第1話 退屈な朝
今日もまた同じ朝がやってきた。
いつもの事だけど、だるい。
私はピンクの布団を敷いたベッドの上で携帯を見る。
今日はまだ誰からもメールがきてない。
もう10時なのに…。
今日はバイトもない。
いつも週に5回位でファーストフードの店で働いてるけど、特に楽しくもない。
同じ店に彼氏がいる。
みんなはいつも一緒に居れていいね、なんて言うけど別にそんな事はなく、ただうざい。
私が顔を洗いに行こうとベッドから立ち上がると携帯が鳴った。携帯には
「直樹」
と表示されている。彼氏だ。(めんどくさいなぁ…)私はそう思いながら電話にでた。
「もしもし…?」
寝起きというのもあって、テンションが上がらない。でも直樹は元気だった。
「もっし〜?!愛花?今日休みだよな?」
「ん…。休みだけど…?」
正直、うざかった。
別に直樹の事を嫌いな訳ではないけど、もう付き合って1年になるし、バイトで毎日の様に会ってるんだから、休みの日位はそっとしてて欲しいと思う。
私ももう22才にもなる。
いい加減、学生のように無邪気な恋愛も疲れる。
「んじゃぁさあ、今から遊ばねぇ?俺、超ヒマなんだけど。」
直樹のこういうところがあまり好きじゃない。
いつも強引で、私の都合とか聞いてくれない。
「ごめん、今日はお母さんと約束してるから。また今度にしよ?」
「マジィ?何、愛花ってお母さんと仲良かったったっけ?!てか、最近休みん時、あんま会ってないじゃん。お前、他に男でもいんじゃねぇの?」
直樹のその言葉にカチンときた。
「バカじゃねぇの?!私はてめぇと違うよ!ふざけんな!」
私はそう言うと、直樹の言葉も待たずに携帯をきった。
なんであんな男と付き合ってんだろう…。
答えは顔がいいから、ただそれだけ。
ハッキリ言ってあいつは自己チューでワガママだし、自惚れてる。
付き合う前は凄い優しくて、結構いい奴なんて思った私がバカだった。
それなら別れなよ、て友達に言われるけど、そんな話をするのもめんどくさい。
なんとか自然消滅を狙ってるんだけど、なんかしつこく連絡してくる。
他に好きな人が居る訳でもないから暇つぶしに会ってやるのがいけないのかな、とも思う。
今度はメールが入ってきた。また直樹だ。
『なに怒ってんの?冗談で言ったのくらい分かんねぇの?』
分かる訳ねぇじゃん。こいつ、マジでムカつく。
私は携帯をベッドに投げ出すと自分の部屋を出た。
親がクソ高いマンションを去年買って、今こうして住んでる。
お父さんがなんとかっていう、まぁまぁ有名な食品メーカーの社長だから、見栄の為に買ったんだろうけど。
とりあえず歯も磨いて、リビングに行ってみる。
お母さんがソファーに座って雑誌をよんでいる。
直樹にお母さんと約束があると言ったけど、全くの嘘。
お母さんは私に気が付くと、雑誌を閉じてこちらを見た。
「おはよう。今日バイトは?」
お母さんは優しく微笑む。
「ん…。今日は休み。ね、お腹すいた。なんかある?」
私はそう言いながらキッチンに行く。お母さんが後を追うように来た。
「サンドイッチがあるけど、それでいい?」
「あぁ、食べれればなんでもいいよ。」
「座って待ってなさい。」
お母さんは冷蔵庫をゴソゴソしながら言った。
私は言われるままにリビングの椅子に座る。私はふとベランダに目をやった。
凄くいい天気…。外にでも出かけようかな…。
お母さんがだしてくれたサンドイッチを食べると、私は着替える為に自分の部屋へと戻った。
さて、今日はどの服を着ようかな。
クローゼットを覗いた。
私はお姉系の服装が好きで、そんな服ばかり揃えている。
先に化粧するか…。
ベッドにもたれるように座り込むと、携帯のランプがチカチカしているのが目に入った。
「また直樹かな…。」
携帯を見ると着信が2件入ってる。
ちょっとしか部屋出てないのに、誰からだろ?履歴を見ると見知らぬ名前が表示された。
「はっ?何、これ。こんな名前登録してないし!」
そこには『ドリームタイム』なんていうベタな名前が表示されてる。
私は携帯のアドレス帳の『た行』を見た。
「マジ…?」
しっかり登録されてる。
しかも電話番号は123456とか、また訳分かんないし。
私はこれから始まる事も知らずに直樹に電話をかけた。