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長い付き合いの人

 不思議な感じだった。

 レイジと一緒にご飯食べて、そのあとは、レイジは本読んで。

 私は趣味のビーズアクセサリー作り。

 図案見ながら、地道にビーズをテグスに通していく。

 赤に青。緑に黒。いろんな色の丸ビーズ。きらきら輝く、クリスタルやそろばんビーズ。


 今、十字のペンダントトップを作ってる。

 クリスタルビーズを中心に、周りを丸ビーズで囲む。

 最近作っているのはこういうモチーフばかりだ。

 十字以外にも花とか、羽根とか、ハートとか。

 そういうのを大量生産中。

 私が一生懸命作ってたら、寝転がって本を読んでいたレイジが顔を上げて私の手元をまじまじと見た。


「すごいですね」


 だって。


「え、何が?」

「全部、琴美さんが作られたんですよね」


 100均で売ってる、透明なケースに入ったモチーフたちを示して彼が言う。

 私が頷くと、レイジは笑顔で言った。


「綺麗だなって、思って」


 その笑顔に、私はキュン死しそうですが。

 私は平常心を装って、ありがとう、と言った。

 そんなこと、斗真にも言われたことないぞ。

 ミクくらいだ。私のビーズアクセサリーを褒めてくれたのは。


 斗真なんて大して見てくんなかったな、そういえば……

 頑張って作った熊のモチーフをネックレスにしてつけていったら……見事に気が付かれませんでした。

 まあ、男の人って、女性のアクセサリーなんて大してみませんもんね。知ってますよ、そんなこと。

 でもさ、けっこうショックなんだよ。

 ビーズアクセサリー作るの好きだって、言ってたんだけどなあ……


「琴美さん、どうかされました?」


 思い出の中に旅立っていると、レイジの澄んだ声が聞こえてくる。


「あ、え、ううん。なんでもない」


 首を振って作業を再開した。




 サンタクロースに、トナカイ。それに雪だるま。

 青に赤、白。色とりどりのイルミネーション。

 その輝きの下で、斗真は私にネックレスをくれた。

 緑色の宝石。8月の誕生石のペリドット。

 斗真は私よりずっと背が高くて。確か175センチくらい。


 茶色に染められた髪に、細面の顔。そこそこ筋肉ついてて。

 ちょっと鈍いところもあったけど、そんなの彼を彩る魅力にしかすぎなかった。

 本当に私にはもったいない人だったんだけどね。 




 夜、約束通りミクがスーパーの袋を抱えてやってきた。


「やっほー! うわぁ、本当に男の子いる!」


 部屋に入るなりそう言って、ミクはレイジをべたべたと触る。

 それからやんわりと逃げながら、レイジは苦笑を浮かべた。


「ちょっとミク、ひいてるから」


 ミクをレイジから引きはがし、私は彼女をリビングへと引っ張った。

 チューハイやビールの缶をいくつか座卓に置いて、残りは冷蔵庫。

 レイジは小さなハンバーグやポテトサラダ、それに大根の煮物を作ってくれた。

 乾杯して、私たちはチューハイを飲み、レイジはジュース。

 そして、私はあの馬鹿……もとい斗真のことを思い出してため息ついた。

 缶チューハイを一気に一本飲み干して、次の缶に手を伸ばす。

 レイジが作ってくれた料理をつまみながら、私は言った。


「もう、斗真の連絡先は消したの。あと、写真消したでしょ、あと……あ、もらったアクセサリーとか処分しなくちゃ」


 私が指折りしながらいうと、レイジがきょとんとした顔をする。


「別れたらそうやって消したりとかするものなんですか?」 


「んー、私は消すし、捨てたりするけど。ミクは?」


「私? 連絡先は消すし、写真は消す。けど、もらったものは捨てないなあ」


「えー、なんで?」


 缶チューハイを飲みつつミクに尋ねる。

 彼女はビールの缶を手に、私を指差した。


「だって、もったいないし」


 ああ、たしかに。

 そんなこと思ったことない。

 斗真の前に付き合っていた人にもらったものは容赦なく捨てたし。そんなものかと思ってたけど違うのか。


「もったいないねえ……言われてみればそうかも」


「売ったりはしないんですか?」


 今時、どんなものでも買い取ってくれる中古屋と言うのは存在する。

 けど、私はもらったものを売るのは抵抗がある。

 私は首を振って、


「売るのはないかなー」

 と応える。

 ミクはビールを口にして悩んでいるような顔をする。


「うーん……お金に困ったら売るかも……」


 それは主に宝石類ですか。

 そう思ったものの、口にはできなかった。

 いい感じにお酒もまわってきたころ、ミクはレイジに向かって言った。


「なんで家出してるの?」


 どストレートなそのセリフに、思わず私がどきりとする。

 レイジはにっこりと笑って、


「どうしてでしょうね」


 と言った。

 やっぱり答える気はないらしい。


「だって、ふつー、知らない女の人にくっついてく?」


 あぁ、そういえばミクには男の子拾ったって話しかしてなかったっけ。

 身体売っているみたい、って話はしていない。

 レイジは相変わらず笑顔で、何も答えない。


「琴美さんとミクさんは、いつからお知り合いなんですか?」


 そう言って、レイジは話題をそらしてきた。


「えーと、中学からー」


 もう、何本目ともわからない缶ビールを開けながら、ミクが答える。

 レイジが空き缶やごみを、何も言わずに片づけていってくれるため、テーブルの上は綺麗なものだった。


「そうそう、うちの学校、6年一貫だからえーと……14年くらい?」


 私が言うと、ミクは頷いた。


「そうそう。なっがいねー。レイジ君はそういう長い付き合いの人、いる?」


「え? あ、はい。あの、幼なじみがいます」


 幼なじみ。

 その言葉を聞くと、ちょっと心に小さな針が突き刺さる。

 ってなんでだ。


「男? 女?」


 ミクがにやにやして聞くと、レイジは、


「男ですよ」


 と答えた。

 あ、男なんだ。


「へえ。どんなひとー?」


 ミクが畳みかけていく。

 レイジはミクが買ってきたポテチに手を伸ばして言った。


「年上です。ちょっと変わった方ですけど、優しい人で」


「変わってるって?」


「うーん……話すのがへたっていうか、主語を言わないで話をするので、時々何が言いたいのかわからないことがあって」


 そう言って、レイジは笑う。

 その笑みは、いままで見せてきた嘘っぽい微笑みに比べて、とても自然で優しい笑顔だった。


「その人のこと好きなの?」


 わくわく感を隠せない。そんな感じでミクが言う。けれど、レイジは苦笑して、


「そんなわけないじゃないですか」


 と答えた。

 すると、ミクは不満げな声を上げる。


「えー? だって思春期にはよくあるでしょー? 同性に恋するって」


 そうなの、ミクさん。いや、私、初耳だけど。

 そんなミクの言葉にレイジは首を振る。


「好きですけど、恋はしてないですよ」


 と、ちょっと困った様子で応えた。


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