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兄とわたしの吸血生活  作者: とんじる
7/14

眼鏡のあの娘2

ストーリーとか何も考えず書いていたら、ホラーからだんだん離れて行ってしまう・・

軌道修正できるだろうか・・

「いやだねー、ブスと会うなんて」


 家での夕食の時間、わたしはお兄ちゃんに相談した。血のように赤い麻婆豆腐を食べながら、お兄ちゃんはすげない返事をした。


「ぶうちゃん、女の子をそんなふうに呼んだらダメよ」


真千子まちこおばちゃんが料理を持って来ながらそう言った。おばちゃんはうちのお母さんのおばちゃん。ようするにお婆ちゃんの妹だ。年齢は60歳を越えているのだけれど、まだ40代と言っても通用する外見をしている。お料理教室の先生をやっている腕前で、食事はほぼ毎日作るか届けてくれる。

 

 両親が亡くなってからわたしたちは、しばらく真千子おばちゃんの家で生活していた。お兄ちゃんは高校に入るときに一人暮らしを始め、わたしはその後を追いかけて転がり込んだ形だ。

 今のわたしたちが住んでいる家は、両親の遺産と保険金で家賃を払っている。遺産はかなりの額があったので、お兄ちゃんは埼玉に3LDKの高層マンションの部屋を借りた(本当は東京に住みたかったらしいが、家事が面倒なのでおばちゃんの家からあまり離れなかったのだ)。家賃は20万近い。ヴァンパイアが住んでいそうな洋風のお屋敷とまでは行かないが、高校生が二人で住むには豪華すぎる物件だ。

 16畳あるリビングで、わたしたちは夕飯を食べていた。今日は中華料理。わたしはウーロン茶を飲んでいるけど、お兄ちゃんはいつものようにトマトジュースだ。


「ぶうちゃんは本当は心が優しいのに、わざとそんな言葉使うんだから。どんな女の子も優しくされたら嬉しいんだからね」


「おばちゃん、ぶうちゃんって呼ぶのやめてよ。もう子供じゃないんだから」


「あら、いつまで経ってもあんたはぶうちゃんよ。子供はいつまで立っても子供なの。とくに不二子はあんたが子供の時しか知らないんだから、ずっとこの呼び方がいいのよ」そう言うと真千子おばちゃんは、サイドボードに乗ったお母さんの写真に手を合わせた。「じゃあ、私は帰りますからね。カミラちゃん後片付けはお願いね」


「はーい。ありがと真千子おばちゃん」

 わたしはおばちゃんを玄関まで見送った。さあ、説得の時間だ。


「お兄ちゃん」わたしはテーブルに戻るとさっそく切り出した。「ちょっと会うだけでいいのよ。そこで話を合わせて、うまく誤魔化してくれたら」


「知らねえっての。なんで俺が宇宙人のフリしなくちゃいけないんだよ」


「だって空飛んでるのバレちゃったんだからしょうがないでしょうが。そんな写真公表されたら、わたし街歩けなくなるわよ。ネットで特定とかされちゃうかもしんないでしょ」


「めんどくせーなー。だいたい説得するだけなら学校で良いだろ。なんで明日、一緒にプラネタリウムに行ってそこで話すってことになってんだ」


「だって、それは……。あの子もお兄ちゃんのこと……アレなわけだし……」

 今日の学校で上原つぼみと喋っていたとき、こんなことを聞かされた。

 『お兄様の動向はずっと追いかけていたんです』と、つぼみ。『私、男性に心引かれたことなどなかったのですが、産まれて始めて心が締め付けられるような気分になったというか……。それがなぜか分かりました。お兄様は宇宙から来られた方、それで私の心とシンクロしたんだなと!』


 わたしはテレビを見ながらトマトジュースを飲むお兄ちゃんの横顔を眺めた。

 その後ろには23階からの夜空が展望できるバルコニーがある。その手前のガラス戸にはお兄ちゃんの影がぼんやり写っている。

 ヴァンパイアというのは昔は鏡に映らないと言う事だった。しかしそれではあっという間に正体が見破られてしまう。わたしには良く解らないが、中世から分子的なレベルで何かの改良が繰り返され、その結果今ではヴァンパイアも鏡にしっかりと映るようになった。

 しかもその分子的な改良は、ヴァンパイアの能力をさらに強める効果まで付け加えられていた。

 女性の目に映るヴァンパイアは、その人が思った理想の形に多少変化して見えるらしいのだ。

 それが眼球の問題なのか、脳に作用しているかとかは良く解らない。ただ言えるのは、ある女性の理想の男性像が知りたいと思ったら、お兄ちゃんを見た感想を聞けばいいと言う話だ。


 上原つぼみがお兄ちゃんを見た感想は、ゆるふわの金髪で(実際は銀髪だけども)その優しそうなタレ目の童顔は、好奇心旺盛に夜空を一緒に眺めてくれるはず、という事だった(ちなみに親友のカナにはちょっと大人びてて、Sっぽさがたまらない、と見えるらしい)。   

