表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

拾った子は有能だった

 朝目が覚めると、なんだかいい匂いがした。

 1LDKのアパートの部屋。

 床には毛布と掛け布団が畳まれて置かれている。

 なんだっけ? 何があったんだっけ?


 混乱する頭で考える。

 私はベッドから這い出てリビングへとつながる扉を開ける。

 キッチンへと目を向けると、そこにはエプロンをした黒髪の少年がいた。

 彼は私のTシャツとスエットを着ている。

 昨日拾った少年だ。

 彼はこちらを振り返ると、アイドル張りの笑顔を見せた。


「おはようございます、琴美さん」

「え、あ、おはよう、ございます」


 つられて挨拶をする。

 彼はご飯を作ってくれたみたいだ。

 食卓。と言うか、リビングに置かれた座卓にご飯とお味噌汁、それに目玉焼きに魚肉ソーセージの炒め物が用意される。


 ザ・朝食。

 リビングに散らかっていたであろう本や雑誌、それに昨日家で飲んだお酒の空き缶も皆片づけられている。

 やばい。この子、ただの家出少年じゃない。

 超使えるアイテムだ。 

 いや、そう言う問題じゃない。

 私は首を振って、向いに座る彼を見た。

 どうみても、彼は子供だ。


 10代だ。

 昨日何もしてないだろうか。正直不安がよぎる。

 昨日の夜のこと、あまり覚えていない。

 この子拾って、家帰って酒飲んで……


「ねえ……えーと……」


 名前を呼ぼうとして思い出せない。

 そもそも名前を聞いたかどうかもわからない。

 箸とご飯茶碗をもった少年は微笑んで、


「レイジです」

 と言った。

 たぶん嘘。

 っていうか、本名を名乗るとは思ってない。


「私、昨日何した?」

 すると、レイジはにっこりと笑う。

 おぉう。その笑顔見せられたら同じ年頃の子はキャーキャー騒ぐんじゃないな。


「昨日は帰った後、お酒飲んで、僕がちょっとしたおつまみ作ったら喜んでくれて。

 僕はジュース飲んで琴美さんの話を聞いてました。

 僕がシャワー浴びさせていただいている間に、ベッドで寝ちゃっていたので片づけして……」


「そ、それで?」

 肝心なところはその先だ。


「お布団借りて、僕も寝ました」

 それを聞いて、私は心の中でほっとする。

 よかった。何もしてないなら本当によかった。

 酔った勢いで、こんな子どもと関係を持ったとかになったらシャレにならない。


「で、えーと。レイジ君」


「はい。なんです」


「あんなところで何してたの?」


 昨夜、たぶん10時過ぎだったと思う。なんであんな時間に繁華街なんかにいたんだろう。

 彼はご飯を食べ終え、手を合わせてごちそうさまと言った。

 ひとつひとつの所作をみても、彼は多分育ちがいい。

 なのに家事ができるとか。

 どんだけなの。


「相手を探していたのは確かですね」


 彼は静かにそう告げた。


「相手って……?」


「一晩、家に泊めてくれる人です」


 その言葉の裏に隠されたものを感じ、私は押し黙った。

 そうか。この子。

 身体売ってるのか。

 一晩の宿を得る代わりに身体を売るって話、ニュースでやってたな。

 そんなことするようには全然見えないけど。

 私はご飯をかきこむと、手を合わせてごちそうさま、と言った。


「じゃあ、僕、片付けますね」

「え、いや。だってご飯作ってくれて片づけまで……」


 たちあがろうとする私を片手で制し、彼はお盆の上に食器を載せていった。

 ソファーに腰かけCS放送の音楽番組を見つつ、私はちらっと彼を見た。


「飲み物いれます?」


 レイジはそう言って、こちらを見た。


「え、うん。冷蔵庫にジュースあるよね。それおねがい」

「わかりました」


 こんな子を育てた親はどんなだ。

 いい子だぞ。

 なんでこんないい子が身体売って家出してるんだろう。


「あの、琴美さん」

「なに?」


「僕、いつまでいて大丈夫ですか?」


 飲み物の入ったグラスを座卓に置きながら、レイジが言った。

 こちらの様子を窺うような、すこし不安げな顔をした彼を見て私は悩んだ。

 いつまでもいていいとか言えない。

 とりあえず今日は土曜日で、月曜日は祝日。いわゆる3連休だ。


「……うーんと。とりあえず連休中はいていい。かな」


 そう答えると、彼はほっとした表情を見せた。


「ありがとうございます」

「でも親は大丈夫なの? だって……」


 と言いかけて私は言葉を飲み込む。

 彼はただにっこりと笑って私を見つめるだけだった。

 あ。これ、答えるつもりない。ああ、そうだよね。

 家出少年が家出の理由を簡単に語るわけないか。


「あ。でも、食材とかあんまりないし。服、ないよね」

「服は……下着とか2日分くらいはもってますから。

 この服はすみません。いいって言ったんですが、琴美さんが着ろって押し付けて……」


 覚えてない。

 そういえば、昨日は気づかなかったけど、この子、リュック背負ってた。

 よく見ると部屋の隅に見覚えのないリュックが置かれている。


「そっか。あとで、買い物行くけどどうする? 一緒に行く?」

「……すみません。外に出るのは……あの、メモ渡しますので買い物頼んでいいですか」


「あ、うん。わかった」


 私は棚からメモ紙とペンを出して、彼に手渡した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