白を終わらせる夜
抱きしめられたまま、リュシアンはしばらく動けなかった。
アルヴェインの腕は強くて、でも震えていた。
「どこにも行くな」
低く繰り返す。
「俺のそばにいろ」
もう白い距離はない。
リュシアンはそっと、彼の背に腕を回した。
「……行きません」
小さく答える。
アルヴェインの喉が鳴る。
狼の尻尾が大きく揺れた。
「番契約を結びたい」
まっすぐな告白。
逃げ場はない。
でも、逃げる理由もない。
「俺は、子供が欲しい」
視線が絡む。
「お前との子が」
胸が熱くなる。
ずっと誤解していた言葉。
ずっと聞きたかった言葉。
リュシアンは涙を拭い、うなずいた。
「……俺も、欲しいです」
その瞬間、空気が変わる。
魔力が共鳴する。
狐と狼の紋章が、床に浮かび上がった。
これは白い契約ではない。
番契約。
互いの魔力を重ね、生涯を誓う儀式。
アルヴェインはリュシアンの手を取る。
大きな手が、指を絡める。
「もう、遠慮しない」
低い声。
「もう、臆病にならない」
額を合わせる。
魔力が溶け合う。
温かい光が二人を包む。
白ではなく、淡い金。
狼の魔力は強く、包み込むよう。
狐の魔力は柔らかく、絡みつくよう。
やがて、首筋に熱が走る。
番の印が刻まれる。
痛みは一瞬。
すぐに甘い熱へ変わる。
アルヴェインが息を呑む。
「……綺麗だ」
リュシアンの首に浮かぶ紋章を、指でなぞる。
今度はリュシアンが、彼の首に触れる。
同じ印。
同じ証。
完全な番。
アルヴェインはそのまま、深く口づけた。
今までのような軽いものではない。
確かめるように、奪うように。
でも乱暴ではない。
大切に、何度も。
リュシアンの背に手が回る。
離さないとでも言うように。
「ずっと欲しかった」
低い囁き。
「触れたかった」
今まで抑えていた感情が溢れる。
リュシアンの尻尾が震える。
アルヴェインはそれを見て、少しだけ笑う。
「……可愛い」
スパダリの余裕が戻る。
だが瞳は熱い。
寝台へ導かれる。
優しく、でも確実に。
白い結婚の夜とは違う。
これは、愛の夜。
アルヴェインは何度も名前を呼ぶ。
「リュシアン」
そのたびに、胸が満たされる。
丁寧に触れられる。
大事にされる。
急がない。
焦らない。
溺愛そのもの。
「怖くないか」
確認する声。
リュシアンは首を振る。
「あなたなら」
その一言で、理性が崩れる。
狼の独占欲があらわになる。
でも最後まで優しい。
何度もキスを落とし、何度も愛を囁く。
「愛している」
「愛している」
夜は深く、甘く、溶けるように続いた。
そして朝。
リュシアンはアルヴェインの腕の中で目を覚ます。
離れていない。
抱きしめられたまま。
「……逃げないな」
寝ぼけた声。
「逃げません」
そう答えると、満足そうに目を細める。
狼の尻尾と狐の尻尾が絡まっている。
これが、本当の夫婦。
白は終わった。
未来が始まる。
アルヴェインはそっと、腹に手を置いた。
「ここに、いつか宿る」
静かな声。
「俺たちの子が」
リュシアンはその手に、自分の手を重ねた。
温かい。
確かな未来。




