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兄とわたしの吸血生活  作者: とんじる
9/14

狩るものと狩られるもの

本編があらすじから離れて行く・・

 

 鬱蒼と木が茂る公園の散歩道を、お兄ちゃんを追いかけ足早に駆け抜けた。

 早くしないとコウモリに変化して飛んでいってしまうかもしれない。

 公園の真ん中には大きな池がある。そのほとりを通って公園を斜めに横断するのがうちへの最短距離だ。

 もう陽がだいぶ暮れかけている。

 公園の街灯がちらほらと点灯し始めた。

 学校で襲われたトラウマなわけじゃないだろうけど、1人で物淋しい公園を歩くのは嫌だった。

 ダッシュでお兄ちゃんを追いかけ、池のほとりをぷらぷら歩いてるところを捕まえる事ができた。


「お兄ちゃん、一緒に帰ろ!」


 わたしは背後からお兄ちゃんに腕を絡めて言った。


「なんだお前、どっから来たんだよ」


「わたしは会いたいと思ったときに、どこからともなく現れるのだ」


「ふん、少なくともそれは今じゃねえな」


 お兄ちゃんはわたしを引きずるように足早に歩く。ご機嫌ななめだ。それはさっき、デートしてた女の子にあの人と似てると言われたから……。


「そうだ、お兄ちゃん。ミッキー先生って知ってる?」


「知らん」


「もうちょい真面目に考えてよ。新しくうちの学校に来た、外人の先生のこと」


「だから、知らねえって。なんで俺がそんなやつのこと……」


「どうもご紹介に会いましたヨウデ」


 背後から突然した声に、わたしたちは同時に振り返った。

 そこには黒いコートを着込み、黒いハットを被ったミッキー先生が立っていた。右手には十字架の形で先端が尖った、ラケットくらいの大きさの棒を持っている。表情は笑みを浮かべているが、それは学校で見るものとはまったく違う。格闘技のリング上で、ゴングの前に見られるような、楽しいって感情とは異なる笑みだ。


「誰だお前」お兄ちゃんが言った。


「オハツにお目にかかりまして。わたくしマイケル・ペトリーと申します」

 ミッキー先生の様子が学校とまるで違う。学校では長身を猫背にして小さく振る舞っているのに、今は体を仰け反るようにして威圧的だ。

「オノブライさん。あなたを殺しに来ました」


「あんだと?」


 言うが早いか、ミッキー先生はお兄ちゃん目掛けて飛びかかって来た。

 とんでもない跳躍力。10メートルの距離をたった3歩で近づいて来た。

 お兄ちゃん目掛けて、十字架の武器をふりおろす。


「あぶねえ!」


 お兄ちゃんはわたしを突き飛ばした。わたしは生垣の中に転がり込んだ。

 お兄ちゃんは十字架の攻撃を間一髪かわすと、先生の腹に中段蹴りを入れた。先生は元の居た場所くらいまで吹っ飛んだ。


「おいカミラ、なんかわかんねえけど先に帰ってろ。こいつあぶねえぞ」


「ご心配なく」ミッキー先生はむっくり起き上がった。落ちていたハットを拾ってかぶり直す。「カミラさんに危害は加えません。わたくしの狙いはアナタだけデース」


「あ?」

「ちょっと待って下さい、先生!」わたしはお兄ちゃんと先生の間に入った。


「おいカミラどけ……」

「先生!なんでいきなりそんな事するんですか? お兄ちゃんを殺しに来たとか、ぜんぜん意味がわからないですよ」


「アッシは世の中のヴァンパイアを駆逐せな、アカン使命なのデスヨ」


「えっ」知ってるんだこの人。お兄ちゃんがヴァンパイアだって。


「ふん。俺のことをヴァンパイアと知ってる上で殺しに来るとか、お前が何者か知らねえけど、カタギの人間じゃなさそうだな」


「わたくしはアメリカCIAの委託を受けた、ヴァン・ヘルシング財団の者でアリマス」


「ヴァンヘルシング?」


「言わずと知れたヴァンパイアハンターの代名詞デスネー。まあ彼の方は物語の架空の人物でアリマシテ、わたくしたちの財団は名前だけ借りた物でアリマス」


「今どきヴァンパイアハンターかよ。流行らねえ仕事だな」


「ヴァンパイアも絶滅危惧種でアリマスからね。最近は噛みついたり血を吸ったりする猟奇殺人犯も増えてしまって、真のヴァンパイアを見つけるのも一苦労でアリマスよ」


 お兄ちゃんの眉毛がぴくりと動いた。「そんな殺人犯たちと一緒にすんじゃねえ」


「Oh、これは失礼シマシタ」ミッキー先生は片手を前に振って、執事みたいな大袈裟な謝り方をした。「でも実際見つけるのは大変ナノデスヨ。今回はカミラさんを襲った教師が『吸血鬼にやられた』と騒いでると聞いてやって来たのデス」


 久保田のことだ。確かにニュースで久保田は「なおその教師は、吸血鬼がいる、などと意味不明な供述をしていて……」と言われていた。


「なのでわたくしは最初に、カミラさんにサグリを入れさせていただきマシタ。しかしドウヤラ違うようデス。ではお兄さんの方は? すると音楽の授業の時間に、突然態度が変わった娘がイマシタ。昨日まで暗かったのにいきなり明るくナッタデース」


 上原つぼみのことだ。つぼみはお兄ちゃんに催眠状態のとき「自信を持って良いぞ」と言われたせいか、急に人当たりが良くなっていた。


「わたくしはその娘の首筋を調べて見ました。ビンゴ! 牙のあとデスネ。確定でアリマス」


「グダグダご託は良いんだよ。なんにせよお前はゴミみたいな賞金稼ぎってことだろ。さっさとかかってこいや。テメーの鼻をへし折って、日本に来たことを一生の後悔にしてやんよ」


「賞金稼ぎとは人聞きのワルイ。わたくしのやることは社会正義のための、宗教的活動でアリマス」ミッキー先生は左手を背中に回した。「アナタ自体には何の恨みもないのですよ」


 お兄ちゃんはミッキー先生の方にジリジリ近づいている。今にも飛びかかれる距離だ。その時、わたしの角度から、ミッキー先生の背中が膨らんでいるのがわかった。


「お兄ちゃん、危ない! 気をつけ……」


 お兄ちゃんは飛び上がっていた。一気に決着をつけようと。

 ミッキー先生は背中に回していた手をサッと前に出した。その手には小型のボーガンが握られていた。


「ヴァンパイアとして産まれたことを恨みなさい!」


 わたしの耳に、風を切り裂く音が轟いた。















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