第7話:威厳とギャルの竹馬(ばえ)と、おしくらまんじゅうの熱波
天界の広場に、最高神ゼウスの雷光が轟いた。
その威圧感は、泥だらけでベーゴマを回していた神々を、一瞬で凍り付かせた。
「……何たる様相か」
ゼウスは、声量一つで大気を震わせ、周囲の遊び道具を消滅させかねないほどの絶対的な「静」を放つ。
彼の視線は、アストラが差し出した竹馬へと向けられた。
(まじか、竹馬とか、ちょー懐かしみなんですけど? ゼウス様、実はこれ、ガチ勢なんですけど!? 昔、隠れて練習してたの、マジ秘密案件ね?)
アストラは、竹馬を差し出したまま、無邪気に首を傾げた。
「ほら、最高神様も。これ、すごく体幹に効きますよ。神として、威厳を保つためにも、足腰は大事です」
「……愚弄か」
ゼウスは雷を収め、ゆっくりと竹馬を手に取った。
その瞬間、彼の背後で、マルスが「うおおっ! 最高神様もついに!?」と興奮で叫び、タナトスは「めろんちゃんカラーのペンライト」を、サイリウムのように振って応援し始めた。
(やっべ! 超見られてるし! でもここでマジ乗り見せたら、まじ卍っしょ? 神々の前で、ガチの神技披露しちゃう系?)
ゼウスは、深々と息を吸い込んだ。
その威厳ある姿は、まるでオリンピックの開会式で聖火ランナーがトーチを掲げるかのようだ。
「……見せてやる。真の『重心の支配者』が、いかなるものかを」
彼は一本の竹馬に、ゆっくりと片足を乗せた。
その動作は、まるで世界の始まりを告げるかの如く、荘厳で、重々しい。
(はぁ〜〜〜〜〜ん、まじ緊張なんだけど! ここでグラついたら、まじダサいし、神格下がっちゃうやつ。でも、このスリリングさが、エモい! これぞ、映え! 尊い!)
ゼウスの体が、竹馬の上で微動だにしない。
一歩。
二歩。
その歩みは、まるで無限の宇宙を悠然と闊歩するかのようだった。
「おおおおおおお!!!」
神々から歓声が上がる。タナトスはペンライトを光速で振り回し、ソフィオスは「計算された無駄の究極形だ!」と叫び、興奮で鼻血を出していた。
「……フン。これぞ、完璧な平衡。貴様らの遊びなど、余に言わせれば未熟」
(ぶっちゃけ、余裕っしょ? 竹馬とか、マジ余裕なんだが? もっとヤバイ系の遊びないの? もっと盛れるやつとか、神々がキャーキャー言うやつとか、まじ求。)
その時、アストラがまたもや派手に躓き、持っていた「おしくらまんじゅう」と書かれた風呂敷包みをゼウスの足元に落とした。
「あわわ! 竹馬の罰ゲーム、これでしたね! 最高神様、負けたら一晩中、私たちとおしくらまんじゅうですよ!」
ゼウスの足が、ピタリと止まった。
「……おし……くら……まんじゅう?」
(は? まじか? おしくらまんじゅうとか、マジで!? え、それって密着系? ぎゅーってするやつ? 神々とまじ近距離で絡む系? やば! それ、まじでヤバいんですけど! 超絶、映えじゃん!!)
しかし、彼の口から出た言葉は、いつもの威厳に満ちたものだった。
「……愚劣。神たる者が、そんな未熟な遊びに興じるとでも思うか」
(いやいやいや! まじでやりたいんですけど!? てか、やりたいがすぎるんですけど!? でもここで「やりたい」とか言っちゃったら、まじで威厳がパカパカ崩れるし、マジ無理ゲー。てか、早く誰か「やりましょう」とか言ってきてくんない? 強制的に参加させられたい系!)
その瞬間、マルスが吼えた。
「最高神様! 全知全能の我々が、一晩中身を寄せ合う! その非効率な『熱量』こそが、真の調和を生み出すはずです!」
「そうだ! 神々の身体性を極めるのだ!」
ソフィオスも、鼻血を拭いながら叫んだ。
ゼウスは、チラリとアストラを見た。
アストラは、満面の笑みで、おしくらまんじゅうの円陣を組み始めていた。
(やった! マジでやった!! マルスのやつ、まじグッジョブ! サンキューな、マルス! 今度、なんか奢ってやるわ! いやまじでテンション爆上げなんだけど! この、流れ弾に当たった感、最高かよ! これが、映え! これが、エモいってやつ!)
「……フン。貴様らの熱意が、そこまで余を誘うというのならば……やむを得まい」
ゼウスは雷光を消し、威厳を保ったまま、しかしその口元にはわずかな笑みを浮かべ、円陣の真ん中に身を投じた。
「おっしー、くらまんじゅう! 押されて、へこんで、まんじゅうー!」
天界の広場に、神々の熱気と、奇妙な歌声が響き渡った。
それは、最高神すらも巻き込んだ、究極の【不調和の解消】であり、新たな「調和」の始まりだった。




