串と団子と杯の補助金稼ぎ
沢木香穂里さんのお題、106.メール転送、128.延長コード、130.トラブル回避、139.補助金、141.明朗会計、でお話を作りました。
得意のSFで、そして「ダン教授とタカシ助手」のスピンオフです。
どうぞ、お楽しみくださいませ。
一、メール転送
「串先生、政府機関からFWメールが届いています」
美人秘書の玲子ちゃんは冷徹な声で、事実だけを串先生に伝えた。
「誰からだにゃん?」
串先生はにゃんにゃん言葉を使う、女性に対しては誰にでも。
「総務省極秘問題解決専門機関の『唯華』美人局長からです」
串先生はハッとした。
「にゃんだと! あの唯華ちゃんからのメールにゃんだと!」
串先生は慌てて玲子ちゃんに近寄り、玲子ちゃんの肩をぐいぐい押しながら画面を覗き込んだ。
「先生、辞めてください。セクハラで辞職させますよ」
「ごめんだにゃん。そんなつもりはないんだにゃん」
串先生はそう言いながらも、玲子ちゃんの身体に自分の身体をぐいぐいと押し付けて画面を無理矢理見入った。
差出:総務省極秘問題解決専門機関・コードネーム『唯華』
CC:串先生
CC:団子先生
CC:杯先生
件名:FW:内閣総理大臣特命・指令番号〇〇二三
本文:
内閣総理大臣より特命が下りました。以下のことをすぐに解決するように。
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内閣総理大臣 wrote:
国連・事務総長より直々に問題解決の要請があった。
総務省極秘問題解決専門機関は、直ちに問題の把握と解決に当たれ。
解決する問題とは、以下に記す通りだ。
国際宇宙観測機構がおとめ座銀河団の方向から不思議な電波をキャッチした。
それは水素波長で送られてきた特殊な暗号であることが解読された。
解読内容は次の通り。
この宇宙に棲息する、ありとあらゆる生命体に我々は信号を送る。
これは一種の警告だが、我々だけでなく全生命体に係る危険が迫っているのだ。
それは、この宇宙は確実に間違いなく、程なく終了するということだ。
しかしながら、この宇宙が終了するのを防ぐ方法がない訳ではない。
ある手段を講じればいいだけの話なのだが。
運良く、我々はその手段を発見することが出来た。
それは『延長コード』をこの宇宙に入力すればいいのだ。
宇宙背景放射の周波数で、その『延長コード』を宇宙の全方位に向かって送信するだけだ。
だが、我々はその延長コード自体を発見することが出来なかった。
宇宙を司る、どんな数学や物理法則でも解けなかったのだ。
何処の、どんな生命体でもいい、この『延長コード』を見つけてくれたまえ。
この宇宙の終了を止めてくれたまえ。
以上が、解読内容だ。
国連は各国にこの問題の解決を要請したようだ。
この宇宙を終わらせないで欲しい……というのは、あくまでも建前だ。
わが国の威信を掛けてこの問題を、いの一番に解決してくれたまえ。
中国は既に動き出しているぞ!
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という訳で、串センセと団子センセと杯センセのお三方、問題を解いてくださいませね。
よろぴくぅ。ちゅっ。
「にゃんだよぉ、唯華ちゃん。可愛い口ぶりでキツーイ問題を出すにゃん!」
メールを読んだ串先生はニヤニヤはしていたが、出来てきた言葉は冷たかった。
「出来ないにゃん。玲子ちゃん、そう書いてメールを返信しといてくれにゃん」
そう言い残すと、串先生は似合わないイタリア製のスーツを着込んで、夜のネオン街へと飛び出していった。
二、補助金
総務省極秘問題解決専門機関の『唯華』美人局長からこの問題での二度目のメールが来た時、串先生は団子先生と杯先生と多元映像電話で会議を開いた。
「僕はやりますよ。こんな美味しい補助金の話をされては後には引けませんよ。ねぇ、杯先生」
団子先生は、この問題を解決することに乗り気だった。
「補助金は確かに魅力的な話なんですが、解決に到りますかねぇ、この問題」
杯先生は、もう問題解決の予測に入っていた。
「串にゃんは全然乗り気じゃないにゃん! そりゃあ、補助金も欲しいにゃん! だけど、美人秘書の増員の方がもっと大切にゃん!」
「相変わらずエロエロですな、串先生は」
団子先生は半ば呆れた風だった。
