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六語り、〈鳥と魔女と密猟者〉5(終)

 弔いはごく簡素なものだった。

 薔薇園に穴を掘り、青年から鳥に戻った身を横たえ、土を被せ、柔らかな花びらを降らせるだけ。夜明け前に全て済んでしまうほどの。


 一度小屋に戻った老女が次に姿を現した時には、旅支度を整えていた。

 黒いコートに、黒い帽子に、黒い手袋。ますます魔女然とした格好に、ぱんぱんに膨らんだボストンバックを提げて。


「旅に出ようと思ってね」

 ――前々から誘われていたけど、踏ん切りつかなくて。


 誰に、とは訊ねない。わかりきったことだから。

 船で送ると言えば、彼女は首を横に振る。旅は慣れたもので、自分も小型艇を所有しているから、と。


「あの子は群れのリーダーで、ずっと群れを率いて働いてね。怪我をして廃転送門に入り込んじまって、あたしの惑星に墜ちたのが運の尽きさ」


 あんたと同じさね、そう軽口めく彼女に居たたまれなくなる。


「アイランド、俺は、」

「どこか落ち着いたら手紙を流すよ。住所を教えておくれ」

 

 謝罪か、懺悔か、言い訳か。口を開こうとした俺を制し、彼女はそんなことを言い出す。

 手紙なんて意外なものを持ち出したのは、彼女なりのいたわりだったのか。俺は差し出されたペンとメモを受け取り、アドレスを書いた。

 そして、ちっぽけな惑星を後にして、二度と訪れはしなかった。



 自宅に戻った俺が受け取ったのは、施設から病院に移動した親父の容態急変の連絡だった。

 駆け付けたものの、俺に何ができるわけでもなく、また親父も明瞭な意識がなく、一月後に死んだ。

 これで本当に、俺には何も無くなってしまった。ヨダカなんて変な名前を付けやがってと、稀少宇宙生物を手土産に詰ることもできない。

 古い手紙(メール)を頼りに訃報を出せば、意外にも猟師仲間の十数名が集まってくれた。親父と同世代で、今にも星になっちまいそうな爺さんばかりだったが。

 弔いは夜更けには宴となり、酌をして、零れた酒を拭き、酔い潰れた老人らに毛布を掛ける。と、その内の一人から声を掛けられた。


「倅も猟師だったなあ。なあ、あんた、儂の孫連中を仕込んでくれんか。自分で教えてやろうにも、身体がついてゆかん」


 俺は、息子と同年代の若者相手に教師の真似事をすることになる。死んでからの親父を介して。


 それから十年、独り身だったが、忙しく、賑やかな日々を過ごした。

 ふいに俺はあのちっぽけな惑星を思い出す。こんなことを考えるのはどうかと思うが、もしかしたら一羽と一人に担がれていたのではないかと。群れのリーダーを返せと迫いかけてきた鳥たちを撒くための狂言。ぱんぱんだったボストンバックの大きさはちょうど一羽の白鷺が入る大きさではなかったか――もちろん、願望だ。



 そしてある日、俺は再び病院から連絡を受け、とある病室を訪れた。

〝あなた宛ての〈宇宙の缶詰〉が届きました、すぐ当院に来て下さい〟――いまいち要領が掴めず、何故、病院なのかもわからないまま。

 職員に案内された個室には、一人の男が横たわっていた。あちこち凹み傷つき、旅経た貫禄のある缶詰を腹の辺りに抱えている。彼がわざわざ届けてくれたらしい。

 男の顔を覗き込み、息を呑む。歳の頃は、三十半ば。いやもっと老け見える。痩せこけ、倦み果て、瞳は虚ろ、だが。


「俺の息子(サン)?」


 俺の知っている息子とは全然違う、そうであっても血の繋がりがないかもしれない、けれどサンに違いなかった。

 職員が早口で喚き立てる――急にお呼び立てしてごめんなさい、まさかあの災害の生存者が見つかるとは、私共もどのように対応すべきか混乱して、なにせ彼は――続きは、俺の耳に届かない。

 名を呼ぶが、サンは困ったふうな、泣きそうな、ひどく心細げな表情を浮かべる。


「……ごめんなさい。何も覚えてないんです。あなたが誰なのか、わからない」


 咄嗟、俺はサンの額に手を伸ばし――ふれる前に下ろす。

 これがどんな魔法か、わからないが。

 まずは、応えるべきだった。寄る辺なく、この上なくひとりぽっちの老青年に。


「俺の名はヨダカ。俺は、お前の――」

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