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【6】★

「……海なら川、春なら冬、子なら親と、連なる物語と前置きしたな」


 博士はゆらりと立ち上がる。


「あれが、君の父親の物語だというのなら……君は、銀河特急鉄道(エクスプレス)小惑星群衝突災害の生還者なのか?」


 喘ぐように問う。だが、すぐにかぶりを振り、


「いや、もう四十年以上前の災害だ、若すぎる。どう見たって君は二十半ばだ、ありえない」

「言ったでしょう、私は博士が思っているよりも若くないと」


 混乱した博士に、子どもに諭すように言う。

 いや、だが、しかし、博士はひとりごち、ハッとしたように水玉パジャマの上衣を着て、釦を留め、白衣を羽織る。そうして〈宇宙の缶詰〉の床に、膝をついた。


「申し訳ない! 俺を、俺たちを、恨んでいるだろう」


 銀色に染まった後頭部が眼下にさらされた。元エリオ青年は、銀河特急鉄道(エクスプレス)小惑星群衝突災害において自責の念を感じている。銀河の最果て、絡み合った三人の恋情がゆえ、意図的に見逃された災害。むしろ人災と呼ぶべきか。

 だが、博士の土下座など、別段、見たかった光景ではない。肩に触れて顔を上げさせる。


「幸いというべきか、私には事故時から父の元に帰るまでの記憶がありません」

「だが、君──サンの人生をめちゃくちゃにした」


 サン。その名で呼ばれると未だ心が跳ねる。歓喜か、嫌悪か、動揺か、それとも。


「君の父上、ヨダカ氏にも謝らねばならない。こんな言い方はなんだが、間に合って良かった。できるだけの見舞金を」


 私は首を横に振る。父は亡くなり、久しい。地球を離れ星から星へ旅をするこの生業に就いたのも、それが理由の一つだった。

 ああ、と博士は呻く。


「では、ヨダカ氏の分も、サン、君に」


 私は続けて首を振り、


「私の名は〝サン〟ではありません。それは兄の名です」


 前髪を掻き分けて、さらけ出す。傷の無い(・・・・)額を。さらしながらも、博士の瞠目が痛かった。

 髪を戻し、傍らに置いてあったトランクを開けて、二つの缶詰を取り出した。


「大きい方には私が兄へ向けて書いた手紙が入っています。小さい方には、かつて私宛に届いた〈缶詰〉が。この中には見舞いの手紙が同封されていました」


 博士はわけがわからないという表情で未だ膝をついていた。むべなるかな。

 私は彼と向き合って立っている。だから、私からは博士背後の上方にある、私たちが落とされた貯留穴(ピット)の投入口がよく見えた。小さい〈缶詰〉を掲げて語る。


「差出人のない〈缶詰〉で、父が亡くなる少し前に届きました。

 内容はこうです──自分は貴方を救助して一時的に世話していた医療従事者である。名乗るつもりはないが、その後の具合がどうか気になり、手紙をしたためた。大変な災害に巻き込まれたが、どうか死んだ者の分まで、第二の人生を歩んでほしい、と。

 この手の励ましは度々受け取っており、とっておくほどのものではありません。大災害の、しかもその数年後に帰還した奇跡の人というふうにメディアに取り沙汰されていましたから」


 投入口から人影が私たちを見下ろしていた。黒づくめで判別しにくかったが、濡れているのか銀の輪郭が光って姿を追える。また害鳥の追い払いに出掛けていたのだろうか。何やら両腕いっぱいに抱え持っている。


「……末尾に、災害の怪我を処置するついでに額の古傷に傷消し(スカーエイジング)を施したと、さも親切を装い書き添えられていなければ」


 私はもう一度トランクを開け、大部分の容量を占める荷を取り出す。


「あれは、あなたが送った〈宇宙の缶詰〉ですね、魔女──アイランド。それとも〈星翔ける魔女(メリッサ)〉とお呼びするべきでしょうか」


 投入口に向かって彼女の本名を呼び掛ける。


「父からかねがね聞いていました。黒バラ咲き乱れる、ちっぽけな惑星の魔女と鳥の話を」


 返事はない。


「私の名前はダーシュ。〝星語りのダーシュ〟と申します」


 今更の自己紹介ではあったが、これは表明でもある。


「〈星休み〉だけの短い付き合い、必要はないと仰っていましたが、私とあなたは〈缶詰〉を通してずっと長い付き合いをしているはず」


 トランクから取り出した父の形見──猟銃を差し向ける。


「あなたは私の兄の仇です」


 私は親譲りではない無器用で、射撃の腕も悪い。父は私のあまりの無器用さに、家業である猟師にするのを諦めた。

 だから、引き金を引いて弾が当たるかどうかは、星のめぐりに委ねるのみだった。


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