風船を安全に割るために必要な針とセロハンテープがなかったから爪楊枝とマスキングテープで代用した結果wwww
「おい、風船割るぞ」
ピンクの風船にうさぎの顔を描いていた朝日に、小倉が言った。こんな口調だが、女子である。「マジカヨ」と返した朝日も、一応女子である。
盛況だった文化祭も終わりを迎え、今日は終日片づけの日だ。
準備期間はうまいことクラスメイトたちの目をかいくぐり、面倒な会場の設営やらの仕事から逃げ切った二人だったが、今日はそうはいかなった。
準備期間サボりにサボっていたことをクラスメイトたちにチクられ、担任の教師から今日は二人だけで会場を片づけなさいと命じられてしまったのだ。
なので現在、教室には小倉と朝日の二人だけである。他のクラスメイトたちは打ち上げに行ってしまったのである。とんでもない話である。
「なに?風船割んの?全部?」
「割んなきゃしょーがないでしょ。どーやって片す気だよてめぇ」
教室の床には、色とりどりの風船が自由気ままに転がっていた。文化祭当日、会場である教室の壁に飾られていたものたちだ。その数、およそ四十といったところか。
「えー、でも割る時バーン!!とかいったらやじゃん。私そういう音苦手」
「それな。じゃあクグれ。『風船安全に割る方法』とかで」
「おけ。ちょい待ち」
朝日がスマホを取り出す。先月買ったばかりだというそれは、既に細かな傷がいくつか刻まれていた。「だからカバーつけろって言ったでしょバカなの死ぬの」となめらかに罵る小倉をスルーし、朝日が検索結果を読み上げる。
「えーと……まず風船にセロハンテープを貼ります。そこを針など細いもので刺します。以上」
「え、それだけ」
「ああ。一気に空気が抜けなければいいらしい」
「なるほど。頭良ww」
さて実践してみよう、という流れだが、まぁ当然。
「で、針とセロハンは」
「あ?セロハンなんかその辺にあるだろよ」
「ないわwwもう生徒会に返しちゃったよ」
「マジカヨ。取って来いよお前」
「やだわ。我々生徒会に嫌われてるし」
「それな。じゃあ針は」
「知らん。あ、家庭科室から借りればよくね」
「取って来いよお前」
「やだわ。こないだ家庭科室の冷蔵庫にあったチーズ盗み食いしてしこたま怒られたばっかだし」
「死ねよお前ww」
朝日は飄々系クズである。そして小倉は人に言うだけ言って自分は行動しない系クズである。
「しょーがねーな。どする」
「あ、お前あれ持ってるじゃん」
「なによ」
朝日が小倉のスクールバッグを勝手に開けて探り始める。「ちょっと触らないでよブスハゲ死ね」とやっぱりなめらかに罵る小倉を華麗にスルーして、朝日があるものを取り出した。
「マスキングテープ~」
「今のドラ○もんの真似とか言ったら殺す。つかマスキングテープでやんのかよww」
「しょーがない。これしかないんだから」
「で、針は」
腕組みする小倉の前で、朝日が今度は自分のバッグから何かを取り出した。
「じゃん。爪楊枝ww」
「死ねwwなんで持ってんだよオヤジかよwwつか爪楊枝でやんのかよww」
「コンビニでついてくる割り箸に入ってるやつが残ってたわwwよし、準備は整った」
「整ってねぇよ。何一つ揃ってねぇよww」
「細かいこと言ってんじゃねーwwほれ、やるぞ」
この二人で、大体行動を起こすのはいつも朝日と決まっている。それになんだかんだ合わせるのが小倉である。
3㎝ほどのマスキングテープを、朝日が先ほどのピンクの風船に貼った。それを小倉に持たせ、自分は爪楊枝を構えた。
「あたしが持つのかよwwおいww」
「るせwwしっかり持ってろww」
「ちょっやだ怖い怖い怖い怖い!!」
途端にビビりだす小倉。風船を持っている左腕を目一杯伸ばし、自分の耳から少しでも遠ざけようとする。
「おいセコいぞてめー!」と抗議する朝日は、セロハンテープと違い表面がつるつるとはいえないマスキングテープに爪楊枝を刺すのに苦戦していて、左手で押さえながらやらなければならず、耳をふさぐことは出来ない。
「うおわおおおお、これめっちゃ刺しづらい!! ぜってー穴なんか開かねーって」
「早くしろww てかこれ絶対バァァンってなるだろww」
「音リアルに表現すんじゃねぇww ふひひひww」
「あー割れる! 絶対割れる今に割れる!! 割れ」
バァァァァン!!!
せっかくググったというのに、結局風船は派手な音を立てて二人の心臓を縮み上がらせた。
「ぶははははははww 意味ねーww」
「どーすんだよこれww 残りも全部この方法で割るか?ww」
「別にいいぜww 次こそもっと静かにやってみせる!!」
が、当然この二人でそんな上手いこと出来るはずもなく、十個ほど割ったところで担任が登場しうるさいから帰れと解雇通知を言い渡され、カラオケで朝日が「マルマルモ○モリ」を歌い小倉が踊り、今に至る。