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兄とわたしの吸血生活  作者: とんじる
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クラスメイト

仕事帰りに朝日を見ると絶望します

神木隆之介のタウンワークのCMは欺瞞です

 

 久しぶりの教室に少し緊張した。

 

 うちのクラスは、男子17人女子17人の計34名。基本的にみんな仲が良い方だと思う。

 とにかく難関大学を目指す特進コースとは違い、部活中心の普通科なので基本的には体育会系だ。教室の前を通ると、特進と普通科ではガヤガヤ感がまるで違う。

 そこがクラスがまとまっている要因なのかもしれない。クラスの中にはけ口を作るのではなくて、特進コース全体をそんな感じで見ているというか……。まあわたしのお兄ちゃんは特進コースの3年生なんだけれども。


 深呼吸を一度してから、教室の扉に手をかける。

 先生が首を切って殺されると言うショッキングな事件があり、わたしはその当事者でもある。

 みんなはどういう反応でわたしを向かえてくれるだろう? ラインではみんな「元気だして」って感じだったけれども、実際、顔を見て見ないと分からない。変に同情されてもいやだし……。


「みんな、おはよ……」


「カミラーーーーー」

「マジダイジョブだった?」

「ケガしてないの?」

「ほんと久保田ってきしょかったしー」

「なんもされてないよね? ね?」

「ガチで久保田死んでほしいわー」


「ちょ、ちょっと待ってみんな。一気に喋られてもわかんないよ」

クラスに入った瞬間に囲まれての質問攻めだった。でも心配は杞憂だったようだ。みんないつもと代わりなく(ちょっと大げさに変わらない感じを出そうとしてたけど)わたしを向かえてくれた。


「ほら、ちょっとみんな静かにしいや。カミラは怪我人なんだから座らせてから質問してよ」

 親友のカナが言った。真行寺カナ。わたしの小学校からの親友で、バドミントンのペアでは最高のパートナー。そして、今回の件では命の恩人でもある。


「カナ、わたしケガなんかしてないからね。それよりあんたの方こそ足大丈夫なの?」


「だいじ、だいじよ。菊地先生に鍛えられた体なんだからこんなの屁でもないわあ」


「そうだね」菊地先生の名前を出したとき、カナの表情が一瞬くもった。カナはわたしよりも菊地先生が大好きだったから……。「ほんと今回はカナのおかげで助かったからね。カナがお兄ちゃんに連絡してくれなかったら、わたし死んでたんだから。こんどなんかお礼しなくっちゃ」


「別にお礼なんかいいよ。カミラと連絡つかないからブライ先輩に電話はしたけど、本心言えばブライ先輩と喋りたかっただけだし」そう言うとカナは、よだれをふく素振りをした。「そうだ、お礼してくれるってならブライ先輩とのダブルデートやな。よし、それで手を打とう」


「ダブルデートって誰と誰のよ」


「そりゃわたしとブライ先輩。あんたとトクマでしょうな」


「はああ? なんでわたしとこいつなのよ?」


「よっしゃ、良く言ったカナ。さすが江戸学、美人バドミントンペアのブスな方だ」


「誰がブスな方だ。はい、この話しはなくなりましたー」


 イスにふんぞり返ったカナは、荒木徳磨あらきとくまの足を蹴とばした。トクマは「すまん、ちょっとだけ可愛くない方だった。許してくれ」というと、床に土下座した。

すると、そのままわたしのスカートの中を覗きこもうとした。うむ、首を切られて死ねばいいのに。

靴下の足で顔を踏みつけてやった(上履きを脱いだのは武士の情けじゃ)。トクマは「ご褒美だー」と叫んでいた。これをおかずに3日ごはんが食べれるとか。荒木トクマはいわゆるお調子者だ。


「カミラ。その、聞いて良いのかわからないんだけど、メンタル的な物とかは大丈夫なの?」

そうわたしに問いかけたのは、桃谷あずさだった。身長177センチのバドミントン部の女形の巨人と呼ばれている。頭が大きいのが本人のコンプレックスだが、そんなものは気にならない心の優しさの持ち主だ。

