第6話 旅の道中にて
第6話、投稿しました。今回は短いです。
それではどうぞ。
-ガサガサ…-
「キュロロロ…」
森の坂道にて、草むらから大きな赤いトカゲの姿をした魔物“サラマンダー”が姿を見せる。
サラマンダーは近くの木に実っているリンゴに気付き、素早く木に登って木の実に食らいつく。
再び地面に着地し、木の実を丸呑みしたその直後…
-ヒュン………ズガンッ!!-
「ギュロォ…!?」
突如、草むらから一本の長剣が飛び、サラマンダーの頭部に命中した。
『よし、命中っと』
ビクンビクンと動くサラマンダーの死骸を見て、草むらからヴェルザが姿を現す。サラマンダーの死骸の下まで向かい、刺さっている剣を抜く。
『これで、サラマンダーの肉も確保完了。栄養の高い木の実もさっき採取したし、今回はまぁこれで良しだな』
「ちっとも良くありませんわ」
ヴェルザに続いてリシェルも草むらから顔を出す。
「いちいち草むらに隠れながら食料確保だなんて……服は汚れるし、虫は寄って来るし、正直嫌になりますわ」
『仕方ないだろ? サラマンダーみたいな魔物は警戒心が強いから近付くと逃げちまうし、こうやって隠れながらじゃないと仕留められないんだよ』
「それなら、何で私まで付き合わされないとならないのかしら? あなた一人でも十分でしょうに」
『働かざる者は食うべからずだ、つべこべ言わずに手伝える事は手伝え。誰の為に食料確保してやってると思ってんだ』
「むぅ…」
リシェルは膨れっ面になるも、ヴェルザが言っている事はもっともである為、渋々従う事にした。
そこへ…
「「「グルルルルル…!!」」」
『…あん?』
「え?」
リシェルとヴェルザが振り返った先には、いつの間にか猟犬型の魔物“ハウンド”が群れを率いて出現していた。
サラマンダーの血のにおいを辿って来たようだ。
「ちょっと、向こう側から来ちゃいましたわよ!?」
『あ、そういやこの辺ハウンドも生息してたんだっけ。いや~失敗失敗』
「呑気に言ってる場合じゃありませんわ!? この状況どうしてくれますの!?」
『いやうん、それについては本当に困った。マジでどうしようか』
「何の対策も立ててませんでしたの!?」
「「「ガルルルッ!!」」」
二人が言い合っているうちに、痺れを切らしたハウンド達が一斉に襲い掛かる。
『さぁて、ちゃっちゃと撃退しましょうかねぇ』
「ギャワンッ!?」
「誰の所為でこうなったと思ってますの!?」
「ガルッ!?」
『…そういや誰の所為だ?』
「あなたの所為でしょうがぁっ!!!」
「ギャウン!?」
二人は漫才のようなやり取りをしつつ、迫って来るハウンドを一匹ずつ吹っ飛ばしていく。
『んん~…それにしても、さっきからキリ無いな。一片に終わらせる方法は無いかねぇ』
「本当に呑気な………一片に終わらせる…?」
愚痴を言いかけたリシェルは、自分等のいる場所を確認する。
左右には森、坂道を下る方向からはハウンドの群れ。
「…そうですわ」
『ん? まさか、何か思いついた?』
「そのまさかですわ♪」
何か思いついたのか、リシェルはヴェルザの真後ろに移動する。
『ん? いや待て、まさか俺に全部任せるとか言わんだろうな?』
「そう、よく気付きましたわね」
『おいおい、魔物退治まで人任せにするんじゃ…』
ここでヴェルザもハッと気付き、彼の兜がギギギとリシェルの方に向く。
リシェルは小さく黒い笑みを浮かべる。
「…あなた、昨日はよくも私を投げ飛ばしてくれましたわよねぇ? あの時の事、私は今でも根に持ってますわよ?」
『お、おい、待て。やめろ。そんな事したら今度はこっちが酷い目に…』
「そんなの、私の知った事じゃありませんわ」
リシェルは蹴りの構えを取り、カウントダウンを始める。
「3、2、1…」
『ま、待て!! あの件については本当にすまなかった!! ちゃんと謝る!! だからやめ―――』
「0」
-ゲシッ-
『…あ』
リシェルに思い切り背中を蹴られた事で、ヴェルザはバランスを崩し…
「それじゃ、行ってらっしゃいですわぁ~♪」
『小娘てめえええええええええええあああああああああああああああああああああああっ!!!??』
「「「ギャワワアアアアアアンッ!!?」」」
そのまま坂道を物凄い勢いで転がり出し、ハウンドを次々と跳ね飛ばして行くのだった。
「まぁ、とても楽しそうです事♪」
リシェルはこの色々な意味で悲惨と言える光景を、近くの岩に座って面白そうに眺めるのだった。
『くっそ、あのクソガキめぇ~…』
坂道を転がり切ったヴェルザは上半身から茂みに突っ込み、下半身だけが出ている状態だった。ちなみに残っていたハウンドは全て跳ね飛ばされ、全滅済みだ。
「まぁ、こんな所に突っ込んでいましたの」
何とか茂みから出てきたヴェルザの下に、傘を差したリシェルがサラマンダーの死骸を引き摺りながら歩いて来る。
『おいコラ、リシェル。よくもあの状況で蹴り転がしてくれたな』
「あら、おかげであの猟犬ちゃん達を撃退出来たのだから、ここは結果オーライとして見るべきじゃなくってよ? それに、おかげで次の街に辿り着けましたわ」
二人の目の前には、また別の小さな街の入り口があった。
『頭が落ちたらどうしてくれんだっつの!? たく……って、あれ?』
ここで、ヴェルザはある事に気付く。
『…頭が無い』
「へ?」
数秒間、二人は硬直する。
『「…………」』
『頭アアアアアアッ!? 俺の頭は何処に行ったんだあああああああああっ!!?』
大事な兜がなくなってしまい、ヴェルザは猛スピードで茂みの中を捜索し始めた。
「…いちいち大変ですのね、空っぽの体というのは」
その場に取り残されたリシェルは、取り敢えずそう呟くのだった。
その後、リシェルも兜探しに付き合わされる羽目になったのは言うまでもない。
次回から次の街での話になります。
それでは感想お待ちしてます。