長男の高校進学
この物語は創作です。モデルはありません。
下半身がざっくり無くなる夢を見た。
智子は最近、いつまで立ってもなかなか慣れない非常勤講師疲れが取れないのもあって、学校もピアノ教室も休み時はなるべく用事は最小限にして、うちでゴロゴロするようにしていた。
前の頃は、空いた時間が勿体なくて、買い物や友達のお茶に、ランチに映画と引っ切り無しなスケジュールを詰め込んでいた。
しかし最近無理しすぎると、妙に腰が痛くてすぐ直るのだが、すっきりしない日も多かった。 夕方暗くなると車の運転が辛い、と言う以前に難聴が起きたらどうしようとか、道路の線が見えづらかったらどうしよう....との心配で、怖かった。
自分の体を誤魔化し誤魔化し、何年もそんな日々が続いたある日、智子一家に輝かしいニュースがあった。長男が県で1番の進学校と言われている県立高校に合格したのだ。
夫のリストラによる経済不安。難聴や近眼老眼から来る自分の体調不良。ガラクタ音にしか聞こえないピアノ教室の子供達、決して好きとは来ない非常勤講師の体制。
そんな中で、ここ何年間も世間と戦って来た智子は久しぶりに鼻高々になるのを感じた。自分の大学入学以来、実に24年ぶりの快挙だ。
智子の母親の一族は子供達、つまりは従姉妹や従兄弟やその息子達もみんなそれなりに優秀であったが、その高校に合格したのはほとんどいなかった。それぐらい狭き門であった。
これであのこ憎たらしい従姉妹にまた大きな顔が出来る。従姉妹の娘は高校受験にも苦労し、その辺の高校から美容トータル専門学校に入った。
うちの息子が合格した事で、さぞや悔しい思いをしてるに違いない。全く保険会社で成功してるんだか、旦那が海外勤務のエリートだか、旦那の実家が小金持ちだか知らないけど偉ぶるなっつうの。
私はちゃんとやる事やってから息子をきちんと進学校に入れて見せたんだ。
従姉妹が明日お祝い持って来ながらお茶しに来ると連絡受けてから、智子は大好きなアップルティーを1人で飲みながら、明日、どうやって従姉妹に自慢してやろうか、なんの会話で従姉妹をこき下ろしてやろうか、いろんなパターンを考えた。
今日はゆっくり眠れそうだ。大好きなモーツァルト聴きながら寝るか!
智子、長男が1番の進学校に合格して良かったね!