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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無題シリーズ

椅子

作者: みづ きづみ

激しい頭痛に私は目を覚ました。

酷く濃い死臭が真っ先に鼻を突き、次第に視界の暗さに気付いた。どうやら目を何かで覆われており、一ミリも光は差し込まない。

立ち上がろうとするが、どうやら椅子か何かに縛り付けられているようで、全く身動きが取れない。


聴覚はどうだろうか。右のほうで水の滴る音が聞こえる。耳は塞がれていないようだ。

不思議と精神は安定している。人間は案外、理解不能な状況に陥ると毅然としているのかもしれない。いや、状況を飲み込めていないだけか。


そもそも私は先ほどまで、レギュラー番組で司会をしていたというのに、一体全体何だというのだ。

これから大事なプロジェクトがあり、最近では番組の本数も増え、司会だけでなく、クイズ番組にも出演し、ニュースキャスターの枠を超えた存在となっている。これからだという時に、一体全体何だというのだ。

売れない時代にも、上司にドヤされながらもこれまで必死にやってきたのだ。そしてそこで出会ったのが、整形だった。まるでゴキブリの様な人生。負け犬人生。こんな私でも180度人生を覆すことをしたい。それからだった。

イケメンキャスターとして次第に有名になり、整形疑惑をかけられながらも着々と人気を集めてきたのだ。いつ秘密がばれてしまうのかとヒヤヒヤしていたが、ここまで人気が出てしまえばもう取り返しはつかない。誰も何も言えない立場まで上り詰めてしまおう、と。


それなのに、どうしてまた私はこんな状態で椅子に座らされているのか。ああ、また仕事をすっぽかして上司にどやされ、妻に文句を言われる。それならいっそ、このまま死にたい。私を拉致した、どなたかは知らないが、私の全てを奪ってはくれまいか。奪わなくてもいい、破壊して全てをリセットさせてはくれまいか。

もしかするとこれはドッキリなのだろうか。それにしては空気がやけに冷たく、過剰だと思わせる程に椅子に縛り付けるロープが強い。


誰か、早く解放してくれ。


頭の中で唱えても、誰も答えてはくれない。


そう思った矢先であった。


ガチャリ。

扉の開く音がした。


コツコツとブーツなのか分からないが、乾いた靴音が部屋に響く。広いのか、音は大きく反響していた。

音は自分の真後ろで止まった。

「よう。目は覚めたか?」

低い男の声だ。タバコを吸うのか、かなりヤニ臭い体臭が鼻を掠めた。

「だ、誰なんだ」

恐る恐る声を出してみると、嗄れてはいるがしっかりと音になった。


「久しぶりだなぁ……沼田ぁ…」

「?! 俺のことを? 誰だお前!」

やはりドッキリなのだろうか?

「まあそう騒ぐんじゃない」

男は目の前に来ると、目隠しを剥がした。


「!」

私は驚愕した。男には、顔が無かったからだ。


「見ろよこの顔を…思い出したか? いや、今もお前達はやってるのか?」

男の顔で、私は全てを鮮明に思い出した。この男は、前島だ。私が殺したはずの男だった。


「知らないな。私を捕まえて一体何をしようというんだ?!」

これは一体何なのだ? テレビ番組だとしたら、本当のことを言うわけにはいくまい。だが、男の質問は私の過去を知っているような素振りだ。

「はっ、「私」てか。お高くとまりやがって人殺しが。あれから俺は、お前らに復讐するために、死に物狂いで探したよ。そして全員見つけた……。人殺し五人集団のその最後の一人が、お前だ沼田」

まさか、と私は隣を見た。


「お前ら……」

思わず声が出てしまった。

横には、血だらけの、かつての”仲間”が一列に座っていた。

自分と同じように、椅子に縛られている。


「面白いもんだろ。中学時代、共に笑いあった仲間が死んでいる姿ってのはよ」

「これはドッキリなのか? 一体何なんだ? 私も同じように殺されてしまうのか?」

「まだだ。お前には、自分の全ての罪を洗いざらい吐いてもらおうか」

「……し、知らん。私には思い当たるものは何も無いな」

「そうか、ならば仕方ない」

男は隣の部屋からチェーンソーを持ち出してきた。

「や、やめてくれ! 済まなかった! 全てを話す!」

「ようし……じゃあ、あそこのカメラに向かって全てを話せ」

前島は天井の隅に設置されたカメラを指差した。

やはりテレビなのか?

「前島!馬鹿な真似はやめろ! これはドッキリなんだろ?」

「まだそんなこと言ってやがるのか。じゃあやってやるよ。お前達が俺の顔にしたのと同じようにな!」

前島はチェーンソーのエンジンをかけると歯を回転させ始めた。バイクのモーターのようなけたたましい音が部屋に響き渡る。

「分かった!話す! 私は中学時代、仲間と共に何人もの人間の顔を切り刻み、山に捨てた。当時有名になった、連続顔無し殺人事件の首謀者は私だ!」




****




東京都内。

その日、ビルに設置された大型モニターにはイケメンキャスター沼田俊彦が映っており、今朝のニュースを読み上げている。


『昨夜、都内某所にて殺人事件が発生、警察が駆けつけたところ、五人の男性の遺体が放置されており、その内の四人は椅子に縛り付けられた状態で死後三日が経過していたとのことです。更に、男性らの顔は全て刃物か何かで削り取られており、二十年前にも類似する事件が発生しており、警察が関連を調べています。続いて、次のニュースです…』

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