬く握り締めながらスクリーンに見入った。心臓が高鳴りすぎて、耳の中で脈を打っているかのように大きく聞こえた。


「そう……あれは雨の降る夜だった……」


 男の手短な解説の後、別の声が聞こえてきた。


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