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兄とわたしの吸血生活  作者: とんじる
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金髪の教師

途中で間違って文章消しちゃうと絶望的な気分になりますよね・・

こまめに保存しようとは素晴らしいアドバイスです・・

「われらに罪をおかすものを、われらがゆるすがごとくわれらの罪を許したまえ……われらを試みにあわせず、悪より救いいだしたまえ……アーメン。カミラさん。あなたには本当に迷惑をおかけしましたね」


 あの事件のあと始めて学校に行くと、わたしは学園長室に呼び出された。

 学園長、マザー神代かみしろは70歳になるおばあちゃんだった。頭を覆った黒いシックなヴェールからのぞく顔は、歳のわりにつるつるしている。化粧はほとんどしていない。きっと若いころは相当の美人だったことだろう。

 天涯孤独の独身で、生徒を私の子供たちと呼んでいる。

 ただ噂では、学校のオーナーである宗教団体のトップ、江戸川秀行の愛人だったとまことしやかに囁かれている。ワインが大好物なのは公然の秘密となっているのだが。


「まさかブラザー久保田があんなことをするとは思いませんでした。きっとサタンに心を乗っ取られてしまったのでしょう。なんぴとも神に従いサタンに立ち向かわなければなりません。さすればサタンは私たちから逃げていきます。アーメン」


 わたしは皮張りの高級そうなソファに座りながら、話を聞いていた。

 学長室はきらびやかな装飾が施されている。時計やら置物やらトロフィーやら。

 学長の机には聖母マリアの置物があり、壁には東方の三博士の絵が飾ってある。さらに反対側の壁には、たたみ一畳分ほどのキリスト復活のイコンも飾ってある。

 江戸川学院の母体「終末キリスト寺院」はいわゆる新興宗教だ。江戸川秀行が1代で戦前にたたき上げた宗教団体である。カトリックとかプロテスタントとかも関係なく、30歳くらいの時に振ってきた神の爆弾というやつで、聖書をもとに作り上げたらしい(ちなみに学長は江戸川が70歳のころに20歳で愛人になったと言う噂だ)。

 ただ学校に宗教じみたところはあまりない。ぶっちゃけ戒律はかなりゆるい。この学校に入る人はだいたい部活が強いからとか特進コースの東大進学率とか、テレビで見たネームバリューで入る程度だ。

 だから毎朝の礼拝の時間もほとんどみんな寝てしまっている。


 かくいうわたしも朝練後の礼拝は睡眠の時間だ。

 しかし、その朝練はしばらく中止になったということだ。

 菊地先生があんなことになってしまったから……


「カミラさんは現場で人が殺されてしまう場面を見てしまったのですね。嘆かわしいことです。本当にショックな出来事だったでしょう。今は神の身元へと旅立たれたブラザー菊地に祈りましょう。悲しむ人は幸いである、その人たちは慰められる。アーメン」


「アーメン」

 わたしも首にかけたロザリオを手に持ち祈った。

 ちなみにヴァンパイアがロザリオを苦手とするのは、何百年も前までの話だ。

 お兄ちゃんはどこかのロックバンドが作った十字架のTシャツをいつも着ている。


「あの事件のあと、我が学院にマスコミが押し寄せて大変だったのですよ」マザー神代は首をふりふり行った。「ただ創始者の江戸川さまの尽力のおかげです。政治家やマスコミの上層部には我が学院を懇意にしてくれる人たちがたくさんいるのですよ。今回はその方たちにうまく取り繕っていただき、事態を終息させることが出来ました。ただ……」


「ただ?」


「カミラさん。あなたはどうするおつもりでしょうか? まさか裁判などには……」


「ええ、裁判?」


「残念ながらわたくし達には最強の弁護士たちが付いているのです。我が学院はこれまで一度も負けたことがありません。あなたがどうあがこうと……」


「ちょ、ちょっと待ってくださいマザー。わたし裁判なんてしませんよ」


「なんですって? じゃあ示談金でよろしいのですか!」


「いえ、お金なんていりませんって。わたしは今まで通り……菊池先生がいないから今まで通りってわけには行かないかもしれないですけど、この学校が好きだし、友達みんなと普通に生活したいだけです」


「なんと? ほんの些細なことにすら逆上するモンスターペアレ……親御さまたちだらけの現代で何もいらないですと? ああ、あなたは真の神の許しを心に持っているのですね! 主イエスがあなたを祝福し、あなたを守られますように! ハレルヤ!」


