第18話:深淵のレアメタルと技巧の女神 〜実体経済(リアル)への帰還〜
し‥ご‥とが‥が‥が
現実スワイプ!スワイプ!
「うめぇ……。なんだこれ、生きてるって感じがする……ッ!」
ツバサが深淵の怪物の刺身を貪り食い、野生に目覚めていたその傍らで。
軍神マルスは、怪物の巨大な胴体を解体するべく、その分厚い腹(胃袋)に刃を突き立てていた。
「よし、一番厄介な胃袋を切り開くぞ! 消化液に気をつけろ!」
ズバァァァッ!
マルスが一刀両断した胃袋から、消化途中の魚の骨などに混じって、真っ黒でゴツゴツとした無数の岩塊が滝のように転がり落ちた。
ゴロゴロ、ガランッ! と、ただの石とは思えない重厚な金属音が天界の大理石を叩く。
「……ん? なんだこの石ころ。怪物の胃石か?」
ツバサが、口の周りを血で汚したまま、ソフトボール大の黒い塊を拾い上げた。
「……うわっ、重ッ! 見た目より全然ずっしりしてる」
その時、ヒョウ柄ステテコ姿の知恵の神ソフィオスの目の色が変わった。
彼はツバサの手から黒い塊をひったくり、全知全能の眼で瞬時に成分を演算した。
「……馬鹿な。これは……『マンガン団塊』……いや、さらに希少な深海底の熱水鉱床でしか生成されない、超高純度の『多金属塊』だ!」
ソフィオスは、普段の冷静さを失い、黒い塊を抱きしめて早口でまくし立てた。
「見ろ、この断面! ニッケル、コバルト、さらには最新鋭の半導体やバッテリーに不可欠なレアメタル(希少金属)とレアアースの結晶だ! 人間界の企業が、深海数千メートルの過酷な環境からこれを採掘しようと、天文学的なコストをかけているというのに……!」
「えっ、レアメタル!? それって、スマホとか電気自動車に入ってる超高い金属っすよね!?」
ツバサも目の色を変えた。
「その通りだ。これが株式市場に流出すれば、資源セクターの勢力図が根底から覆る。現物資産としての価値、そして投資市場へのインパクト……凄まじいこと(パラダイムシフト)になるぞ!」
ソフィオスは、頭の中で株価チャートの暴騰をシミュレーションし、ヒョウ柄の膝を震わせて歓喜した。
「あはははは! ソフィオスの言う通り! こいつは最高の『素材』だね!!」
突然、天界の空からカンカンカンッ! と小気味よい金属音が響き渡り、一人の女神が豪快に飛び降りてきた。
彼女は、純白の法衣の上に、煤で汚れた耐熱エプロンと大量の工具が刺さったツールベルトを巻き、手には巨大な鍛冶屋のハンマーを握っている。
技巧と創造の女神・テクネである。
「おっ、テクネ! 良いところに来たな。私の知恵と、君の技巧が試される最高の資源が手に入ったぞ!」
ソフィオスが、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように、彼女とハイタッチを交わした。
「匂いでわかったよ、ソフィ! 深海の圧倒的な水圧で何億年もかけて圧縮されたレアメタルの匂い! それに、この怪物の『骨』! チタン合金を凌駕する引張強度と軽さ……たまんないね!」
テクネは、マルスが解体した怪物の骨とレアメタルを撫で回し、満面の笑みを浮かべた。彼女とソフィオスは、天界における「理系(STEM)のオタクコンビ」として非常に仲が良いのだ。
「えっ、女神様なんすか!? 完全にガテン系の職人じゃないですか!」
ツバサが驚くのも無理はない。彼女のゴーグルの下からは、モノづくりへの狂気にも似た情熱が溢れていた。
「人間! あんた、これの価値がわかるかい?」
テクネは、ハンマーでレアメタルの塊を軽く叩いた。キィン! と澄んだ音が響く。
「動画の再生数なんてのは、サーバーの電源が落ちれば消える『幻』だ。でも、この金属は違う。燃やしても、叩いても、その質量と価値は絶対に消えない。これこそが、本物の『資産(現物)』さ!」
ツバサはハッとした。
(……そうだ。俺は今まで、実体のない『いいね』ばかり集めて安心していた。でも、目の前にあるこの黒い石ころは、世界中の企業が血眼になって探してる『本物の価値』だ……!)
「テクネ、すぐに炉の準備を。この深海レアメタルと骨を融合させれば、人間界の科学力を数世紀は飛び越えるプロダクトが創れるはずだ!」
ソフィオスが、空中に光の数式(設計図)を描き出す。
「任せな! あんたの完璧な設計図を、私のハンマーで『現実』に叩き落としてやるよ!」
テクネは、何もない空間から超高温の「神の炉」を召喚し、怪物の骨とレアメタルを次々と放り込んだ。
灼熱の炎と、火花。
ソフィオスの指示のもと、テクネのハンマーがリズミカルに振り下ろされる。
カーン! カーン! カーン!
知恵(理論)と技巧(実践)の完璧なコラボレーション。
数分後。
「……できたよ。あんたの新しい『相棒』だ」
テクネが冷却液から引き上げ、ツバサに投げ渡したもの。
それは、深海のレアメタルで鍛え上げられた漆黒の刀身と、怪物の骨を削り出して作られたグリップを持つ、『究極のサバイバルナイフ』だった。
「うおっ……! なにこれ、吸い付くように手に馴染む……! しかも、刃先からとんでもないオーラが……!」
ツバサがナイフを握った瞬間、その圧倒的な「モノとしての重み(実体)」が、彼の中から最後のデジタルへの未練を完全に断ち切った。
「ツバサ。そのナイフは絶対に刃こぼれしない。これからは、スマホのカメラ越しに世界を見るのはやめな。そのナイフで、自分の手で世界を切り開くんだ!」
テクネが、煤けた顔でウィンクをした。
「……はい! 俺、もうフォロワーの数なんてどうでもいいっす! このナイフ一本で、リアルな世界を生き抜いてみせます!!」
インフルエンサー・ツバサは完全に死に、己の腕と実体経済を信じる『野生の開拓者・ツバサ』が誕生した瞬間だった。
天界だけどレアアース‥他に何か良い言葉が出れば変更します!




