親友と彼氏 2
私には好きな人がいる。
好きな人は、年下でーー親友の彼氏だ。
小金井時馬君と会ったのは、私が高校の頃。親友である雅紗菜と出会った時にまるで弟のように。ううん、舎弟というのが正解かも。
そんな彼女ととも彼は、私の元に現れた。
最初は、まったく興味がなかった。
でも気づいたら好きになってた。
私が若かったというのもあるけど、昔お父さんがハマっていたアニメのキャラクターも若さゆえの誤ちとかっていうし。
でも彼には紗菜がいる。
紗菜は、なんていうかポピュラーな言い方をすれば浮世絵から出てきた。そんな感じの日本美人だ。私には、まったくないものを持っていて。そして、彼女の持ってない物を私が持っている。
私が都会に出てきてまで仕事してるのは彼と一緒にいたかったからだ。元々は田舎のあの空気が好きだったけど、私はそれを捨ててまでも彼と一緒にいたかった。
そして、私は今の場所を手にいれた。
彼と半同棲のようなこの立ち位置に。
ポケットからカギを取りだし、彼の部屋のドアを開ける。その先には、彼の存在を感じるものでいっぱいだ。
「って、また部屋汚くして。まったく……」
男の部屋らしく読み途中の漫画が折り曲げる形で置かれていたり、脱ぎ散らかした服が畳まれずに置かれている。
いつも私がくるとこれだ。
時馬君には、私が異性だという印象ないんだろうか。それとも私ってもしかして、お母さんだと思われてるのかな。
私が彼の家にくるとまず最初にやるのは部屋の掃除。私はとりあえず洗濯物として脱ぎ散らかしていた服を洗濯袋に集め、漫画は本棚にしっかりと戻す。
そして本を少し漁る。
「あっ、また大人の雑誌買ってる」
それは、ある特定の年齢にしか買えない大人の雑誌。そこにはデカデカと女性が載っている。その女性の顔はどこか紗菜に似ているような気がする。
「本当に紗菜のこと好きなんだな……時馬君は」
私は、それを元の場所に戻す。
こんなに私は思っているけど、時馬君は一切気づいていない。その証拠に本に載っているのだって紗菜にそっくりの人だし。
「はぁ……。胃袋はしっかり掴んでるだけどな」
私は、料理の準備に入る。
ご飯の準備ができ、テレビを見ているとドアをガチャガチャと回すのが分かった。ドアが開け放たれ、そこにいたのは時馬君だった。
「あっ、おかえり~時馬君」
私は、笑顔でそれを迎えいれる。
まるで本当の夫婦のようだ。
「すみません、いつも」
時馬君は、苦笑いを浮かべながら感謝の言葉を私にかける。正直嬉しいのだろう。彼女のいる手前、本心は出せずにいると思うけど見え見えすぎる。
彼が私のご飯を食べておいしいと言ってくれる。
私はいつものとおりにそれを。
「ふふ~そうでしょ~」
嬉しそうに顔を笑顔にして、ビールを飲む。
私がビールを飲み始めているとごはんを食べ終わった時馬君はタバコを吸い始める。
「あっ、時馬君。タバコ吸ってる~」
私はそれをあえて指摘してみる。
「あっ。えっと美憂さんってタバコ駄目でしたっけ?」
タバコは匂いとかの面で正直苦手な部類だけど、好きな人がやっているものは特別何も感じない。それに吸っている姿は普段の印象と違って男らしくもあって私的には好印象だった。
「ううん、いつも平気じゃん。ちなみにそれって紗菜の影響?」
「そうですね、何かの話題作りになればと思って」
やっぱり、紗菜の影響だった。
こういう話をしていると時馬君がどれだけ紗菜のことが好きか分かる。
私は、それに少しだけイラつきを覚えて紗菜とのこれからについて触れる。
「紗菜と付き合って何年だっけ?」
「九年……ですかね?」
九年、それだけあれば紗菜のことを溺愛するのも分かる。私だって九年あれば時馬君と仲良くできれば結婚だって。
「そっか……なら次のステップにはいつ進むの?」
「次のステップ?」
「結婚だよ。紗菜だって待ってると思うけど」
それを言うと時馬君は、黙ってしまう。
顔は真剣な面持ちしており、暗い陰りを見せていた。
そして時馬君の目から涙がほろりとこぼれる。
「えっちょ時馬君?」
「どうかしたんですか?」
どうやら時馬君の悩んでいた部分を触れてしまったみたい。
時馬君を泣かせてしまった。
私は、時馬君の抱き寄せる。
「ほらお姉ちゃんの胸の中で泣いていいよ」
あえて酔っているように振る舞って彼が泣きやすいようにする。時馬君だって大人の男。泣かれてる姿なんて覚えていてほしくないだろうから。
私は、酔っているような勢いで時馬君に酒を飲ませる。だが、飲ませたあとに気づいた時馬君は酒に弱いのだ。
「なんか……眠くなってきました……」
ちょっとしか飲んでいないのに時馬君は、眠りについてしまう。
「ん~……このままだと風邪引くよ~?」
「ん……ん……」
体を揺さぶるが反応がない。
「仕方ないな」
時馬君の体を持ち上げ、ベッドに寝かせる。
ブブッ
私の体がびくりと跳ねる。
その音は、時馬君のスマホからだった。時馬君のスマホを勝手に見てみる。
発信者は紗菜だ。
『浮気してないよね?』
「浮気ね、私の目の黒い内はさせないって」
私は、時馬君を偽って返信するともとに合った場所に戻す。
寝息をたてて、寝ている時馬君に私はぼそっと呟く。
「ごめんね……私は嘘ついてる」
私は、時馬君のことを任されていると言っているけど本当は任されてなんかいない。しかもこんな半同棲なんて彼女が知ったら。
私は、自分の恋愛の為に親友を裏切った。
「紗菜……ごめんね……。でも私も好きだから」
時馬君のベッドに入り、抱きつく。彼の息が、顔にかかる。もっと近づけば彼の心臓の音まで感じれると思う。時馬君の温かみが心地よく毛布のように抱きつき私は、眠りについた。
男女間で思っていることは、全然違うというところを色濃くしていけたらと思います。