第9話:神々、渋谷に降り立つ 〜全知全能VSハチ公前と警察官〜
天界での「ジャガー」に飽き足らなくなった神々。アストラはついに、禁断の呪文を唱えた。
「皆さん、百聞は一見に如かずです。私たちの愛する『娯楽』の源泉、人間界へ【オフ会遠征】しましょう!」
アストラが指を鳴らすと、神々の視界は一転した。
そこは、平日の午後、狂乱のスクランブル交差点――東京・渋谷。
「な……何だ、この情報量の暴力は……!」
知恵の神ソフィオスが、巨大ビジョンの広告と雑踏のノイズに圧倒され、演算エラーを起こして棒立ちになる。その時、信号を無視して突っ込んできた大型トラックが、フリーズしたソフィオスを正面から撥ね飛ばした。
凄まじい衝撃音。周囲から悲鳴が上がる。
だが、ソフィオスは
「……ふむ、摩擦係数と衝撃分散の計算が間に合わなかったな」
と呟きながら、立ち上がった。トラックのフロントガラスは粉砕し、車体はひしゃげているが、ソフィオスは膝を少し擦りむいただけだった。
「……あわわ、ソフィオス様! 大丈夫ですか? 人間界の乗り物は、神の身体より脆いんですから気をつけてください!」
アストラは慌てて、持っていたタピオカミルクティーを救急隊員の代わりにソフィオスの膝にぶちまけた。
一方、軍神マルスはパチンコ店『GAIA』の奥底で、血走った目で台と格闘していた。
「なぜだ! 全知全能の私が、この台の確率を計算し尽くしているのに、なぜ一玉も入らん! これは……敵の策謀か!」
怒り狂ったマルスが、全知全能の拳でパチンコ台を殴りつけた。
ドゴォォォォン! 強化ガラスが粉砕し、基盤が火を吹く。
「……お、お客さん!? 何してんの! 警察呼んで!」
店員の絶叫。数分後、マルスは駆けつけた警察官二人に両脇を抱えられ、パトカーへと連行されていった。
「離せ! 私は軍神だ! この鉄の箱の中に潜む魔物を退治しただけだぞ!」
(ちょ……マルス、まじ逮捕ワロタ。パトカーって、ある意味VIP送迎車じゃね? 映えるわー。てかゼウス様も、そろそろ『現場』の空気、吸っちゃう系?)
ゼウスは、高級ブランドのスーツを完璧に着こなし、ハチ公前で腕を組んで仁王立ちしていた。
そこに、一人の疲れ果てた表情のオタク――アニメショップの袋を大量に抱えた男が、タナトスに話しかけてきた。
「……あの、それ。限定版のめろんちゃん缶バッジですよね? どこで手に入れたんですか……? 今日のイベント、始発でも無理だったのに」
タナトスは、無表情のまま、その男を凝視した。
「……天界の、概念生成だ。だが、お前。その袋の中にある『初期設定資料集』……3ページの衣装の配色について、一言あるのではないか?」
「えっ、わかります!? あの配色、公式はミスだって言ってますけど、僕はあれこそが彼女の『心の闇』を表現してると思うんです!」
「……同感だ。不完全な彩色こそが、真の美……」
沈黙の主と、名もなきオタク。二人の間に、神も人間も超越した「熱量」が芽生え、彼らはそのまま道玄坂のルノアールへと消えていった。
ゼウスは、取り残された。
(は? マジ? みんな自由すぎん? マルスは警察、タナトスはオフ会、アストラは……ハチ公の鼻にタピオカ詰めてるし。ゼウス様、完全においてけぼり案件なんですけど! 威厳、どこに捨てればいいの!?)
そこに、さっきのソフィオスの事故を目撃していた野次馬のギャルが、ゼウスにスマホを向けた。
「え、待って。あの事故で無傷だったおじさんの連れ? マジ、ヤバくない? 動画撮っていい? ティックトッカー?」
ゼウスは、ピクリと眉を動かした。
「……撮影、だと。余の神性を、その小箱に収めるというのか」
(キターーーー! 撮影チャンス! ここで『事故で無傷の仲間を持つ、謎の超絶イケメン紳士』としてバズれば、まじで渋谷の王確定っしょ!)
「……許そう。だが、加工は最小限にせよ。余は、無加工こそが至高であるからな」
何やかんやありましたが、軍神マルスは警察の方に連れていかれました!




