第8話:聖域のドッグ・ボールと、咆哮するギャル神
ゼウス様はもちろん男神です!
あのおしくらまんじゅうの夜から、天界には「物理的なぶつかり合い」を求める筋肉痛の余韻が漂っていた。
そんな神々の前に、アストラは今度は「武器」を並べた。
「皆さん、今日はドイツが生んだ、野性と知性のマッシュアップ……『ジャガー』で遊びましょう!」
並べられたのは、クッションで覆われた剣やメイス、チェーンのついた球など、禍々しいが安全な武器。そして中央には、犬の頭を模したゴム製のボール――通称『ドッグ(犬)』が転がっている。
「ルールは単純。一人のランナーが『ドッグ』を奪い合い、敵陣のゴール(杭)に突き刺すだけ。ただし、他のメンバーは武器で敵を叩き、一時的に退場させることができます。つまり、『全力で殴り合いながら行う玉入れ』です」
「……殴り合いだと? 我が武勇が、ついに正当に評価される時が来たか!」
軍神マルスが、クッション製の巨大なメイスを振り回し、狂喜の咆哮を上げた。
ゼウスは、威厳たっぷりに審判の席に座り、雷光を静かに纏わせた。
「……野蛮なり。だが、力の均衡を確認するには、丁度良い余興となろう」
(え、まじ!? なにこれ、中世ファンタジーのガチバトじゃん! 武器とか超アガるんですけど! てか、あの犬の頭のやつ、超キモカワで映える! ゼウス様、実はこれ、ランナーやって目立ちたい系なんですけど! センター、ワンチャン狙っていい?)
試合開始。
マルスとタナトスが激しく武器を交え、神々の放つ衝撃波が天界の雲を散らす。全知全能の彼らは、敵の攻撃を0.1秒単位で読み切るが、ジャガー特有の「四方八方から飛んでくるチェーン(不規則なノイズ)」に翻弄される。
「予測できん! あのチェーン、物理法則を無視した軌道で動いているぞ!」
知恵の神ソフィオスが、チェーンに足を絡められて派手に転倒する。
「ソフィオス様、それが『ジャガー』の不条理です! 効率では防げない、カオスを受け入れてください!」
アストラは応援席から、またもやコーヒーを足元の審判台――ゼウスの膝元にぶちまけた。
「……っ、アストラ。無礼であろう」
(ちょ、アストラ! ゼウス様の膝、ビショビショなんですけど! でも、この温かさが試合の熱気とシンクロして、まじパねぇ! テンション、もう限界突破なんだけど!)
試合は膠着状態。ランナーがゴール目前で叩かれ、ドッグが宙を舞う。
その時、ゼウスがついに立ち上がった。
「……見るに耐えん。余が、真の『道』を示してやろう」
ゼウスは審判席を蹴り、神速でフィールドの中央へ降り立った。
(はい、きたーーー! 主役登場! 威厳モードは維持しつつ、内心は超ノリノリでドッグ、ゴールにブチ込むから見てて! 全員、ゼウス様の美技に震えろ!)
ゼウスは武器すら持たず、素手で飛来するチェーンを弾き飛ばし、転がるドッグを掴み取った。
全神々が彼を止めようと殺到するが、ゼウスはしなやかなステップでそれらを回避する。その動きは、まるでクラブのフロアで踊るギャルのように軽やかだ。
「……道を、開けよ」
(うっわ、今の台詞、我ながら超クール! 痺れる! エモい! ゴールまであと三歩、これ、決めたらマジで天界のトレンド1位確定っしょ!)
ドッ! と、ゼウスがドッグを敵陣の杭に突き刺した。
瞬間、天界に雷鳴が轟き、神々の歓声が爆発した。
「最高神様……! なんという、なんという野性味溢れるゴールだ!」
タナトスがペンライトを二刀流で振り、マルスが悔しそうに盾を叩く。
ゼウスは、乱れた法衣を整え、再び威厳ある表情で皆を見渡した。
「……騒がしい。だが、この『ジャガー』。……ドイツの民の知恵、認めざるを得んな」
(ふぅ〜〜、まじ疲れたけど、超楽しかった! 全知全能とか忘れて、泥臭く走るの、まじ神。アストラ、マジありがとね! 次はもっと、こう……みんなでコスプレしてやるやつとか、どう?)
アストラは、空になったコーヒーカップを振りながら、満足げに笑った。
「最高神様、次は『ジャガーをコスプレ姿でやる』という、さらなるノイズの導入ですね? 承知しました!」
「……そのようなことは申しておらん」
(え、アストラ、心読める系!? 超能力者!? まじウケるんですけど!)
天界の「面白さ」は、もはや制御不能な加速を始めていた。
もちろん実在するスポーツです!




