番外編・彼の想い出
店内の明るい照明に煌めくビーズ。
クリスタルビーズとか呼ぶらしい。
紅いビーズで作られた、鍵のモチーフはずっと財布の中にしまってあった。
あれから7年が過ぎていた。
高校1年生だった僕は今、23になった。
ストーカーから逃げて、厳しい親からも逃げ出したあの頃。
もうとうに、想い出の中に沈んでいた。
僕は想い出に鍵をかけることを選んだ。
ストーカーのこと、身体を売っていたこと。
それらの想い出に鍵をかけて皆封印することを、僕は選んだ。
……同時に、僕はこれをくれた人のことも封印した。
だって、もう会うことなんてないと思っていたから。
あの人はきっと、幸せになっているだろうって僕は思いたかったし。
それに、顔を合わせたら、あの時過ごした時間のことを思い出して、心が揺れ動きそうだったから。
それまで出会った大人の女性たちの誰とも違う、僕に家事をすることを望んだあの人。
ほんの短い期間だったけど、僕は彼女の家政夫だった。
雑然とした部屋を片付けて、ご飯作って。ただ一緒にいただけだけど。
特別な何かがあったわけはないけれど。
最初会った日、振られたのーって、なぜか笑ってたあの人は、最後泣いていた。
体に触らないって決めてたのに、結局抱きしめたりしちゃったな。
「甲斐」
低い静かな声が僕を呼ぶ。
いつの間にか、幼なじみが僕のそばに立っていた。
「時間」
言われて僕は、店内にある古い柱時計を見る。
時間はとうに閉店時間を過ぎていた。
「あ、すみません。片づけますね」
「ビーズ?」
主語を言わない彼の言葉はわかり辛いことがある。
何のことか一瞬考えて、彼が言いたいのは今手に持っている鍵のことであると気が付く。
「ええ。ビーズでできた鍵です。ずっと、財布にしまってあったんですけど」
「もらい物?」
「はい。そうです」
「へえ」
言いながら、彼はレジを操作して、今日の売り上げのレシートを出していく。
「大事なもの」
ぽつりと、彼が言う。
たぶん、疑問形なんだろうけれど、抑揚がなくてわかり辛い。
僕は笑って、そうですね、と頷いた。
「たぶん、初恋に近かったんでしょうね。僕が弱味を見せた女性は、この人が初めてだと思います」
「そう」
無表情に、幼なじみはそう答える。
「昔の、ほんとうに昔の話ですよ」
言いながら、僕は鍵を財布の中に戻した。
今度は、大事なものをしまっておくために。
次に、以前拍手にのせていたIFエンドをのせています。




