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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

初恋照らしマッチ

作者: 区隅 憲
掲載日:2026/04/12

「なぁところでお前ら、初恋の相手っているか?」


 修学旅行の夜の部屋、B班の孝はいきなりそんな台詞を切り出した。


「なんだよ急に? お前女子かよ」


 B班の他の3人の仲間たちが孝をからかうように笑う。


「いやだってさ、俺、今日偶然露店のばあさんから買ったんだよ。『初恋照らしマッチ』。そのマッチを目の前でかざしたら、そいつの初恋相手の姿が浮かびあがるって」


「なんだそれ? 少女マンガの見すぎなんじゃねぇの?」


「んなホラ話吹くって、お前恋してる相手でもいんのか?」


「ち、ちげーよ! たまたま面白そうだから買っただけだし」


 孝は顔を真っ赤にして否定する。


「と、とにかくさ、せっかくだしみんなもやってみようぜ。お前らにも初恋相手ぐらいいるだろ?」


「ええ~、どうせ詐欺だろ? そんな魔法みたいなもんあるわけねぇだろ」


「やってみなきゃわかんないだろ!? つべこべ言わずに、まずお前から」


「めんどくせぇ奴だなぁ……」


 孝は仲間の一人の友行にマッチを渡す。

友行はだるそうな顔でマッチを擦ると、ボワッと火がついた。


「なんだよ。やっぱ何も起こらねぇじゃねぇか」


「いやよく見ろ。何か火の形が変わりはじめたぞ」


 B班の4人が炎を見つめていると、その光はどんどん大きくなっていく。

そして光の中に、ウサギの耳を生やしたアニメキャラクターが浮かび上がった。


「うわっ、これペコちゃんじゃねぇか! 女児アニメに出てくる!」


 仲間の一人の海人が驚いて声をあげる。


「うわぁマジかよ……そのマッチ、マジで魔法のアイテムだったのか。てか女児アニメのキャラが初恋とかキモくね?」


「う、うるせーな! いいだろ人が何を好きになろうが!」


 友行は大声で仲間たちに言い返した。


「だってペコちゃん可愛いだろ! いっつも元気に飛び回ってて。友達想いだし、頑張り屋だし。変身衣装だってあれデザインするのに1ヶ月は議論したって言われてる傑作なんだぞ! 映画の動員数だって今年でトップ3に入ってるし。お前らペコちゃんのすごさ全然わかってねぇよ!」


「うわぁ……キモオタ丸出しの早口だな」


「うるせーよ! んなこと言うならお前もマッチつけてみろよ!」


 友行は海人の腕に強引にマッチの箱を押しつける。


「ええ~、俺ぇ? 別に恋してる相手とかいねぇんだけどぉ?」


 海人はぼやきながら、マッチの火をつけて目の前にかざす。

すると火の光がどんどん強くなり、中年の女性の姿がボワンと浮かんだ。


「おい、これお前の母ちゃんじゃねぇか! 母ちゃんに惚れてるとかお前のほうがきめぇよ!」


 友行はここぞとばかりに反撃に出る。

海人は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


「が、ガキの頃の話だよ! 俺、幼稚園ぐらいの頃、一人で寝るのが怖くてママと一緒に寝てもらってたんだよ。そしたらなんか、落ち着いてきて、心臓がなんかドキドキしてきて」


「うわぁ……生粋のマザコンかよぉ。話が生々しくてマジで引くわぁ」


 友行は汚らわしいものでも見たかのように、大げさに眉をひそめる。


「女児アニメ好きのお前に言われたくねぇよ! ほら、俺のことはもういいから、大樹! 次はお前やれよ!」


 すると大樹はビクッと肩を震わせた。

そういえば、と孝は気づく。『初恋照らしマッチ』の話をしてから、大樹は一言も会話に参加していない。


「本当に、やるのか?」


「ああそうだよ! 俺と友行だけやるなんて不公平だろ! お前もやれ!」


「……わかったよ」


 大樹はどこか思い悩む表情を浮かべながら、受け取ったマッチの火をつける。

すると火の光はどんどん強くなり、そこには孝の姿が浮かび上がった。


「……えっ?」


 思わず孝は、片眉をひくつかせて声を失ってしまう。

しかし孝を見る大樹の目は熱っぽく、どこかキラキラと輝いていた。


「孝……実は俺、ずっと前からお前のことが好きだったんだ」


 決して冗談ではない真剣な眼差しを大樹は孝にぶつける。


「好きだ! 孝、俺と付き合ってくれ!」


「「「ええぇっ!?」」」


 大樹の他の三人は、驚きの声を上げて絶句する。

まさか、世の中に本当にホモがいたとは……。

そんなことより、孝はいきなりシリアスな窮地に立たされる。


「いや、だって……。俺はそういう趣味ないし」


「今どき恋愛に性別なんて関係ないだろ? 一度付き合えば、孝の考えも変わるはずだ」


「そ、そんなこと言われてもなぁ……」


 本気の目を向ける大樹に孝はほとほと困り果ててしまった。

こんなにマジで迫られたら、からかう空気にもなれない。


「だったら、孝は今好きな人はいるか? もしいるなら、俺も潔く諦めるよ」


 大樹は少し譲歩する姿勢を見せ、乗りだした体を後ろに下げる。

追い詰められた孝は、「もうこうなったら……」という気持ちで渋々と頷く。


「……わかったよ。じゃあ言うよ。俺、好きな人いるから」


「そ、そうなのか孝……さっきは『ちげーよ』って言ってなかったか?」


「あれは反射的に言っちまっただけだよ。んじゃあ、こっちにマッチ渡してくれ」


 半ばショックを受けている大樹から初恋照らしマッチを受け取り、孝は火をつける。

すると火の光がどんどん大きくなり、そして一人の老婆の姿が浮かび上がった。


「「「誰だこのばあさん?」」」


 その姿を見て、三人は一斉にぽかんと口を開ける。

孝は頬をかきながら、そっぽを向いて答えた。


「今日露店でマッチを売ってたばあさんだよ。俺、熟女専なんだ」

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