智子と従姉妹
この物語は創作です。モデルはありません。
智子は活き活きと働いている従姉妹に毎度腹が立った。
従姉妹は大昔に智子と競っていたピアノなどとっくに諦め、気が向くと智子に習いに来たりした。
大学受験にこそ失敗したが従姉妹は昔から記憶力が良く勝気で、智子よりよっぽど成績は良かった。しかも早くに母親を亡くして苦労したりして社会順応力が高かったため、働き出すと、あっという間に頭角を現した。
智子とそこは同じで、なんとなくおっとり育っており、思ってもみなかった営業職で輝きだした従姉妹の事を叔母である智子の母親は、営業して他人の家を回るなんて一族の恥さらしだと悪しざまに悪く言った。
すぐに辞めるだろうとの周りの予想に反し、従姉妹はその大手の保険会社で、まぁ運も良かったのか、一気にエリートと呼ばれる道を駆け上がって行った。
人間とは不思議なもので、最初悪く言っていても、その人が懸命に働いてある程度地位に付いたり、経済力が伴って来たりすると、嫉妬反面で悪く言いながらも、その人の実力を認めるようになる。
そうは言っても、陰ではその従姉妹が保険屋として出世したと言う事で、よく言うものは誰も居なかった。親戚の誰1人としてその従姉妹から契約を勧められた事など無いのに....
従姉妹は智子の夫と、智子の積立などを契約した、隣の市の智子の家に、営業の途中にそれこそフォローと称してケーキやおせんべいなどを持って気軽にお茶飲みに来た。
会社の同僚や旦那の悪口などを散々言いながら、たまにノルマがキツく過ぎるのか、やつれきっていたが、それでも智子には従姉妹が生き生きとして見えた。
この従姉妹に対して一番腹ただしかったのは、浮気癖のある所だった。従姉妹の旦那はしょっちゅう海外に赴任しており、一時期は何年も日本に居なかった。
まぁ、従姉妹も旦那の事を大して好きじゃなかったんだろう。それこそ営業で出会った軽い男を引っ掛けて遊んでいた。本気の恋に浸って泣いていた事もあった。
しかも、ムカつく事に、従姉妹は妙に世間様に対して良い子ちゃんのぶりっ子だった。
家事にしても手抜きとはいえ、やる事はそれなりにちゃんとやるし、愛想もいいし、礼儀正しく、おべっかの一つも上手い。義理事もキッチリやってのける。....なので、何処と無く不信感があっても、旦那も旦那の実家も、誰も従姉妹を見放さないのだった。
智子は従姉妹を見て学んだ。浮気と言うか遊び?とは、こう言う人がやる特権なのだと。家庭や仕事や義理事を疎かにして異性遊びするのはただの馬鹿なんだと。
かと言って、そんなスーパーレディ的な態度が誰にもできるとは限らず、やっぱり智子は従姉妹が気に入らなかった。自由に健康にのびのび飛び回っている従姉妹が羨ましかったのかもしれない。
それでも、まだ、最初の10年ぐらいは従姉妹の悪業を聞いて苦笑いしながらも平気だった。智子の家族は幸せだったからだ。高級住宅地の一軒家。ピアノ教室。出来の良い2人の息子。優しい旦那。そこそこ経済力のある自分の実家。
まさに平成の理想の家庭。くだんの従姉妹も良く我が家の事をそう褒めてくれていたし。
それが揺らぎ始めたのは、夫がリストラにあったからだ。以後夫は何回と転職を繰り返す事になる。
ちょうど10年目の結婚記念日の前日だった。智子37歳。夫39歳。
夫のリストラ以降、智子の突発性難聴は全く治らなくなった。
夫がリストラにあった智子。これからどうなりますか?