「ぜんぜんダイジョーブよ。わたしはメンタルお化けって昔から言われてるし」


「そりゃ、ブライ先輩みたいなお兄さんがいて、助けてくれたのもあのお兄さんとあったら、わたしでもすぐ元気になれるわー」

そう言ったのは、吉沢まゆ。同じくバドミントン部の、おしゃれ番長()。「髪長いと邪魔だから」という女子がそろった中で、1人こだわりのワンカールのセミロング。眉もバッチリ整えたまゆは、いつもつるんでいるわたしたちバドミントン4人衆の中で、唯一男子と付き合ったことのある人間だ(ただしキスまでしか行かなかったということ)。


その後もクラスメイトにたっぷり10分間、質問攻めにされてしまった。担任の野々村先生が入って来ても、ほとんど無視して喋っていた。弱々しい初老の野々村先生は、か細い声で「静かにしてくださーい」と言っていた。そんな懇願とは関係なく、さらに10分後にようやくみんな席に戻って行った。


「やっと静かになりました(涙。じゃあホームルームを始めましょう……」


「おい、カミラ」


クラスの一瞬の静寂はすぐに打ち破られてしまった。今度はお兄ちゃんが教室の後ろのドアから登場したのだ。クラスの視線は全部そっちに持っていかれた。野々村先生はそこでホームルームをあきらめたようだった。


「ちょっとお兄ちゃん! なんて格好してんのよ」

体育の日が過ぎた10月半ばだと言うのに、お兄ちゃんは黒いタンクトップで登場した。女性的な顔立ちとは裏腹に、腕や胸の筋肉がムキムキだ。首にはロザリオのネックレスをしている。クラスの女子からは何故か「うおっ」と言う歓声が起こった。


「いや、美しき女子たちの目の保養になると思ってな。んなこた、どうでもいいんだよ。俺、ちょっと用事ができちゃったから、今日帰るからさ。今日は一人で帰れるだろ? お兄ちゃーん、おんぶしてーとか言わないで」


「な、な、な、なに言ってんのよ、みんなの前で!」クラス中から冷やかし、悲鳴、怒号が巻き上がった。「どうせ、またデートでしょ! ちゃ、ちゃんと夕飯までには帰ってきなさいよ!」


「わーってるよ」

 そう言うとお兄ちゃんは颯爽と去って行った。


「カミラー。おんぶしてもらったのぉ?」

 吉沢まゆの冷やかしの声。他の生徒からも「ブラコンかぁ?」などと言葉を投げつけられる。わたしの顔は真っ赤になっていた。みんなの視線から逃げるように窓から外を見やった。

 そこで目の端に眼鏡の顔が写った。

 窓側の後ろから2番目の、わたしの後ろの席だった。

 上原つぼみ。

 クラスで唯一の文化部であり、唯一わたしのことを「小野さん」と呼ぶメガネ女子。申し訳ないが忘れていた……。クラスは基本的に仲がいいと言ったが、彼女は例外だった。クラスのワイワイガヤガヤの輪の中には入ってこない。こっちから喋りかけても相づちくらいで、すぐ話が終わってしまう。

 無理に喋りかけて、同情してると思われるのも嫌なので、わたしもそれ程しゃべったこともなかった。さっきのわたしを囲んだクラスメイトの中にも加わっていなかったようだ。わたしの席と机1つぶんの距離が開いている。たぶん自分から机を離して、あの輪の中から遠ざかっていたのだろう。


「上原さん、ぎゃーぎゃーしちゃってごめんね。もう今日だけだから。ほんと申し訳ない」


 上原つぼみは、わたしのほうをチラ見すると頷いた。いつもこんな感じだが、今日はさらによそよそしい感じがした。いや、よそよそしいと言うより怖がっている? 

 なにか妙だった。

 それは次の授業の時間のときに、背中をつつかれた時にも感じた。

 

 彼女からわたしにアクションしてくるなんて、学校に入って初めてだった。

 後ろを振り返ると、彼女が小さなメモ用紙を渡してきた(申し訳ないが彼女とはライングループに入っていない。というか、そもそもスマホ持ってるんだろうか?)。

 わたしはそれを受け取ると、誰からも見られないようにこっそり開いた。

 そこには

『二人だけでちょっと話がしたいです。昼休みに図書室に来てもらえませんか?」

 と、書かれていた。


  


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