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12/13

狼は静かに、獲物を逃さない

それは、シエルが一歳を迎えた夜のことだった。


ようやく寝かしつけが終わり、屋敷は静か。


リュシアンは窓辺で月を見ていた。


「綺麗ですね」


背後から腕が回る。


重くて、安心する重み。


アルヴェインだ。


「冷える」


言いながら、肩に毛布をかける。


相変わらず過保護。


だが今日は少し違った。


静かだ。


いつもの勢いがない。


「……どうしました?」


振り返ると、金の瞳がまっすぐ見てくる。


逃げ場がない。


「話がある」


真面目な声。


「第二子について」


直球。


リュシアンの頬が熱くなる。


「早くないですか」


「早くない」


即答。


だが以前のような暴走ではない。


落ち着いている。


それが逆に怖い。


「俺は欲しい」


ゆっくりと言葉を選ぶ。


「シエルが笑うたびに思う」


一歩近づく。


「お前が命を懸けてくれたあの日から、俺はずっと考えていた」


指がそっと頬に触れる。


「お前の負担になるなら、我慢するつもりだった」


リュシアンは目を見開く。


「でも」


低い声。


「本音を言えば、欲しい」


嘘のない瞳。


欲望も、愛も、全部隠さない。


「お前との子を、もう一人」


強引じゃない。


選択を委ねてくる。


そこがずるい。


「俺は待つ」


額を合わせる。


「お前が望むなら、いくらでも」


リュシアンの胸がいっぱいになる。


「……あなたは」


ずっと、優しい。


白い結婚だと思っていた頃から。


誤解していただけ。


「私も」


小さく言う。


アルヴェインの瞳が揺れる。


「欲しいです」


沈黙。


次の瞬間、強く抱きしめられる。


「後悔はさせない」


低く誓う。


「前よりもっと、大切にする」


「十分すぎます」


「足りない」


即答。


狼の尻尾がゆっくり揺れる。


狩人の余裕。


「今日は、月が綺麗だ」


耳元で囁く。


「番を呼ぶ夜だ」


声が甘い。


以前よりも、深い。


焦りではなく、確信の熱。


リュシアンは彼の胸に手を置く。


鼓動が早い。


「理性はありますか」


「ある」


少し笑う。


「だが、使わない」


ずるい。


唇が重なる。


優しく、でも確実に熱を帯びる。


抱き上げられる。


寝室へ。


今度は不安も誤解もない。


あるのは、互いを知り尽くした夫婦の余裕。


「愛している」


何度も。


「知っています」


答えるたび、熱が増す。


夜は静かに深まる。


窓の外、月が見守る。


白から始まった物語は、


今や自ら望む未来へ進む。


そして数ヶ月後。


リュシアンは、再び腹に手を当てて微笑むことになる。


狼は、今度こそ冷静に――


なれるはずがなかった。

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