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プロローグ

はじめまして。

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。


本作は、政略結婚から始まる、少し不器用で、とても優しい愛の物語です。


「白い結婚」と呼ばれる関係。

想いを伝えられないまま、すれ違う二人。

愛しているのに、愛されていないと信じ込んでしまう心。


けれど本当は、

言葉にしなかっただけで、

ずっと最初から両想いだった――


そんな物語を書きたいと思いました。


さらに今回は、

悲しみの果てに五歳児に戻ってしまうという、少し不思議な奇跡を織り交ぜています。


大人の理性がなくなったときに見える、本当の気持ち。

隠していた優しさ。

触れたかった温もり。


そして、家族になるということ。


強くて完璧な狼の夫が、

たった二文字の「ぱぱ」で崩れ落ちる姿も、

きっと楽しんでいただけるはずです。


これは、

白から始まり、

溺れるほどの愛に染まっていく物語。


どうか最後まで、

二人とその小さな奇跡を見守ってください。

白い契約


白い花が、静かに床へ落ちた。


魔法契約陣が淡く輝き、狐族と狼族の紋章が絡み合う。


これは祝福ではない。

ただの契約だ。


「本日より、両家の安定と利益のため、婚姻契約を結ぶ」


淡々と読み上げられる誓約文。

感情の入らない声音。


リュシアン・フェルノは、白い衣を握りしめた。


視線の先には、夫となる男。


アルヴェイン・グレイウルフ。


灰色の狼耳、鋭い金の瞳。

高身長で端正な顔立ち。

冷静沈着で、誰よりも強く、誰よりも完璧だと噂される名門当主。


そして――


自分には、想い人がいると囁かれている男。


「……」


胸が痛い。


ずっと昔から好きだった。


初めて会ったのは十六のとき。

雨の日、転びそうになった自分を抱きとめてくれた。


あの時の手の温かさを、ずっと忘れられなかった。


けれど。


これは政略結婚。


彼は家のために結婚する。

自分はただの“都合のいい相手”。


「……白い契約であることを、双方確認済みとする」


白い結婚。


番契約は結ばない。

子を成さない。

夫婦の義務は果たさない。


形式上の夫婦。


それが今日からの関係。


「異議はあるか」


問われる。


リュシアンは小さく首を振った。


あるはずがない。


愛しているなんて、言えるわけがない。


アルヴェインの声が低く響く。


「……異議はない」


その一言が、刃のように胸を裂いた。


契約陣が光り、白い光が二人を包む。


それは温かくない。


ただ静かな、無機質な光だった。


式はあっさりと終わった。


祝宴も最小限。

必要な挨拶だけ済ませ、夜は更けていく。


そして。


新居となる狼族邸の一室。


用意された寝室は、ふたつあった。


「……部屋は分けた」


アルヴェインはそれだけ言った。


責めるでもなく、冷たくもなく。

ただ事務的に。


「白い契約だ。無理をさせるつもりはない」


優しい。


優しすぎる。


だから余計に苦しい。


「……ありがとうございます」


笑ったつもりだった。


うまく笑えていただろうか。


アルヴェインは一瞬、何か言いかけて――やめた。


その沈黙が怖い。


自分ではない誰かを想っているのだと、思ってしまう。


「困ったことがあれば言え」


「はい」


「……体は冷やすな」


それだけ言って、彼は背を向けた。


広い背中。


強い狼の尻尾が静かに揺れる。


ああ。


やっぱり、かっこいい。


好きだ。


ずっと、好きだった。


でも。


自分は彼の“本命”ではない。


部屋の扉が閉まる音がやけに大きく響いた。


ひとりきり。


白い寝台に腰を下ろす。


静かな部屋。


広すぎる空間。


これが、白い結婚。


涙がこぼれる。


泣く資格なんてないのに。


選ばれただけでも幸運なのに。


「……子供、好きなんだけどな」


ぽつりと零れた本音。


小さな狐耳が、しょんぼりと伏せる。


アルヴェインは子供が嫌いだと聞いた。


だから番契約は望まないのだと。


だから自分は、何も望まない。


愛されなくてもいい。

そばにいられるだけでいい。


そう思ったはずなのに。


胸が痛い。


痛くて、苦しくて。


「……好きなのに」


声にならない。


そのまま、涙に濡れたまま眠りに落ちた。


知らなかった。


この夜が、すべての始まりになるなんて。


魔力は感情に呼応する。


そして狐族は、ときに強く願いすぎると


“姿を変える”。


翌朝。


目を覚ましたリュシアンは、


自分の手が、ひどく小さくなっていることに気づく。


そして悲鳴を上げるのだった。

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