 マザー神代はわたしのソファの隣に座ると、熱いハグをした。普段は男子生徒にしかやらないでおなじみのハグだ。お兄ちゃんは会うたびにやられるので、露骨にマザーを避けている。

「マザー、そろそろわたし教室に戻ってみんなと会いたいんで……」


 マザーを体からなんとか引きはがそうとしていると、学長室の扉がガラガラと開いた。そっちに顔を向けると、不思議な外国人が立っていた。

 身長は185くらいだけどスリムでモデルみたいな体格。きゅっと締まった小さな顔には、高い鼻と彫りの深い眼。ふわっとした耳くらいまでの金髪に、透き通るような白い肌、ビー玉のように蒼い瞳。わずかに生やした無精ヒゲは、優男の中にワイルドさもあるんだぜと主張している。

 まるで映画の中から出てきたような美しい外国人だった。どこが不思議だったかって? 彼は着流しのような和服で登場したのだ。


「ハーイ、おひけえなすって。マザー」


「ワオ、マイケル。早かったわね!」

 マザーはわたしからさっさと離れ、外国人にハグしに行った。熱烈なハグで、頬には音が聞こえるほどのキスをした。

「おおマザー。久しぶりでとてもうれしいデース。して、そちらのオナゴはどちらさんでありんすか?」


「あら」マザーはわたしのことを忘れていたようだった。「こちらは小野カミラさん。今回の事件で……受難に遭われた方よ」


「ああヒガイシャの方ですね。なるほど、確かにベリィプリティジャパニーズガールでありんす。どうか以後オミシリオキヲ」

 そう言うと外国人は近づいてきて、わたしの手の甲にキスをした。


「ちょ、いきなりなにすんですか! マ、マザーこの人いったいなんなんですか?」


「あら紹介してなかったわね」マザーはあからさまに不機嫌になって言った。「その方はマイケル・ペトリー先生よ。ミュージックの講師をしていただきます。我が校は同時に二人の先生を失ってしまいましたからね。学院のコネクションを使ってアメリカのメイン州から来ていただきました」


「その通りデース。でもミス・カミラ、アッシのことはミッキーと呼んでクダサーイ。ネズミ小僧ジロキチと同じニックネームデース」

 そう言うとミッキー先生はHAHAHAと笑った。わたしにはそのネタの意味がわからなかった。


「ペトリー先生は日本の文化に興味を持って、映画やDVDで勉強したそうですよ。そして学生時代には我が学院に留学もしていたのです」


「oh! ジャパンの文化はスバらしいデース。時代劇とヤクザ映画は美意識のカタマリでアリマスヨ。ケン・タカクラはサムライでござります。それになんと言ってもジャパニーズガールデスネー。美しく清廉なクロカミ。オクユカシイ仕草はオリエンタルの芸術でアリマース。とくにアッシは及川ほたる殿が大好きでアリマス。彼女の映画はすべて拝見済みでゴザイマス」


「え、及川ほたるってわたしのお母さん……本名は小野不二子って言う……」


「What? なんですと? It's destiny! ホンマでっか! そう言われれば、どこか似ているでございますな。これは偶然と言う名の神のお導きでアリマス! あいや、待たれい……確か及川ほたる殿は数年前にお亡くなりになったのでは?」


「はい、わたしが小学校の頃に。父も亡くしているので、今は兄とお手伝いしてくれるおばさんと三人で暮らしています」


「oh……悲しみを乗り越えて生きてきたのデスネ。アナタに神のご加護がアリマスヨウニ。心配ナサラズニ、神は常にアナタと共にアリマスから。それにコレカラは、アッシも共にアリマス。アッシは28歳で独身でアリマス。今のところステディもいらっしゃいません。ぜひ仲良くしておくんなさいましな」


 そう言うとミッキー先生はわたしを抱擁し、子犬に対するように頭をなでてきた。なんとなく髪のにおいも嗅がれてた気がする。

 肩越しに見えたマザー神代の視線は憎しみがこもっていた。しかし申し訳ないが、わたしにはノーセンキューだ。なんというかミッキー先生の外人さん特有のにおいみたいなものが……遺伝子レベルで無理だったというか。

 それになんとなく胸騒ぎがしたのだ。

 このミッキー先生はまた何か新しいトラブルを運んできたんじゃないかと……  




 

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