「今回は、国連からも国からも、そしてダークマーケットからも要請があって、その補助金はいつもの十倍以上に増額されているんですよ。あんまり欲を出すと痛い目を見ますよ」
杯先生がやんわりと串先生を諌めた。
「分かったにゃん。成功報酬として、プラス秘書五人で我慢するにゃん」
串先生の画面には、団子先生と杯先生の呆れ顔がウインドウで表示されていた。
三、延長コード
それからすぐに、三人の先生による『延長コード』を探し出す思索が始まった。
「この世にある全ての数学とこの宇宙に存在する物理法則でないということだけはハッキリしている」
杯先生の言葉に、団子先生と串先生はうなずく。
「じゃ、何じゃろか?」
杯先生の問い掛けに団子先生と串先生は、吉本新喜劇のように椅子からずり落ちた。
「簡単なことじゃないだろうか?」
気を取り直して、団子先生が口走った。
「例えば?」
杯先生が返す。
「我々の文学とか」と団子先生。
「コピーとかフレーズとか、そんなものだと?」と杯先生。
「いやいや、そうじゃないな。日常生活の一部分かもしれない」
そう言って、団子先生は顎に手を当てて、まるでロダンの考える人のように固まってしまった。
杯先生も腕組みをしたまま、動かなくなってしまった。
ただ一人、好からぬ想像でアヘ顔だった串先生は頭の上で電球が光ったらしく、椅子から飛び出すように立ち上がった。
「分かったにゃん!『延長コード』は絶対にこれにゃん! 間違いないにゃん!」
そう言って、串先生はメモ帳に走り書きをした。
そのメモを見た団子先生と杯先生は首を傾げたが、やがて不思議な気持ちになってきた。
「そうかもしれないな」
「有り得ないこともない」
団子先生と杯先生は、自信満々で、満面の笑みで、仁王立ちしている串先生を見ているとそんな気がしてきたのだ。
「よし! それで入力するにゃん。国際宇宙観測機構にデータを送るにゃん」
四、トラブル回避
こうして、串先生が思い付いた『延長コード』を変換して国際宇宙観測機構に送り、ISS(国際宇宙ステーション)に設置された背景放射波長電波発信装置から放たれた。
数年後、国際宇宙観測機構によっておとめ座銀河団からの水素波長の電波を受信した。暗号を解読した内容は以下の通りだった。
我々の声が何処かの誰かに届いたようだ。
そして、背景放射で例の『延長コード』をこの宇宙に入力してくれたようだ。
よかった。
間に合った。
この宇宙はしばらく終わることは無くなった。
ありがとう。
本当にありがとう。
どうやら、この宇宙のトラブルは回避されたようだ。
国連もわが国も、そしてダークマーケットも安心して、彼ら三人に補助金という名目の報奨金を与えたのだった。
ただ、秘書五人の申請は認められなかったようだが。
五、明朗会計
「うふ。今日も朝から那美たんと同伴だにゃん。もちろんお店には一緒に入店して指名だにゃん。もちろん延長しまくりで、アフターはごにょ、ごにょ、ごにょ、だにゃん。ぐふふふ」
今日も串先生は、キャバクラ嬢の那美たんと一緒に一日を過ごすようだ。
串先生は秘書の増員が叶わなかったので、こうして補助金という名の報奨金をキャバクラに湯水のように注ぎ込んでいるのであった。
「だってにゃん、この宇宙もキャバクラに行ってたんじゃにゃぃか! 串にゃんは同じことをしてるだけにゃん!」
横にいた那美たんが色っぽく、串先生にしな垂れた。
「串にゃん、ちゃんとお金は払ってよね。『同伴・指名・延長・アフター』は明朗会計でお願いよ。ちゅっ」
ほっぺにキスをされた串先生はメロメロだった。
「分かってますにゃん。補助金はいっぱいあるにゃん。大丈夫だにゃん」
「あー、よかった」
串先生の腕をギュッと掴んだ那美たんは、ネオン街の自分のお店へと串先生を引っ張っていった。
その様子を後から観ている男が二人。
「あーぁ、あの店、ぼったくりなのに」と団子先生。
「余程、頭に来たんでしょうな。秘書五人が認められなかったのが」と杯先生。
だが、この串先生の行動がこの宇宙を救ったとは信じられないと、達観せざるを得ない二人であった。
そして、二人は声を合わせてつい呟いてしまった。
「まさか『延長コード』が、キャバクラの『同伴・指名・延長・アフター』だったとはね」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
くだらないエロオチで申し訳ござらん。
それでも面白いと言ってくれたら嬉しいぞぉ。