表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾った少年は、有能な家政夫だった  作者: あさじなぎ@小説&漫画発売
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/16

君と過ごす二日目

 この地域独特の、山から吹く冷たく乾いた風が、頬に突き刺さる。

 スーパーの駐車場で車から降り、私は空を見た。

 雲の流れが速い。

 秋が通り過ぎるのは、とても早い気がする。


 来月にはもうクリスマスがどうとかメディアが騒ぎ出すんだ。

 街はイルミネーションで彩られ、クリスマスソングが鳴り響く。

 そんな日々がもうすぐやってくる。

 ……クリスマスは恋人の日みたいな風潮はどうにかならないだろうか。


 だいたい誰が決めた。

 いや、去年もその前も、私はリア充やってたけど。

 斗真と会って、イルミネーションの下でプレゼントの交換なんてやってたけど。

 今年はどうしようか? ミクと遊ぼうかな。


 そんなこと考えながら、スーパーに入って行った。

 今日もレイジに頼まれた買い物しに来た。

 外に出るのは本当に嫌みたいで、家で待っていますと言って、笑顔で私を送り出した。


 彼は何者だろう?

 育ちがいいのは確かだし、家事についてもよく教育されている。

 着ている服もファストブランドなんかじゃなくって、デパートに入っているような高めな服。

 裕福な家の子なのは確かだろう。

 ……よく考えたら、私、やばいよね。


 だって未成年を家に入れて、匿ってるんだもん。

 まあ、あの子が本当に未成年かどうかわからないけど。

 もしかしたらハタチ前後かも知れないし。

 ……まあ、たぶん高校生だろうけど。


 指定の物を買って――昨日と同じで、自分のものっぽいものは一つもメモにはなかった――私は帰宅した。

 アパートの駐車場に車を止めて、荷物を下ろして部屋へと向かう。

 今日は、彼は出てこなかった。理由はすぐに分かった。

 部屋に入ってすぐ、話し声に気が付いた。


「…………るさん、大丈夫ですから、僕は」


 どうやら電話しているらしい。

 電話の相手は、例の幼なじみだろうか。

 とおるさん、と、昨夜うなされながら言っていたし。

 家出している状況で連絡取るってことは、よほど大事な人なんだろうな。


 ……なんでだろう。

 ほんの少しだけ、心にちくりとする。

 うーん。もしかして、私はこの子供に惹かれているのか?

 そんな馬鹿なこと、あるわけないじゃない。

 廊下を抜けてリビングへ続く扉を開けると、レイジはこちらを振り返った。


「すみません、もう切ります。本当に、ごめんなさい」


 あたふたと彼は携帯電話を切り、それをポケットに突っ込んだ。

 彼は笑顔を浮かべ立ち上がり、おかえりなさい、と言った。


「すみません。お手伝いしなくて」


「ううん、大丈夫。袋、ひとつだけだし」


 言いながら、私はキッチンの冷蔵庫の前に袋を置いて、中身を取り出した。

 今日は、昨日のひき肉の余りをそぼろにして、サバの味噌煮を作るつもりらしい。


「お昼はチャーハンでいいですか? 朝、ご飯おおめに炊いたので」


「うん。ありがとう」


 そう言って、私は彼に笑いかけた。




 窓の外に見えるうろこ雲が、紅く染まっている。

 レイジは、その後携帯電話を出すことはなかった。

 たぶん電源切っているんだろう。

 電源入れといたら鳴りまくりだろうし。


 結局、三連休はスーパーと家の行き帰りで終わりそうだ。

 本当なら斗真と一緒におでかけとかしたんだろうな。

 ……うん。あんな奴のことは忘れよう。

 好きな相手とやらと、あいつはどうなっただろう?


 共通の友人がいるから、何人かから問い合わせのメールが来た。

 別れたってホント?

 とか。

 結婚すると思ってた。

 とか。

 あいつ、会社の偉い人のお嬢様と付き合い始めた。

 とか。


 最後のはもう、ただのおせっかいにしか見えない。

 最終的に返信するのが面倒になり、


 真実の愛に、あいつは目覚めたの。


 とだけ書いて返信することにした。

 何を言われてもそれだけを返してたら、メールは来なくなった。

 皆好きだね。ゴシップが。

 まあ、気持ちはわかるけど。

 結婚するって思ってた友人が、別れたって聞いたら何があったのか気になるもん、私だって。


「人の不幸を喜ぶ気持ちはわかるけどねー」


 私が呟くと、本を読んでいるレイジが顔を上げる。


「何がです?」


「えーとね。話したと思うけど、彼氏と別れたわけ。そのことが友達に知れて、メール攻勢受けてるの」


「あぁ、そういうことですか」


 レイジは苦笑いする。


「だから携帯が頻繁になってるんですね」


「そう。暇人よね。皆どっか出掛けてるくせに」


 ソーシャルネットサービスを見れば、皆がどこに行って何をしているかが丸わかりだ。

 三連休だもの。どこか出掛けるよね。


「琴美さんは、どこか行かないんですか?」


 思いもよらない問いかけに、私は驚いて目を見開く。


「え? 特に何もないけど」


「……そうしたら、ひとつ、お願いしていいですか」


 彼のお願いはとてもささいなものだった。


 ――夜景が見えるところに行きたいです。


 そんなのでいいのかと聞いたら、はい、と言って、笑顔で頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