十七章 闇の中の答え 1
次の瞬間、アーチャの目の前は完全な闇だった。手にしっかり握っていた格子さえも消滅し、アーチャはその場に軽く尻餅をついた。まばたきしても闇と光の区別がなく、手を伸ばしてもつかむ先は常に空だった。
「お前の記憶をさかのぼらせてもらうよ、アーチャ」
闇の向こうから男の声が聞こえた。アーチャはぼんやりと暗闇を見つめ、これから何が始まるのかさえ分からず、その場に黙って座り込んでいた。
「お前が記憶を失った時、そこで何が起きていたのか、見せてあげよう。まずは……そう、ここだ」
アーチャの目の前を長い光の筋が走り、眩く一閃して上下に広がった。視界いっぱいに白く輝く薄っぺらい壁のようなものが現れ、アーチャの体はその光に吸い込まれるようにして感覚を失っていった。不透明に輝く光彩が長方形のスクリーンを成し、そこに、まだアーチャの記憶に鮮明に残る、ある場面が映し出された。
どこからともなく、ジャーニスの声が聞こえてきた。
「誰かが救われるには、誰かが犠牲にならなければならない。それがこの世の摂理だ」
スクリーンの中のジャーニスがはっきりとそう言った。アーチャは目を見開いた。
「これは……あの時の……」
「そのとおり」
男の声が言った。それに合わせて、スクリーンの光景が時間を止めたように動かなくなった。
「お前とアンジが、ジャーニス、コッファと共に地上への脱出を図った、あの朝の光景だ。覚えているだろう? ジャーニスはコッファに毒矢を放ち、彼は瀕死状態だった。アンジは息絶えたフリをしていたみたいだけどね」
男は低い声で短く笑い、「続きを見ようか」と唐突に切り出した。スクリーンには、ジャーニスが自分の懐中時計を手に取り、時刻を確認するシーンが映し出された。アーチャは食い入るようにしてその光景を見つめた。不思議なことにそれは、この時、アーチャ自身がその目で見た光景とまったく同じものだった。この映像は、アーチャが見聞きした記憶を忠実に再現させたものなのだろうか?
スクリーンの中からジャーニスがこちらを見つめ、言った。
「僕には、この血を汚してでも守らなければならない大切な人たちがいる……だから、これは正当な行為なんだ。……さあ、もう時間だ」
「どうして俺が? どうして俺がこの計画に……」
この発言が自分のものだと気付くのに、しばらく時間がかかった。そして、ジャーニスが言った。
「君の血だよ、アーチャ」
その瞬間、スクリーンに映し出される映像が乱れた。アーチャはこの時のこともはっきりと覚えていた。
「意識がなくなる瞬間……」
スクリーンの光景が正常に戻っていくのを確認しながら、アーチャは呟いた。
「正確に言えば、お前は忘れてしまったんだ」
すぐ耳元で男の声が聞こえた。アーチャはスクリーンから目を離し、声の元を目で探した。男は続けた。
「お前は真実から逃げるために、このことを忘れてしまう必要があった。そうすることで、自分という存在を見失わないようにした」
「真実って何なんだ?」
アーチャは段々と遠ざかっていく声に向かって乱暴に聞いた。返事はすぐにやってきた。
「続きを見れば分かるさ。君が忘れてしまった、続きをね」