母親のアルツハイマー
この物語は創作です。モデルはありません。
家族でグアム旅行に行く事にした。智子一家4人、両親2人、夫のお母さん1人。計7人の大旅行だ。
息子達が一番お金がかかる時での出費は痛かったが、実家の父が旅費は全部持つと言う。
なぜこの時期かと言うと、両親の気持ちも分かる気もした。
名目は息子達2人を無事育て上げた、智子と夫の慰労。しかし何より夫が再々就職した事で、さすがに周りの親戚達の間でも、智子の家はちょっと、大丈夫なのか?と言う空気が流れた。
そうじゃなくとも、周りの中で智子や孫達が1番幸せなのだと言うプライドが何よりも大切な智子の母親にとって、耐えられなかったに違いない。
それに加えて、たまにではあるが、母親はマダラボケの症状も出て来ており、海外に行く機会がこれからそうそうあるとも思えなかったからだ。
母親のボケは少しずつ少しずつ、薄紙を剥ぐように進行していった。まだ70代だし、人によってはピンシャンしている人も多い。が、母親の場合、働いた事がないのも関係しているんだろうか?
しかし、智子にしてはこれまた頭が痛かった。
隣の市にある実家に父親と2人で住んでいるわけだが、ボケた会話をするので、父親も定期的にかんしゃくを起こす。病院に連れて行くにしても智子も仕事のない時に合わせてもらうが、大病院だと予約で決まっている。
そして、どのお年寄りもそうだろうが、智子の母親も完全なボケている訳ではないので、元気な時にちょっとでも介護施設に入る事を匂わすと、ボロボロ泣きながら抵抗して見せた。
そして....1番の難点は。
智子の両親と同居する事を、智子の夫が嫌がった事だ。その為に少し部屋を多めに建てた訳じゃ無かったのか?智子が文句を言うと、自分の母親だって田舎で1人暮らし、自分だって長男だ、智子の親ばかりどう言うつもりだ?....と。
それは、長い間、鳴かず飛ばずだと智子が蔑んでいた夫が見せた初めての抵抗であった。両方の親の悪口の言い合いになり、智子は結婚して初めて大人しい夫とまともな夫婦喧嘩をした。
一体この私に、何の不満がある訳?こんなに一生懸命やりくりして来た私に対して?長い間、私達を支援してくれた両親の世話をするの、一人っ子の私がして何が悪い?
智子は、再婚している実家の父親にも、兄夫婦が近くに住んでいる旦那の親にも、看病も介護も何にも煩わせられない、仕事と旦那の悪口ばかり言ってのうのうとしている従姉妹に改めて、心の底から憎しみを覚えた。
今度は老い出した母親の身の振り方に苦労し始める智子。頑張れ!