第2話 素直にトンズラ
第2話、投稿しました。
それではどうぞ。
「ドラングさん!!」
酒場のドアがバンと開き、三人の男達が入ってきた。
「何の騒ぎだ? お前等には門番の仕事を任せたはずだが…」
「それどころじゃありません!! 門の前に、魔物が出たんです!!」
魔物が出たという報告に、ドラングは眉を顰める。
「魔物が出た…? そりゃどういう事だ。街の近くにまで魔物は出ねぇはずだぞ」
「そ、それが、黒い鎧の変な奴が門の前まで来て、魔物を引き寄せて来やがったんです!!」
「黒い鎧……まさか、帝国軍の兵士か!?」
そこへ…
「ドラングさん!! 大変です!!」
また別の手下がやって来た。
「今度は何だ!!」
「あの小娘を追ってたメンバーが、全員やられました!!」
「な…何だとぉっ!?」
噴水広場にて…
『ふぅん、あまり大した事なかったな』
甲冑は剣を鞘に納める。彼に挑んだ男達は全員斬り捨てられていたらしく、彼の周りにたくさん倒れている。
『そういえば、こいつ等いったい何…』
「く、そがあああぁぁっ!!」
『!』
まだやられていなかった男が一人、甲冑の後ろから斧を振り下ろそうとする。
『チッ、まだくたばって…』
-パカァンッ-
「おぐ…!?」
が、男は突然白目を向いて倒れた。
「油断禁物ですわよ?」
男達から奪った棍棒で、リシェルが後ろから殴ったのだ。
『…へぇ、やるなぁ』
甲冑は関心する。
「あなたですわね。黒い鎧の男というのは」
『黒い鎧……と言えばそうだろうな。で、お前は誰だ?』
「あら、名を聞く時は自分から名乗るものじゃなくって?」
『…まぁ、たしかに。じゃあ俺から名乗ろう。俺は…』
言いかけたところで、急に無言になる。
「…? 名乗りませんの?」
『…そういえば俺、なんて名前だっけ』
「…はぁ?」
甲冑の間抜けな発言に、リシェルは口がポカンと開く。
「自分の名前も忘れるなんて……あなた、そのボケ方はあまりにも重傷ですわよ?」
『うるせぇなぁ。忘れたものは忘れたんだよ、仕方無いだろ』
「普通、自分の名前まで忘れるような馬鹿はいませんわ」
『つまり俺は馬鹿と言いたいのか』
「それ以外に何か言葉がありますの?」
『馬鹿とは酷いな。こう見えて、俺のハートはとてつもなく脆いんだぞ? ガラス並だぞ?』
「それ、本気で言ってますの?」
『さぁねぇ。本気か冗談か、それはどっかの誰かさんの気分次第』
「ふざけないで貰えます?」
『俺は至って大真面目だ』
「…嘘ですわね」
『どうだかな』
「…もう良いですわ」
会話が長くなるとキリが無いと悟ったのか、リシェルは自分から会話を切る事にした。
「良いですわ。今回だけ、私の方から名乗ってあげますわ。感謝しなさい」
『あ~そりゃどうも』
甲冑も適当な礼を返す。
「…いちいち腹が立ちますけど、まぁ良いですわ」
リシェルはコホンと咳をする。
「私の名はリシェル。リシェル・ミア・ヴィクティオーレよ。きちんと脳内に留めておきなさい」
『えぇ~…名前長いし嫌だ』
甲冑はめんどくさそうに返事を返す。
「……なぎ倒してもよろしいかしら」
リシェルはこめかみがピクピク動く。
『大丈夫だって、リシェルって名前は覚えてるから』
「気安く下の名前で呼ばないでくれるかしら。いい加減にしないと本当に蹴り飛ばしますわよ」
『お~怖い怖い……けどさ、脳内に留めておけと言われても困るんだよな。俺には脳みそ無いし』
「…脳が無い?」
「そう。何せ俺、こんなだしさ」
「? それはどういう……ッ!?」
甲冑は自分の兜を取って見せ、リシェルはそれを見て驚愕する。
「中身が無い…!?」
『そういう事』
「…あなた、本当に何者ですの?」
『ん~そうだな……この際だ、俺の事も色々話してやる。ただし』
甲冑は再び剣を抜く。
『…場所を変える必要がありそうだ』
「え?」
リシェルが何の事かと思ったその時…
-ドスッ!!-
「!?」
彼女の顔の前を短剣が飛び、建物の壁に突き刺さる。
「いたぞ、あいつ等だ!!」
先程甲冑が倒した男達の仲間が、武器を持って二人に迫っていた。
「…たしかに、今は話してる場合じゃありませんわね」
『全く、本当に間の悪い連中だよ』
リシェルも傘を構え、二人は戦闘態勢に入る。
と、そこへ…
「おい、そこの二人!!」
『「!」』
「こっちだ、早く!!」
近くの路地裏からフードを被った少年が顔を出し、二人に呼びかける。
『…だとさ。どうする?』
「あんな連中、いちいち相手にしてたらキリがありませんわ」
『じゃあ決まりだな……素直にトンズラだ』
二人は戦闘態勢を解き、少年の跡を追うようにしてその場を撤退する。
「逃がすな!! 追えぇ!!」
男達も逃がすまいと、二人を追いかけ続けるのだった。
「何とか撒いたか…」
その後、二人は少年に連れられて建物の裏に隠れ、追手を振り切る事に成功した。
少年は追手が来てないか後方を確認した後、二人と向き合う。
「あんた達、怪我してないか?」
「私は問題ありませんわよ」
『俺もだ。俺の場合、怪我のしようが無いんだが』
「そうか。良かった…」
安心した少年はフードを取り、素顔を見せる。
「俺はシオン。この街で武器屋で、親父の手伝いをしていたんだ」
「武器屋を? 子供なのに、よくやりますわね」
リシェルが関心する中、甲冑はシオンの台詞に疑問を抱く。
『“していた”という事は……今は違うのか?』
「…うん」
シオンは元気の無い返答をする。
「あなた、この街で武器屋を手伝ってると言いましたわね。今、この街がどうなっているのかも知っているのね?」
「うん……この街から少し離れた場所にまた別の街があってさ。小さい街だけど、ここよりは安全だ。詳しい事はそこで話すよ」
シオンが歩き始める。
リシェルと甲冑も情報を入手する為、ひとまず彼に付いていく事にするのだった。
取り敢えず、二人がいる街の状況説明なんかは次回でやります。
というわけで今回はここまでです。
それでは感想、お待ちしてます。