「とにかく何でもいいから、会って話してくれたらいいのよ。写真も持ってきてって言ってあるから、それさえお兄ちゃんが受けとっちゃえばあとはどうとでもなるんだから」


「ふん、どうとでもなるね……。どうなっても知らねーからな」



  ◆



 そして、わたしは【宇宙企画劇場】というプラネタリウムの、お兄ちゃんと上原つぼみが座る3列後ろから隠れてその様子を眺めていたのである。

 待ち合わせは学校帰りのプラネタリウムだった。つぼみが先輩と一緒にいられるような私服を持っていないので、制服のまま会いたいと言うからだ。わたしはダッシュで家に帰り私服に着替えて待ち伏せしていた。さすがに制服にサングラスは目立ちすぎると思ったからだ。

 

 劇場に隣接したカフェでわたしは二人が出会うところを盗み見していた。

 会った瞬間、予想外のことが起こった。

 お兄ちゃんがつぼみのメガネをそっと取り、ぱっつんの髪を手で分けてデコを出させた。

 つぼみは顔を真っ赤にして直立不動だった。お兄ちゃんはまんざらでもなさそうにつぼみの頬をなでると、プラネタリウムの中へとエスコートし始めた。

 どうやらつぼみを気にいったらしいのだ。

 わたしは慌てて二人のあとを追いかけた。


 プラネタリウムの中は平日の夕方とあって客もまばらだった。

 イスは後ろに寝そべるように倒れて、天井には美しい星と銀河の形が映される。それに甘い低温の声で説明の音声が流れる。

 わたしはタコ焼き味の宇宙食という謎の食べ物をほおばりながら、それを見ていた。宇宙食は意外とおいしかった。星の話はまったく頭に入らなかった。わたしはいつの間にかうとうと夢の世界に落ち込みそうになっていた。

 ふと気づいたとき、お兄ちゃんとつぼみの姿が消えていた。

 わたしは慌てた。あたりをきょろきょろ見回した。自分の席を離れ、お客たちの怪訝な目をくぐり抜けながら、客席を中腰で歩き回った。

 そこで一番端の最上段、柱の陰で他の席からほとんど見えないところでもぞもぞ動く影を見つけた。

 わたしはそっと回り込んだ。

 お兄ちゃんが上原つぼみと添い寝して、その首筋にするどい歯を立てていた。


(おい、こら! なにやってんじゃああああああ)

 わたしは近寄ると、お兄ちゃんの尻をこぶしで殴った。


「うおっ。なにすんじゃ、このヴァンパイアの神聖な吸血の時間に」


「ヴァンパイアのくせになにが神聖よ」わたしは小声で最大限の迫力が出るように言った。「彼女は貧血気味だから血は吸わないで言ったでしょ。催眠状態になるまででいいのよ」


「ふん。ここまで盛り上がったら、据え膳食わぬはヴァンパイアの恥ってなるんだよ」


 ヴァンパイアが吸血するときは、相手をまず半覚醒状態にしないといけないらしい。そりゃ、あれだけ太いキバが首筋に刺さるんだから麻酔をしなけりゃとんでもない激痛だろうし。

 そのために、お兄ちゃんは首筋をペロペロとなめる。すると人間の女性(男性は知らん)は、まるで何かのヤバいドラッグでも吸ったように気持ちよくなり、忘我の境地へと飛んで行ってしまう。そのときにヴァンパイアは相手に催眠術的な物をかけることができるのだ。このことは忘れなさい、とか。

 しかし、これはあくまでお兄ちゃんの言い分だ。他にやりかたはあるのに、自分に都合いいようにそう言ってるだけかもしれないが。


「いま写真を返してもらって、あのとき見たことは忘れなさいって言えばいいのよ! 血は吸わなくったって」


「へーへー、わかりましたよ。あのときのことは忘れましょうねー。かわいいお嬢ちゃん。お前はメガネ取ったらそこそこイケんだから、ちっとは自信持って過ごせや」


 わたしは上原つぼみの学生カバンから、封筒を取り出した。中にはプリントアウトされた写真と、ご丁寧にSDカードが入っていた。

 写真には思った以上にくっきりとわたしの顔が写っていた。満面の笑みだ。お兄ちゃんの首に手を回して、とても楽しそうにしている。写真からでも幸せオーラみたいなものがにじみ出ている。

 彼女には写真家の才能があるかもしれない。この写真は記念に取っておこうかな? 

 そんなことを考えながら、ふと上原つぼみの顔を見た。

 

 そこにもまた、幸せそうな笑みが広がっていた。そりゃ、彼女にとってはおそらく初恋の人とのデートだったんだもの。つい先日までは妄想の中だけのことだったはずの。

 彼女は今日の出来事も、夢の中のことと忘れてしまうんだろうけど……。


「ねえ、お兄ちゃん」


「あ?」


「もし上原さんが、写真とかそういうの抜きで、こんどまたデートしてくださいって言って来たらOKしてくれる?」


「さあな」お兄ちゃんは起き上がると、ぐっと伸びをした。「ただヴァンパイアってのはな、一度吸った血の味は永久に忘れないんだよ」

 

 


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