それから
気が付けば、あれから7年の時が流れた。
12月の初め。
町はクリスマス一色に染まっている。
ミクが連れていきたいところがあると言い出して、子供を夫に預けて私は彼女と共にとある町に来ていた。
私たちが住んでいる町から、車で一時間ほど。
新幹線が止まる大きな駅がある、大きな町。
駅から少し離れたところに、少しさびれた商店街があった。
レンガ通り商店街。
名前の通り、道路にはレンガっぽい石が敷き詰められている。
その商店街の入り口に、目的の店があった。
見た目は大きな洋館風。一階は店舗で二階は住居だろうか。
そして、大きなショーウィンドウに、猫のキャラクター、ケットシーのグッズがたくさん並んでいる。
「うわぁ……こんなお店いつからあるの?」
ケットシーグッズはコアな人気があるんだけど、扱っているお店は非常に少ない。扱っていても、品数は非常に少ない。
ここは田舎だから、これだけのグッズが置いてあるお店は貴重すぎる。
ミクはにやにや笑いながら、
「中、見てごらん?」
と言いながら、入り口ドアを開ける。
カランカラン……
と、ドアにつけられた鐘が鳴る。
店の目立つ場所に、サンタの姿のケットシーグッズがたくさん並んでた。
この時期だけに出る、期間限定の商品だ。
嬉しくなって、私はそれらを物色した。
近くにあった小さな買い物かごにいっぱいグッズを詰め込んでいると、ミクが呆れた声を上げる。
「ねえ、そっちじゃなくって」
彼女は店の奥を指差す。
どういうことかと思って、店の奥……レジが置かれたカウンターのほうを見る。
店は教室と同じくらいか、ちょっと小さいくらいだろうか。
若い女の子の姿が多くあった。
時期も時期なので、サンタや雪だるま、クリスマスツリーにまつわる商品がたくさん置かれている。
カウンターには、ひとりの青年が、お客さんと会話をしながらお会計をしていた。
焦げ茶色に染められた、サラサラの髪。
縁のない眼鏡に、二重の大きな瞳。
アイドルのような、綺麗な顔をした、背の高い青年――
ああ、そうか。
そういうことか。
私は目を大きく見開いて、ミクを見た。
彼女は笑って、
「ね」
とだけ言った。
あの、レジにいる青年は、間違いなく、レイジだった。
あれから7年もたってる。あのころ10代だっただろうから、もう20代前半だよね。
柔和な笑みを浮かべて、彼はそこにいた。
「なんでわかったの?」
「ネットでさ。噂になってたんだよね、この店。ケットシーのグッズのこともそうだけど、あの奥のちょっと変わったグッズとか、店員さんのこととか」
奥のグッズ? どういうことかと思って、そちらを覗いてみると明らかに雰囲気の違う商品が置かれていた。
護符に、水晶玉。大きな十字架のアクセサリーに、髑髏のブレスレット。
護符って何に使うんだろう?
っていうか、この一画だけ雰囲気違いすぎる。
これは噂になるよね。
「店員の噂って何?」
首をかしげてミクに問いかける。
「ああ。あのね、ここの店員さんはふたりともイケメンだって話」
ふたり。
ミクはそう言った。
でも、今店内にいるのはひとりだけだ。
もうひとりは?
ミクは顔を私に近づけて、声を潜めた。
「ここの店長、超レアキャラなんだって。見られたら幸せになれるって話」
店長がそれってどういうことなの。
「なにそれ?」
「引きこもって出てこないんだって」
「なんで?」
すると、ミクは首をかしげた。
「さあ? そこまではわからないけど。
まあ、とりあえず。どうする? 琴美」
どうすると問われ、はっとする。
このかごに入れたグッズを買うにはレジに行かなくちゃいけなくて。それは、レイジと相対するってことで。
ちょっと緊張してくる。
たった三日間だけだけど、とっても不思議な時間だったな。
ほんとうにいい家政夫だったな。いや、それもどうかと思うけど。
まあ、私の部屋広くなかったけどさ。掃除苦手だったし、綺麗にしてくれたのは本当にありがたかったな。
もうとうに綺麗な思い出に変わっていたのに、なのに一気に記憶がよみがえってくる。
そんなことしているうちに、お客さんの数が減ってくる。
私たちともう一組だけになったころ。
「甲斐」
低い、男の人の声がした。
「あ、とお……笠置さん」
黒い癖のある、長い髪。鋭い瞳の青年が、店の奥から出てきた。
レイジと同じエプロンをしていることから、たぶんあれが店長なのだろう。
彼の出現で、お客さんがきゃあ! と声を上げる。
「笠置さんだぁ!」
「ほんとだ、店長さんだ!」
なんていう歓声を上げている。
これだけ騒がれるってどんだけなの。
彼は、にっこりとほほ笑んで、いらっしゃいませ、と騒ぐ女性客たちに向かって言った。
その笑顔に、彼女らはまた歓声を上げる。
レイジと並ぶとよくわかるけど、ふたりはかなり身長差がある。10センチか、それ以上。
店長さん、もうちょっと背があればいいのになあ。
たぶん160センチ台だろうな。
店長さんは、レイジに何か話しかけた後、奥にまた引っ込んでいった。
「超、レアなもの見たね」
ミクがそんなことを言う。
私は苦笑して、そうだね、とだけ言って頷いた。
よほどレアなんだろうね。女の子たちの喜びようを見ればわかる。
カランカラン……と、鐘が新たな客の出現を告げる。
「ねえ、今ならお客さん少ないし、話しかけて来たら?」
何そのハードル高いの!
でも、話しかけないと買い物できない。
私は、かごの持ち手を握りしめ、カウンターへと近づいた。
彼がこちらに気が付く。
そして、笑顔が一瞬、驚いたような表情に変わる。
「これおねがいします」
私は至って普通に、カウンターに籠を置いた。
彼はすぐに笑顔になって、
「いらっしゃいませ」
と、ちょっと落ち着いた、澄んだ声で言った。
「ご自宅用ですか?」
「はい。お願いします」
私はそう言って、笑って頷いた。




