境遇。
__5月に咲く花。
園の入口に一台の真っ黒い車が停まった。
その車隣にある立派な大木から、ボンネットの上にふわりと葉が落ちる。
2週間ほど前まで、ひらひらと散っていた桜が姿を消したため、発色の良い緑色の葉だけが残っているだけだったからだ。
...あぁ、またか...
二階の窓から外を眺めていた美咲は、呆れたような、悲しいような、しかしそれだけでは無い気持ちになった。
__この子も自分と同じ。唯一の存在と離れた子。__
かわいそうだとは思わない。だが、同じ境遇だけに分かり合えるとは思う。
敵とか、見方とかそれとはまた違うのだけれど...。
この歳になって、美咲の心は複雑さを増していた。
この場所で、反抗期、思春期を過ごしてきたわけだが、それらが重なるともっと厄介な心になっていくのだと、自分の心なのに他人事のように思う。
既にルピナス園には、16人の子供が暮らしている。
下は3歳から、上は17歳まで。
兄姉弟妹(きょうだい)にしては多すぎる。
それに、いきなり此処に来た子に対して、俺のことはお兄ちゃんって呼んでな?とも言えるはずがない。
皆仲良しであるが、それとなく壁はある。
自分がそうであるように、踏み込ませない境界線が。




