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十五章  帰還  3

 二人は兵士たちに見つからないよう慎重に歩を進めていった。家屋の密集した狭い通りをゆっくりと進み、瓦礫を静かに踏み越え、曲がり角では鼻先を突き出して向こうの様子を窺うほどの念の入れようだった。

 街の外れに行けば行くほど兵士たちの警備体制は緩和していき、わだちのうっすらと残るアジトへの一本道に辿り着く頃には、全力で疾走しても平気なほどだった。『拾い物』で建てられたアジトのてっぺんでギラギラと光り輝くのは、ルースター・コールズの象徴、黄金の雄鶏だ。

 アーチャとシャヌは、ついに帰還したのだ。


「思えば……長い……旅路だったぜ」


 全速力で駆けて来たので、アーチャはもうヘトヘトだった。アジトのすぐ脇に、ヴァークスの愛車『カメレオン』が駐車されていることにも気付かないほどだった。アーチャは汗のにじむ手で取っ手を握り、半分壊れかけの扉を押し開いた。二人の帰りを今か今かと心待ちにしていた仲間たち全員がそこにいた。


「ほら、俺の言ったとおりだろ?」


 聞きなれたしゃがれ声が、出し抜けに言葉を放った。


「こいつは絶対に生きて帰ってくるって」


 椅子にドカッと腰掛け、この部屋は狭すぎてうんざりだ、と言わんばかりの表情でアーチャとシャヌを見つめていたのは、やはりアンジだった。アンジだけではない。ファージニアス、じいさん、フィン、レッジ、カエマ、トナ、マニカ……みんなが笑顔で二人を迎え出てくれたのだ。




 ここでは狭すぎるからと、全員が二階の広々とした寝室に移動した。再会の喜びも束の間、街の中枢を我が物顔で独占している兵士たちに警戒しながらも、アーチャたちは、この数日の間に各々に巻き起こった事件や事実を報告し合った。円状になって尻を据えるアーチャたちのど真ん中にさっそうと踊り出たのは、ファージニアスだった。

 ファージニアスはアーチャとフィンの時同様、内ポケットから金色のペラペラしたカードを取り出し、自分は実兄のジェッキンゲン・トーバノアを追って百十八年後の未来からやって来た『時空連盟』の一人であることを告白した。これにはみんな驚きを通り越して呆れるばかりだったが、アーチャとフィンもファージニアスに加勢して、何とかみんなの関心を半信半疑にまで持ち上げることができた。


「でも、二人ともよく助かったよなあ」


 狙撃され、黒煙を上げながら雲の中に消えていった小型戦闘機の様を恐々と思い出しながら、アーチャは言った。ファージニアスは自身ありげににっこりした。


「あの時は幸運が続きましてね。手痛く狙撃はされましたが、急所を外していたらしく、バランスを失いつつも何とか海面に軟着陸できました。燃料に影響はなかったのですが、浸水が故障箇所にも及んでいて、修理するのに半日がかりでした。電波の送受信機が壊れていたせいで連絡も取れず、仕方なくここに帰ってきたというわけです。あの戦闘機は目立ちすぎるからと、中に兵士を閉じ込めたまま近くの海岸付近に乗り捨ててきましたよ……大丈夫、ドアロックは解除しておきましたから」


 ファージニアスは相変わらず早口で、流暢にまくしたてた。


「とにかく、二人が無事で良かったよ」


「あなたもね、アーチャ」


 ちょうど向かいに座っていたフィンが、疲れ切った、それでいてほっとしたような表情でそう言った。アーチャがシャヌを救出しに行く際、目に涙を溜めてまで説得してくれたのがフィンだったことを、アーチャはふと思い出した。


「それにしたって、お前はよくやったよ」


 レッジが嬉々としてアーチャに言った。


「俺たちは影からでしかお前を支えてやれなかったが、シャヌを救い出せて本当に良かったと思ってる。ついでに、軍の埃まみれの脳みそに、俺の立派な功績がはっきりと残された。願ったり叶ったりだぜ」


「じいさんが邪魔ばかりしなかったら、もっと効率良く事が運んでたんだ」


 アンジがしかめっ面でじいさんを見た。当のじいさんは、窓から外の景色を覗き込むのに夢中だった。アーチャはその幸せそうなじいさんの横顔を見て、また断腸の思いにかられるのだった。


「次は私たちの番よね」


 カエマが抑揚のない声で言った。場の空気がずしりと重くなるのを、その場にいた誰もがとっさに感じ取った。カエマは(母親のマニカも、そのひざの上に頭を乗せて眠りこける弟のトナもそうだが)、アーチャが約束どおり戻ってきたというのに、ずっと浮かない顔のままだった。


「あれは、にいに最後の手紙を送った次の日だったわ。派手な服装に、銀色の髪を長く伸ばした……ファージニアスおじさんそっくりの男の人がグレア・レヴに来たの。大隊の指揮をとってた」


「そりゃ間違いなくジェッキンゲンだ」


 アーチャがうなった。


「みんなももう見たでしょう? 街の半分を跡形もなく消し去った張本人は、そのジェッキンゲンって奴なのよ。あいつ、地上から上空の戦闘機にあれこれ指示して、何か黒い爆弾みたいなものを落とさせたの。あたしたちは身の危険を感じて遠くからその様子を見てたんだけど……あれはきっと“フラッシュ”よ」


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